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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第32話 魔王と魔物

 僕と魔王は、体液の跡を頼りに、巨大蠍のあとを追った。


 そして、すぐに見つけることはできた。坑道の途中で、絶息していたのだ。

 僕は蠍の死体から剣を引き抜いて、体液を払った。


「この程度の雑魚に、相討ち覚悟なのだからな。意地を張るのは構わぬが、お前は弱いのだということを忘れるなよ」

「はい。でも……自分が弱いからって、引き下がったりはしませんよ」


 剣を手に提げて、魔王に応える。

 やれやれ、と魔王はまた嘆息した。


「お前が力を取り戻すことで、北の地に眠る邪悪を滅ぼせるのだということも忘れるなよ。お前が死ぬ、ということは、この大陸が滅ぶことと同義なのだぞ」

「そうは言いますけど……。僕にとっては、僕自身よりも、あの質屋の旦那さんと女の子の命のほうが大事なんです。目の前の命を救えないのに、大陸を救うなんて、そんなの無理じゃないですか?」


 さっきはつい、弱気になってしまったが。その気持ちは変わっていない。

 僕の言葉を聞いて、魔王はまたまた嘆息した。


「……馬鹿者よな。まぁ、仕方ない。馬鹿につける薬はないゆえ、せいぜい、お前が死なぬように目を配らねばな」

「ごめんなさい。よろしくお願いします」

「いちいち謝るなというのに」


 喋りながら、僕と魔王は坑道を道なりに進んでいく。

 地図によると大きな分岐はなく、それだけで、大きな空間に出るはずなのだが。


 魔物はどこにもいない。坑道は静寂そのものだ。

 なんにも遭遇せずに歩いていると、魔王がぽつりとこぼした。


「……むう。しまったな」

「なにがです?」

「私は魔王だ。この千年間、魔物を作っていたのは私だということだ。その私に対して挑む魔物など、いるはずがないではないか」

「あ。そっか……」

「くそ、私としたことが、そんな単純なことを失念しておったとはな……。これでは、お前に経験を積ませるというプランはパア、か……」


 口惜しそうな魔王だった。

 僕も考えが至っていなかった。


 魔物というのは、魔王が邪悪な気を加工して作った、邪悪な生き物だという。

 なら、制作者である魔王に襲いかかる魔物など、いるわけがないってことか。

 ふと気になって、僕は訊いてみた。


「魔物って、どうやって作るんです? 邪気を使って作るんだって言ってましたけど」

「ん? そうだな、邪気をこねてこねて、粘土細工でも作るようにするだけだ」

「へえ……。楽しそうですね。ああいう、蝙蝠とか、蠍とか、蛞蝓とか蚯蚓とか、そういう気持ち悪い生き物がモデルなのは、なんでなんです?」

「そのほうが感じが出るだろ。魔物だぞ。図鑑かなんかを参考にな、ちょっとたまにアレンジなんかを加えつつ、暇でしょうがないときにやるのよ。たまに無性に作りたくなる時もあるな」

「ふうん……。そういうもんですか」


 聞きながら、僕は、その魔王の作った魔物が、あの質屋の旦那の奥さんを殺めた、ということを思い出していた。


 さっきは、ひどいことを言ってしまった。魔王が奥さんを殺したのだ、と。

 魔王は、明らかにその言葉に動揺したようだった。


 魔王が作った魔物が殺したのなら、魔王が殺したも同義。理屈としては、その通りなのだろうが――


 天より降り来たる邪悪をあの地に封印した魔王は、それから漏れ出る邪気を、魔物に加工していた、という。


 それはきっと必要なことで、善行とも考えられる。

 魔王が邪気を魔物に加工し、世に放つ。それを勇者が倒す。

 そうすれば、多少なりともこの大陸に満ちる邪気は目減りするはずだ。少なくとも、増えていく一方ということはないだろう。


 それを……魔王が魔物を作ったから、という側面だけを取り上げて、あなたのせいだ、と指弾するのは、少しもフェアじゃない。さっき、僕が非難した魔王の言葉と同じだ。


 魔王だって、必要なことをやっていたに過ぎないのだ。世界を平穏に保つために。


 僕こそ、魔王の気持ちを、少しも考えていなかった。


 それを改めて、謝りたかったが――魔王自身が、そこまで触れてほしくないという態度をしているようにも見える。


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