第33話 魔王と魔王
どう言おうか迷って、結局僕は、無難な話題を選んだ。
「ここに巣食っている魔物は、魔王さんが作ったものなんですか?」
「どうかな。まあ、まず、間違いなくそうだろう」
「自分で言っておいてなんですけど、魔王さんが作った以外の魔物もいるんですか?」
「分からんな。いるのかもしれない。魔王という存在は、私以前にもいたのだから、そいつが作ったものがいるかもな」
それを聞いて、僕は驚いた。
「魔王さん以前にも、魔王っていたんですか?」
「ああ。勉強していないのか? まあ、この千年は私との茶番にかかりきりであっただろうから、無理もないのか。千年以上前の大昔……そういう時代では、大真面目に人間と魔王は対峙しておったのよ。茶番ではなく、本気で殺し合う関係だ」
「それをモデルにして、魔王さんは茶番を構築した……みたいなことですか?」
「そうだな。まぁ、そういうことだ」
「へえ……。たとえば、『最初の勇者』って言われているくらいですし、魔王さんも最初の魔王なんだと思ってました。そういえばそもそも……魔王だとか、勇者だとか、そういうものについても、僕が生まれてきたときから最初からあったもので……深く考えたことなんて、なかったですね」
「お前の脳みそなら、さもありなんだな」
「ひどいですね。実際、考えるのって苦手なんですけども」
「なら、少し授業をしてやろうか。話すくらいしか、することもないしな」
「いいんですか? お願いします」
面白そうな話なので、僕は頷いて先を促した。
魔王はすらすらと、説明をしてくれる。
「元々魔王という呼称は、魔法を極め、その力でもって世を支配しようとしたものに与えられた称号だ。魔の王、ということだな。誰よりも魔法を極め、それによって世界を手中に収められると勘違いした、愚かな僭称者のことだ」
「なるほど。で、かつての王様たちは、それと戦ってきた……ってことですね」
「うむ。そうだ。そしてどういうわけか、魔王が現れると、どこからともなく正義の味方――勇者も現れる。勇者が魔王を殺し、世界には平和が戻る」
「へえ……」
「しかし……魔王が滅ぶたび、新しい魔王も出てきてな。そのどれもが、北の城を根城としたらしい」
「昔から、魔王たちの間で、そういうお約束ごとでもあったんですか?」
「さあなぁ。それっぽいからというだけのような気もするが……」
言いながら、魔王自身腑に落ちていない感じではあった。
「で、千年前だが。私の前にも、魔王がいた。そもそも、北の地に天より降り来る邪悪は、そいつが魔法の儀式によって喚び出したものなのだ」
「え。そうだったんですか?」
「ああ。その魔王は、それを利用して、凄まじい力を手に入れようとした。まあ、召喚自体は成功したが、目論み自体は崩壊して失敗した……とでも、言えばいいか」
「失敗……。つまり、北の地にはその召喚された邪悪なものだけが残っちゃって。魔王さんが、それを魔王城に封印した……と?」
「うむ。まあ、そんな感じだな」
「あれ? 魔王さんは、その喚び出しをした魔王とは、別人ですよね?」
「当たり前だ」
答える魔王に、僕は首を捻った。
魔王の話を読み解くと、千年前、魔王が三人いたことになるのか?
魔王の前の魔王で、邪悪なるものを喚び出した魔王。
そして、喚び出されて天より降り来たる、邪悪なるもの。
最後に、それを封印した、この魔王自身。
数が合わない気がする。
この魔王は――『魔王さん』は、一体どこから来たのだろう?
それを訊こうかと思ったが、先回りをされた。
「まあ、詳しい話は、追々、してやろう。そんな機会があればだがな。あとは、私が話す気になれば、だな」
「……どうしたら、話す気になります?」
「そうだな……。もっと仲良くなったら、というところか」
冗談めかしたセリフだった。が、冗談に聞こえなかったし、事実、もっと仲良くならなければ、話してくれない気はした。
僕は深追いせず、頷いた。
「分かりました。僕はもっと、魔王さんと仲良くなりたいです」
「ぬけぬけと。魔王と仲良くなりたい勇者など、聞いたこともないわ」
それこそ冗談だったのだろう。言って、魔王が吹き出す。
僕も笑った。
そんなことを話している内に、僕たちは、地下の最深部に辿り着いたようだった。




