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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第31話 仲直り

 と、横たわっている僕の顔の前に、魔王は現れた。ちょこんとおすわりをすると、動けない僕の顔に、ぺしぺしと猫パンチを見舞ってくる。


「まぁ、クソ弱体化しておるのに、一切省みずに突撃するお前の覚悟……もとい、クソ馬鹿加減は、見届けさせてもらった。で、諦めるか? まだ戦う意思はあるのか?」


 それに、言葉も発せないので、目で答えた。

 真っ直ぐに、魔王の瞳を見返した――つもりだったが、どう映ったかは分からない。

 それでも、魔王はにやりと笑った。


「……いいだろう。吐いた唾を飲むなよ。今から毒を中和してやる。動くな」


 と、魔王は僕に前肢を翳した。


 魔法の温かい力が、身体を包むのが分かる。魔王は、こういう魔法も使えるのか。てっきり、攻撃することしかできないと思っていたが……。

 ほんの十数秒も魔法をかけられると、身体はすっかり、元に戻っていた。毒だけでなく、毒針が刺さってできた傷も治っている。


 僕は立ち上がって身体の具合を確かめてから、すぐにしゃがんで、魔王に言った。


「ごめんなさい、魔王さん。来てくれたんですね」

「ふん。死ぬのは目に見えていたからな。くだらんケンカをしてそのまま逝かれるというのも、寝覚めが悪い。だから、来てやったぞ」

「ありがとうございます。あと……本当に、ごめんなさい。感情的になってしまって」


 僕は、深く頭を下げた。それに、魔王はふっと苦笑する。


「ケンカして、そこまで素直に頭を下げるのは、なかなか難しいだろう。お前は素直なのか、頑固なのか、よく分からんやつだな」

「いえ。僕が言い過ぎてしまったのが原因ですから。ごめんなさい」

「……いや、もうよい。謝るな。私にも、デリカシーというヤツが欠けていたのは、間違いないのだからな。私は魔王だから、絶対に謝ったりはせぬが」


 つんと澄ましている魔王だった。確かに、その顔からは申し訳ないという空気は漂ってこない。


「……ふふっ」


 なんとなく、それを見ていて、笑ってしまった。


「なにがおかしい、小僧」

「……いえ。その。本当に、ごめんなさい。魔王さん。でも、上手く言えないですけど、やっぱり魔王さんは、その魔王さんでいいんだと思います」

「なんだお前は……。さんざん人の考えを否定したくせに、気味が悪いな」


 が、それほど気にもしていないらしい。魔王は苦笑交じりに言った後、前肢を振って真っ白な光の玉を作り出した。


 その魔法の照明は、たいまつとは比べものにならない範囲を、比べものにならない明るさで照らしてくれる。


「まあ、ともかく。我々は、チームというやつだ。パーティだ。いいか、お前がいなければ、北の地の邪悪なるものを滅ぼすことはできぬ。そのためには、お前は以前と同等以上の力を取り戻さねばならぬ」

「はい」

「そして、邪悪を倒すためだけではない。お前は分かっていないようだが、破邪結界を張るには、剣気が必要だ。今のお前に、どうやって破邪結界を張ることができる?」

「あ……」


 僕は、しまったと思った。まるっきり失念していた。


 魔王の言う通り、今の僕では、鉱山の解放はもちろん、破邪結界すら張れないのだ。

 僕の様子を見て呆れたように嘆息しながら、魔王は言った。


「ともかくだ。魔物だらけの鉱山を探索するのは、お前の力を取り戻すのにちょうどいいのやもしれぬ。首長から話を聞いたが、この周辺の町村には神聖宝玉が一応ある……が、大分力を失っているそうだな。まあ、それについてはどうでもいい。神官長が力を込め直せばいいだけだ。が――この鉱山から遠く離れた、他都市の周囲の小さな町村までは、十全に神聖宝玉は行き渡っておらぬそうだぞ」


 僕は魔王の言わんとしていることを察知して、答えた。


「この先。神聖宝玉が元々ない、小さな町や村を破邪結界で覆おうと思ったら……この鉱山を解放して、新しく神聖宝玉を作れるようにするのは、絶対に必要ってことですね」

「うむ。その通りだ。私は、主要都市だけに張ればよいと思っておったが、お前はそう思っておらぬのだろう?」

「はい。守れるなら、みんなを守りたいです。ひとり残らず」


 それに、やれやれと魔王は首を振った。


「それなら、最初からもっと頭を使え、馬鹿たれが。勢いだけ、考えなしの向こう見ずにもほどがあるわ」

「すみません……」

「ふん。まあいい。ともかく、ここをどうにかするぞ」


 魔王はぐるりと、周囲を見回して続けた。


「私の力をもってすれば、すぐに魔水晶を回収して出られるだろうが。私はお前のサポートに徹しよう。いいか――ここから先は、お前が魔物を倒し、進むのだ。実戦を経験し、少しでも多くの力を取り戻せ」

「はい、分かりました」

「たいまつは置いていけよ。両手で武器を扱ったほうがいいからな」

「はい」


 魔王の指示に頷きながら、僕は父の指導を、なんとなく思い出していた。

 ここはその父でも討伐できなかった鉱山だという。


 だが、今の僕でも、この魔王にサポートしてもらえるなら、踏破できるはずだ。

 魔王の存在に、これ以上ない心強さを感じながら――


「あっ。でも、剣。蠍に取られちゃいました」

「……追うぞ。まったく、馬鹿たれが。剣は死んでも手放すな」


 やれやれ、と言う魔王。それを見て、仲直りできてよかったな、と、心の底からの安堵感が湧いてくるのだった。


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