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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第39話 一件落着

「え?」


 僕は訊き返した。店主は、続けた。


「しかし、私は首長の前で、落としたとウソをついてしまいました……。あの時私は、宝玉を持っていて……それまでは、私は、私の犯してしまったことに怖じ気づいて、返す気でいたんです……」


 そうだったのか、と僕は頷いた。


 盗賊に宝玉を盗ませはした。だが実際に宝玉を手にして、恐ろしくなってしまった。

 だから、返そうと必死に都まで走った。が、最後の最後で翻意し、やっぱり、宝玉を我が物としてしまった。


 そういう経緯だったからこそ、盗難の計画がめちゃくちゃで、急ごしらえのように見えたのだろう。実際に、かなり切羽詰まって立てられたプランだったのだ。


「私は、本気で、返そうと思っていたんです。この店から慌てて走り、毒の沼地を越え、橋があることも忘れて川を横切り……」

「おいちょっと待て」


 魔王が口を挟む。


「お前……。本当にあの地図のルート通りに、駆けてきたのか」

「え? ええ、はい」

「どんな体力をしている。お前、元勇者かなにかか」

「そんなまさか。その時は、返却しようと思っていたので、神聖宝玉を持っていたんですよ。だから、身体の底から力が湧いてきて。どんな道であろうと平気でした」

「むう……。そういうことだったのか……」


 呆気にとられて、魔王は呻いていたが。


 僕は、笑い出したい気分だった。大真面目に推理していたことが、あっさりと覆った。

 神聖宝玉は、魔法や剣気の源である、生命エネルギーの詰まった宝玉だ。それなら、持っているだけで力が湧いてくるし、身体能力も強化される。あり得ない話ではない。


『実際に訊いてみるまでは、物事は分からぬ』と言っていたのが魔王だったのも、なんだか皮肉な話だった。

 旦那は、話を続ける。


「ですが、いざ返そうというときに、翻心ほんしんしてしまいました。……すべては、この私の心が、弱かったからです。これからは、社会に恩を返すことを考えて、誠心誠意、生きていこうと思います」


 僕は、首を振った。


「旦那さんは、悪くないですよ。そもそも、そういう選択からいろんなことが起きて、こうして丸く収まったんです。これが、きっと、一番いい形だったんですから」

「そうそう。旦那も、くよくよしてねえで、これからもっとこの店を大きくして、この街を西の都くらい発展させるつもりでいこうぜ」


 元黒板屋は、にっと笑った。


「そういうわけで。勇者さまたちも、またこっちに来ることがあったらぜひ、寄ってくれよな。次来る頃には、もっとデカい店になってるからよ」

「そうですね。じゃあ、その時を楽しみにしています」

「またきてね、ゆうしゃさま、ねこちゃん! まってるから!」


 その女の子の言葉に、僕も魔王も笑顔で頷いた。

 それから別れの挨拶を交わして、僕たちは店を出た。


 十メートルほど歩いて振り返ると、店先まで出てきて手を振っている三人の姿が見える。

 僕は手を、魔王は尻尾を振り返して、それから、馬屋へと向かう。


「さて。これですべて、丸く収まったな。お前の活躍で」


 魔王が歩きながら言う。それに、僕は首を振った。


「違いますよ。僕と、魔王さんの活躍で、です」

「ふむ……」


 なにか考え込むように言った彼女に、僕は訊いた。


「どうです? いいものじゃないですか? みんなが笑って、ちゃんと生きていけるって。あの子が元気にしていてくれて、どう思いました?」

「ふん。私は魔王だぞ。人助けをしたつもりはない」


 きっぱりと言ってくる。

 が、僕がじっと魔王を見ていると、舌打ちをひとつしてから、言い直してきた。


「……まあ、存外、悪い気分でもないな」

「ふふん。でしょう? でしょう?」

「鬱陶しいなお前。調子に乗るな」


 尻尾でこちらの脛を、ぴしぴしとはたいてくる。


「これから、この街だけでなく、西の都の周囲にある町や村すべてに、破邪結界を施していくんだからな。その後は、また別の都市だぞ」

「ええ。分かってます。出発まで、何日かかりますかね?」

「さあな。もう数日……というところかな。四月中には、次の都に着けるといいが」

「ですね」


 僕は、歩きながら街を見回した。

 みんな、楽しそうに生活を送れている。

 商店の軒先には燕が巣を作り、子に餌をやるために、何度も往復しているようだ。


 平和そのものだった。

 この平和は、僕だけでない。僕と魔王で、守ったものだ。

 僕は空を見上げた。輝いている太陽に、拳を突き上げる。


「よーし! この調子で、一緒に世界を守りましょう! 魔王さん!」

「うむ。だが、天下の往来でそれはやめろ。傍目にはヤバいやつだぞ、お前」


 分かっている。が、それくらいのことを宣言してやりたい、そんな気分だった。


 ともかく、僕と魔王の旅は、まだまだ続く。

 残る都市は、東と南、そして北の三ヶ所だ。


 どんな困難が待ち受けているのかは分からないが、そのどれも、僕たちを止めることはできないだろう。


 必ず、この大陸を救ってみせる。

 そう決心して、僕は歩む足取りをさらに強くした。


「まったく、若造が。入れ込むのもいいが、頭もちゃんと働かせろよ」


 横を歩く魔王に言われて、僕は頷いた。


「もちろんですよ。で、このあとはどうします?」

「まぁ、暇ではあるな。……そうだ、釣りなんてのは、どうだ。あそこの川で、前回のリベンジだ」

「前、散々な目にあったじゃないですか。それにまだアユは捕れないですよ」

「もはやアユなどはどうでもよいのだ。負けたまま、というのは魔王の沽券こけんにかかわる。それに、あの時は投げ網などという、難しい漁具であったろう。釣りなら、その辺のガキどももやってるではないか」

「まあ、そうですね。じゃあ……都に戻って、釣具、借りてきましょうか」

「うむ」


 そうして、僕たちは馬を駆って、西の都に戻った。


 そんなふうに、このところは毎日、結界を張る作業以外は、悠々とした――つまりは暇でしょうがない生活になっていたのだが。

 馬が都に近づくにつれて、なにやら気配がおかしいことに気づく。


「……なんだ? なんの騒ぎだ?」


 魔王も気づいたようだ。


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