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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第43話 大変な龍騒ぎ #1

 僕と魔王は馬車を降り、東の都の門番に挨拶して、入都の許可を得た。門番の人は僕の前回の訪問のときと変わらない人で、僕のことを覚えていてくれた。

 だから顔パスでいい、と言われたのだが、ちゃんと書類を見せて、手続きをする。


 それからは、僕と魔王は早速、街の中には入らず、市壁伝いに歩いて、龍の破壊痕を見に向かった。

 やや離れた場所に、僕たちは立ち止まって壁の穴を見上げる。


「うーむ……。近くで見ると、とんでもないな。隕石でも落ちたのか」

「ええ……。なんてハイパワーな龍なんでしょうか」


 少々の現実逃避が含まれた、僕と魔王の呟きだった。


「勝てますかねぇ。魔王さんなら、勝てます?」

「どうであろうかな。先手を取れたならば殺すことはできるであろうが。これほどのパワーを受け止めるということは、あまり考えたくはないな。私とやった時の小僧であっても、この龍相手では少々、手こずるであろう?」

「そうですね。僕も、先手を打って攻撃できるなら、やれると思いますけど。こんなパワーで暴れられたら、打つ手を考えるのが大変そうです」

「であれば、討伐のプランは決まりだな。逃げ去っていったという龍を見つけ、寝込みを襲うしかあるまい。この都の首長や兵士長とやらから、情報の収集だな」

「ですねぇ」


 僕は魔王に頷いた。ちょっと卑怯かもしれないが、手段を選べる敵には思えない。


 賛成する理由は、もうひとつあった。

 最悪なのは、この都を戦場にしてしまう、ということだろう。


 たとえば、龍がこの都をまた襲ってきて、それを準備を整えた僕たちで迎撃するとして。

 その時に、僕たちが優勢になったとしても――龍に大怪我や、致命傷を負わせたとしても――きっと龍は、死に物狂いになって暴れ回ることになるだろう。


 そうなってしまえば、壁や建物だけでなく、民のみんなの命も危ない。

 勝ったとしても、ただでは済まない。


 それを思うと、いくら卑怯でも、魔王のプランに賛同せざるを得なかった。


「で、小僧。大事な話がある」


 いきなり神妙に、魔王が重い声で、僕に訊ねてくる。


「……なんです?」


 僕も、緊張して訊き返した。

 すると魔王はその声音のまま、先を告げた。


「この街は……なにが旨いんだ? 首長に会った後は、メシの時間だぞ」


 僕はずっこけた。どこまでもいつも通りだ、この魔王は。

 緊張して損したと思いながら、僕は答えた。


「大体、なんでもおいしいですよ。港の街ではないですけど、東の海が近いから。そっちの漁村から魚介が運ばれてきますし。兵士さんは身体が資本だから、安くて大盛りのお店とかがたくさん、あったりしますよ。あ、そうだ。一抱えくらいはありそうなシュークリームとか、バケツサイズのプリンとか。そういう……いわゆるデカ盛りっていうんですか? そういうお店が有名ですね」

「ほう、ほう……」


 魔王は興味津々に頷いている。


「質より量。そういうのも、やぶさかではないぞ。腹八分目など、弱者の理屈よ。真の強者、真の邪悪とは深夜に甘味をドカ食いしてこそ名乗れるのだ。一日しこたま業務に追われた後、甘味を腹が破裂しそうなほど喰らい、寝る。そうすることこそ、真の邪悪!」

「はあ」

「ついてくるがいい、小僧よ。罪過に彩られし糖分が、どれほどよこしまな輝きでもって人心を惑わすのか教えてやる。勇者たるお前が決して知り得ぬであろう、邪悪なる覇道の一端というものを覗かせてやるわ!」


 できることなら、知らない方がよさそうな道だなと思ったが。

 妙に魔王が楽しそうなので、興味はちょっとある。


 あとは、魔王城のワンオペ業務というのは、想像を絶するストレスと闘いながらの千年間だったのだなぁ、というのが伝わってくるので、今は好きなだけ好きなものを食べてほしいなとは思う。


 もうひとつ言えば、魔王の食い意地を見るのが、結構楽しいというのもある。


 最近は食べものへの欲を丸出しにして、僕にあれが食べたいこれが食べたいとせびるようになってきた。

 一緒に行動を開始した頃は、なにも食べなかったくらいなのに。まさに文字通り『猫を被っていた』んだな、と思うとおかしくなる。


 西の都ではケンカもしたけれど、それ以降、お互いにいい意味で、遠慮もなくなってきたな、と感じていた。ここまでの馬車の中でもそうだったけれど、お互い、気持ちに素直なやり取りができている。


 このまま、魔王ともっと仲良くなれたらいいな――心から、そう思う。


 のしのしと進み始めた魔王について、僕は歩き始めた。

 まず向かうのは、首長邸だ。挨拶をして、事情を聞かないといけない。


 だが、道中にある『十人前チョコレートパフェ』とか『特大チーズタルト』とか、そういう甘味屋ののぼりを見るたびに魔王は足を止めるので、進むのに時間がかかっている。


「見ろ、小僧。三十分以内に完食でタダだと。この魔王に対して挑戦するとは、不遜な輩だ。食ってやろうぞ」

「はいはい。後にしましょ、後にね」

「あっちは巨大お好み焼きだぞ。ふん、粉ものであれば完食は難しいであろうなどと、姑息な考えよな。早速打ち砕いてやろうぞ」

「はいはい。首長さんに会ってから、やっつけましょうね」


 こんな調子が続くものだから、僕は終盤、魔王を抱えて移動していた。

 おかげで、首長邸にもその部屋にも魔王を抱えて入ることになったが。

 首長は特に訝しむこともなく、僕たちを見て頭を下げる。


「お待ちしておりました、勇者さま。この街を襲った出来事については、もうすでに、そのお耳に入っているかとは存じますが」


 椅子を勧められて、僕は魔王を抱えたまま座る。


「はい、伺っています。なんでも、巨大な龍によって襲撃されたとか。西の都の結界を張るための作業があって、参上が遅れてしまい、申し訳ありません」

「いえ、西の都は我が王国の玄関であり要衝。なれば、第一に結界が優先されるのは、私ども都の首長たちは承知の上です。そして我々東の都は、対魔物のための軍を所有する、有事の際に踏ん張りを見せねばならぬ都という立場です。それが……」


 悔しそうに、首長は渋面で首を振っている。


「僕としても、この東の都の軍隊が敵わなかった、というのは信じられないくらいなんですが。詳しい話を、聞かせていただけますか?」

「ええ、もちろんです」


 首長は頷いた。


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