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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第44話 大変な龍騒ぎ #2

 巨龍が襲来したのは、二週間と少し前である。


 時刻は昼間であった。正午過ぎに、街の一角が急に夜になった。


 それは、飛来した巨龍の体躯と翼によって、太陽の光が遮られたからだったが。

 巨龍は壁の外、大地に降り立つと、放牧されている牛馬を爪裂き、捕食し始めた。

 この頃に、緊急事態発生が告げられ、軍隊が兵士長の指示のもとで行動を開始する。


 まずは市壁の上から、大量の矢が射掛けられた。

 それに反応した巨龍は、家畜の補食を止め、市壁に向かって進んできた。

 まるで子供が積木で作った家を蹴散らすように、巨龍は市壁を造作もなく破壊し、都へと侵入してきた。


 次に巨龍は壁の内側目がけ、火炎を吐いた。

 それは煉瓦を溶かし、勢いだけで木造の家を吹き飛ばした。

 軍隊と行動を共にしていた教会の修道女が、防御魔法を駆使して、なんとか被害を最小限に押し止めた。


 さらにその修道女は、目眩ましのための魔法を使用した。

 閃光に目を貫かれた巨龍は大量の矢で攻撃された。そののち、けたたましく咆哮ほうこうすると、どこかへ向かって飛び去っていった――ということらしい。


「聖女さん、すごいなぁ」


 僕が呟くと、魔王が首をぐるりと回して、訊いてきた。


「ただ者ではないな。なにものだそいつは? お前の知り合いか?」

「ええ。前回の旅の時に、僕にもいろいろ魔法とかについて教えてくれた、この都最大の教会を実質的に仕切っている、修道士さんですよ。シスターさんとか、聖女さんって言われてます。魔法とか、剣気の応用とか、結界とか、そういう知識が豊富で。すごい人ですよ。小さい頃からの知り合いでもあります。僕は子供の頃から、父と出稽古にこの街にはよく来てて。その時から知り合いで、よく遊んでくれました」

「ふうん……。なんか、胡散臭いな、そいつ……」


 魔王は首を捻っていた。なにかを思い出そうとしているような仕草だ。


「魔王さんと相性いいと思いますよ。お肉とか甘いものとかお酒とか好きですし。煙草をバカバカ吸うのが玉に瑕ですけど」

「修道士ではないのか、そいつ……。破戒僧か?」


 ますます首を捻る魔王だった。

 だが、死人のひとりも出ていない、ということが、これで腑に落ちた。

 魔法の達人である聖女が守ってくれたのだ。この都にあの人がいてくれてよかった。

 それから、魔王は首長に言った。


「確認しておきたいが。そうもあっさり、あの市壁を破壊してきたのか? こう……空を飛び、滑空し、全力の体当たりとかではなく?」

「いえ。のしのしと進むと、そのままドカン、という感じです。豆腐かなにかのように、まるで障害と思っていないくらいの様子で、あっさりと」

「豆腐か。プリンのほうが好みだが」

「どうでもいいですよそんなの」


 僕は魔王を制すると、首長に訊ねた。


「龍って、どれくらいの大きさですか? 壁よりも大きいとか?」

「ええ。背を丸めていて、壁から頭が飛び出ているくらいでしたから、三十メートルはあったでしょうか。伸ばして尻尾まで入れれば、そうですねぇ、五十メートルはあるんじゃないでしょうか」

「うわぁ……」


 僕は絶句するしかなかった。魔王を見る。


「どうしましょう。デカすぎますよ、そんなの」

「うむ、デカすぎるな。首長よ、龍はどちらへ飛び去った?」

「海の方角です。『潮騒しおさい孤島ことう』のほうへ」

「『潮騒の孤島』とは?」

「人は住んでいない、島とは名ばかりの岩礁というか……巨大な岩が波に削られ、島のようになった場所があるんです。古くから、神聖な場所と言い伝えられ、禁漁区なので漁師も近寄らない。そんな場所でございます」

「ふうむ。いかにもなロケーションだな……」


 魔王が呟く。

 本当にいかにもだなぁ、と僕も思っていた。


「まさか。その神聖な孤島には、古くからの神の使いとしての巨龍が眠っていて。で、たとえば……近くで禁を破って漁なんかした漁師さんがいたりして、それで怒りを買ってしまって……とか。そういうことだったりして」


 魔王が、しかめっ面で僕を見上げてくる。

 魔王のように、人の心を読んだように振る舞うことはできない僕だが、その顔にははっきりとこう書いてあるのが分かった――『お前の言うことは変に当たるのだから、余計なことを言うんじゃない』


 と。首長が顎を撫でながら言った。


「そういえば……。三週間ほど前でしょうか。『潮騒の孤島』近くで行方不明になってしまった漁師がいたとか。数日で戻ってきたんですが、戻ってからはなにもものを喋れなくなってしまったとか、そんな話が……入ってきていましたね」

「むうう……。どこまでも、おあつらえ向きな……」


 魔王が呻く。が、すぐに気を取り直して、僕を見上げてくる。


「小僧。とりあえず、方針は決まったな。この都にも、図書館はあろう。その孤島についての伝説や、神の使いの伝説など、そういうものを調べるぞ。巨龍についての手がかりが、なにか得られるとみた」

「はい。あとは、その漁師さんから、お話も聞かないといけませんね」

「うむ。それと、戦力になるかもしれぬし、その聖女とやらにも会おう」


 とんとん拍子に、やることは決まっていく。

 この城塞都市の市壁よりも大きな龍なんて、およそまともに戦えるような相手ではなさそうだが。今はこうして、地道に情報収集に徹するべきだろう。見えてくる事情もあるかもしれない。


 僕と魔王は首長邸をあとにすると、早速情報収集を始め――

 ようとしたのだが、今度こそデカ盛りの誘惑に抗えなくなっていた魔王に付き合って、まずは甘味屋に入ることにしたのだった。


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