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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
プロローグ(という名の最終決戦と真実)

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第4話 最終決戦 魔王城 #4

 魔王は、右腕をこちらへ差し出した。

 なにが起きるのかを悟り、僕は剣を床に突き立てた。


「死ね」


 囁きは、はっきりこちらの耳に届いた。が、刹那の後の轟音にかき消される。


 魔王の腕から、黒炎が濁流のように、こちら目がけてほとばしった。

 が、同時に、僕も剣気を引き起こしていた。真正面から受け止める壁ではなく、三角の形にして、黒炎流を割り、受け流すための盾を形成する。


 炎が通過すると、玉座の間は一変していた。


 僕と魔王の周囲には炎が燃えさかっている。取り囲むように。

 これは、彼女がわざとやったのだと悟る。


 僕の心中を読んだように、魔王は言ってきた。


「いくらでも付き合うとは言ったが。よくよく考えてみれば、お前に殺された魔物たちの補充もせねばならんしな。そろそろ終わりにしよう」


 魔王は再び、右手を示してきた。今度は雷でも炎でもなく、剣気に似たものが、その手を覆っていく。


 だがそれは、剣を極めた勇者にしか扱えない聖なる剣気とは正逆の――暗黒そのものを凝縮したかのような、禍々しい力だ。


 魔王にしか扱えない、邪気と呼ばれる力だと、僕は認めた。


「因果なものでな。私の最強の武器がこれだ。『黒の剣』という。魔王としての力をすべて込めた、渾身の手刀だ」


 それに、僕は頷いた。

 魔王は、その一撃で勝負を決めよう、というのだろう。

 彼女は、言葉を続けた。


「小僧。お前は強い。力だけなら『最初の勇者』に並ぶかもしれぬ」


 最初の勇者――

 千年前のある日、突然天より降り来たり、この魔王城に君臨した魔王。それを討伐するために向かった、一番最初の勇者のことだ。

 この魔王が君臨してから千年の歴史の中で、最初に魔王に挑んだとされることから、そう呼ばれている。歴史上、もっとも強いとされる勇者。


 そして、その最初の勇者が勝てなかったからこそ、この魔王が大陸の第二の支配者となった、と言われている。


 確かに、僕は強いのかもしれない。


 この魔王城までの旅路で、一度も苦戦することはなかった。剣気だって、剣を習い始めたその日から感じることができたし、数年で自由に扱えるようになった。

 周囲からは、最強の勇者だと言われた。仲間も必要なかった。

 今度こそ、大陸に平和が戻るのだ、とみんなが言っていた。


 でも、これは、僕が望んで手に入れた力じゃない。

 それでも――それでも、人々の平和に役立てるのなら。そう思って、ここまで来た。


 僕は、剣を構えて、力を込めた。

 魔王に倣い、全身に持てるありったけの力を凝縮し、剣に込める。

 聖剣は剣気を宿し、白く輝いた。魔王の『黒の剣』とは、まったく対照的だ。


 こちらを見て、魔王は頷いた。


「良い。その力でもって、見事私を討ち果たせるか。試してみろ」

「……行きますよ」


 お互いの全力。これをぶつけ合えば、どちらかが死ぬ。そんな結末が見える。

 結局魔王を説得できないのか。

 そんな心残りはあったが、背負ってきた人々の思い――平和への渇望を無視することもまた、できそうにない。

 魔王の力と、僕の力はたぶん、ほぼ互角だ。両方死ぬかもしれない。


 そうなれば、きっと、一番いい――


 一縷いちるの希望を込めて、僕は踏み込んだ。

 魔王も、踏み込んでくる。

 炎に包まれた玉座の間で、僕たちは一気に距離を詰めて、剣と手刀を交えた。


 耳をろうする音が響く。


 剣気と邪気、聖なる力と邪悪な力。

 正反対の気が擦れ合い、硬質な不協和音を奏でる。


 鍔迫り合いのように、しばし、力が拮抗きっこうする。

 僕のほとんど目の前に、魔王の顔がある。


「ぬっ……! くっ……!」

「うぅっ……!」


 歯を食いしばったその隙間から、お互いに呻きを漏らす。


 やはり、魔王の力はすごい。ちょっとでも気を抜けば、押し負けて斬られる。


 僕は、剣気の出力を増した。魔王も負けじと、さらに力を振り絞ってくる。

 聖なる剣気と、魔王の邪気が触れ合い、さらに軋みを上げる。それは周囲の空間にまで伝播でんぱしていく。床が震え始めた。


 まるで、小型の地震のようだった。

 僕は焦りを感じていた。まずい、という漠然とした感覚がある。力は、魔王のほうが上かもしれない――


 と、魔王が目の色を変えた。余裕があった彼女の顔に、初めて狼狽ろうばいが見えた。


「ち――しまった! くそ、私としたことが……!」


 その言葉は、明らかに僕へ向けてものではなかった。

 次の瞬間――


 僕の視界は、真っ白に塗り潰されて、身体が思いきり宙に投げ出されるような浮遊感を味わっていた。

 さらにほんの数瞬遅れて聞こえた轟音を、なんとか意識が捉えて。

 すぐに、視界が暗転する。


 ああ、僕は、よく分からないけど、とんでもない爆発に吹っ飛ばされているんだな――

 そんなことを、失神しながらも理解していたのだった。


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