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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第38話 質屋のその後

 新しい神聖宝玉は、完成まで一週間ほどかかった。


 そして、火炎蜥蜴を倒したことで、剣気がもう少しばかり操れるようになっていた僕は、無事に都を覆う破邪結界を作成することができた。


 西の都周囲の町村への結界の作成に入るのは、もう数日ほどを要した。その半分以上を済ませて――現在は四月の半ばに差しかかっていた。


「さあて。この辺りの町や村まで結界を張れば、次は東か、南の都だな」


 魔王が言う。が、僕は首を振った。


「その前にまず、訪ねるところがあるでしょう?」

「ん? ああ、そういうことか」


 僕と魔王は、一緒に北にある隣町を訪ねた。


 もちろん、質屋の旦那の様子を見るためだ。


 ずいぶん久しぶりな店先に辿り着くと、ショーウィンドウの中が目についた。

 なんとそこには、『最強の勇者が座った椅子!』というポップのついた、アンティークな椅子が置かれている。売約済の札もあった。


 結構なお値段である。

 足元の魔王が、呟いた。


「……元気でやっておるようだな」

「ええ……。商魂たくましいというか……」


 僕も苦笑いしつつ、『営業中』になっているガラスのドアを押し開けた。からん、と音がする。


「はい、いらっしゃい――おう! 勇者さまじゃねえか」


 店番に立っていたのは、あの盗賊の男だった。それにちょっと驚く。


「盗賊さん!」

「お、おいおい。もう足は洗ったんだから、盗賊さんはやめてくれよ」

「あ、そうですね。じゃあ、店番さん?」

「そ、それもなんだかなぁ……」

「ここで働くんですか? 黒板屋はどうしたんです?」

「いや、一応、やってはみたんだよ」


 本当にやってみたのか。そう思いつつも、僕は相槌を打った。


「それで?」

「いや、当たり前だが、なんにも売れなくてな。黒板専門店なんて、誰も来ねえよ」

「まあ、そうでしょうね。学校かなにかと契約できたら、強そうですけど」

「そういうのは利権絡みよ。世知辛い世の中だぜ。で……その魔王猫の引っかいた黒板あったろ。あれを、ここに買い取ってもらおうと思ってな。訪ねてきて、で、店主と改めて、意気投合しちまってな。ここで働かせてもらうことになったんだよ」

「なるほど。よかったですね。元黒板屋さん」

「いや、その呼び名もどうなんだ」


 元黒板屋は訝っていたが。

 僕は、ほっとした気分になっていた。物事が、見事に収まるべきところに収まった、そんな安堵感がある。


 この元黒板屋がどれほどの盗賊だったのかは分からないが、盗賊ならば、ある程度ものの良し悪しが分かる――目利きの力も持っているだろう。質屋というのは、彼にとっての天職のひとつなのかもしれない。


 と、彼はなにかを思い出したように、手元の紙箱を取ると、開けて見せてきた。

 中には、まんじゅうが綺麗に一列六個、二列になって入っている。


「ここは質屋だが、あんたとの縁もあったしな。勇者絡みの商売を始めてみないかって俺が提案したのよ。これが試作品の『勇者まんじゅう』だ。食ってみてくれ」


 僕はまんじゅうを取りながら、訊ねた。


「あの表の椅子も、あなたが?」

「おうよ。おかげでいい稼ぎになったみたいだ。おう、恐ろしい魔王猫も食ってみてくれ。あんたをモデルにした商品も考えてあるんだ」

「ほほう。良い心掛けだ。なんだ?」

「こっちの『魔王猫サブレ』だ。あと、あんた公認っていう証拠に、あとでこの朱肉で、肉球のスタンプをくれるか。包装に印刷してつけるんだ」

「妙に商才あるな、お前……」


 もらったサブレをぼりぼりと食べながら、呆れたように魔王は呟く。

 と――


「ゆうしゃさま! ねこちゃん!」


 店の奥から、元気な声がした。


 以前のようなぱたぱた音ではなく、どたどたと、元気な足音が近づいてくる。

 質屋の娘の女の子は、以前のようなパジャマ姿ではなく、ワンピース姿だった。ただし、胸には神聖宝玉の首飾りがあるのは、変わっていないが。


「やあ。元気にしていた?」

「うん! ゆうしゃさま、このくびかざり、ありがとうございました!」

「うん。どういたしまして。ずっと、君が大事に持っていてね」

「うん! ずっともってます!」

「うっ、うぎぎぎぎ……。く、くるしい……。サブレが、サブレが詰まるぞ……!」


 ぬいぐるみのように締め上げられる魔王は、サブレを頬張ったまま締められているため、窒息寸前だ。

 僕はそれを見ながらまんじゅうを食べ終えて、元黒板屋に言った。


「これ、こしあんとつぶあん、両方あってもいいかもですね。あとは、あんこの代わりに、カスタードクリームにしてみるとか。果物のジャムとかもいいかもです」

「ほう、なるほど。そりゃあ、いい。ナイスアイディアだぜ。あんた、結構料理心のあるタイプだな? 勇者さまお気に入りの味はあるかい? そういう、本人一押しのセットみたいなのもあるといいだろ」


 僕は考えた。ぱっと思い浮かんだものを言ってみる。


「ああ、じゃあ……。白い皮と黒い皮で、勇者と魔王セット、みたいなのって作れませんか? 白はクリームで、黒はあんこで」

「そりゃ、面白えな! これから大陸を救うコンビなんだ。それがねえと、始まらねえってもんだな。きっと、一番の商品になるぜ」

「そうなったら、嬉しいですね」


 その元黒板屋の言葉に、僕は笑顔で頷いた。

 それから、魔王に目を戻す。

 解放されて、はあはあと息をしていた。


「小僧……。お前、面白がってるだろ」

「いやまあ、面白いですけど。魔王さんが抵抗できないなんて、この子くらいですし」

「お前なぁ……」


 それに笑っていると、また奥から、人が出てきた。

 旦那だ。彼は僕を見て、すぐに深く頭を下げてきた。


「勇者さま、この節は、もう……どうお礼を申し上げていいものか……」


 それから、ずしりと重そうな革袋を僕に差し出してきた。

 見れば分かる。大金が入っている。


「これは、表の椅子と、魔王猫さまの黒板を売り上げたお金です。せめて、これだけでも、どうか受け取っていただけませんか」

「いや、もらえませんよ、こんな大金……」


 というか、こんなすごいお値段で売れたのか。どうやったんだ?

 疑問に思いつつも言うのだが、魔王が言ってきた。


「受け取れ、小僧。正当な対価だ」

「おうよ。いや、勇者さまと魔王猫のおかげで、魔水晶鉱山が解放されたんだ。この街を守る分の神聖宝玉だって作れるし、病人ももっと助かるようになる。それくらいじゃ、はした金みたいなもんだぜ」


 元黒板屋も言う。女の子も、笑顔で頷いてくる。


「もらってください! ゆうしゃさん!」


 そこまで言われては、受け取らないのも失礼な話だ。僕は、慎んで受け取ることにした。


「……ありがとうございます。旅はまだ続けないといけませんから。大事に、大事に使わせていただきますね」

「はい。世界を救う旅のお力になれるのなら。願ってもいないことです」


 旦那はそう言ってはにかんでから、少し迷ったような顔になった。

 ちょっと間を置いて、言ってくる。


「私は……あの時。都の首長に、店に盗賊が宝玉を売りに来た、と進言したのは、芝居でも、計画でもなんでもなかったんです。ありのまま、事実を言う気でいたんです、私は」


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