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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第29話 魔水晶鉱山 #1

 ――と、格好をつけてその足で魔水晶鉱山に飛び込んでみたはいいものの。


「や、ヤバい……。想像以上にヤバいかも……」


 はあ、はあ、と僕は気づけば肩で息をしていた。


 左手にはたいまつ。右手には剣。

 背中にはつるはしを背負い、肩からは採った水晶を持ち帰るための革袋を下げてある。


 そして足元には、今かろうじて倒したばかりの巨大蝙蝠(こうもり)の死体が転がっていた。


 僕は蝙蝠に噛みつかれた腕を確かめていた。篭手の上からだったので、怪我はしていない。危ないところだったが。


「うう……。蝙蝠って、危ない病気持ってたっけ……。気をつけないと、僕自身が宝玉を必要とすることになるぞ……」


 ひとりごちて、気を引き締めた。

 たいまつを掲げて、坑道を進んでいく。


 僕の弱体化は、想像を絶していた。

 馬車での西の都までの道中、そして滞在中の現在も、素振りなどのトレーニングは欠かさなかった。出発前、みっちりと父と稽古もした。


 だが、それで一匹の魔物と全力で戦って、ようやく渡り合える程度だ。

 この魔水晶鉱山にいる魔物の総数がどれほどかは分からないが、まともに探索をしていたら、命がいくつあっても足らないだろう。


 僕は剣を鞘に収めて、懐から地図を出した。

 神官長に、内部の大体の地図も書いてもらっていたのだ。


 これによると、入口を入ってまずは直進。左右に分かれた坑道を、左へ。しばらく進むと突き当たる。そのあたりを調べると、地下への梯子はしごがある。

 それを下り、道なりに進むと、魔水晶の鉱脈がある、という。


「しかし、変な話だな……」


 また、誰にともなく声を出す。魔王がいれば会話ができるのだが、いないものはしょうがない。


「鉱山っていうなら……掘った土だとか、あとは魔水晶だとかを外に運び出すために、トロッコとかが必要なんじゃないのかな……。なんでそういう設備もないんだろ。そのまんま、人足だけ集めて手当たり次第に掘りまくったのかな。どうせなら、露天掘りにでもしてくれれば、こんな洞窟探検じみたことしなくてもいいのに……」


 二年前に始まった旅のことを思い出す。あの時もことあるごとに、洞窟やら、大昔に誰かが建てたというギミック満載の塔に登ったりする羽目になったが。


 まさかこれも、勇者の冒険の味わい深さのひとつだなんて言う気じゃないだろうな、と、僕は内心で嘆息する。


 魔王に愚痴っても、その通りだから諦めろ、と言われそうな気もした。

 仕方なく、僕は地図をしまって、足を踏み出す。


 巨大(ねずみ)、巨大蛞蝓(なめくじ)、巨大蚯蚓(みみず)などの魔物を撃退しつつ、僕はなんとか、地図に記されていた突き当たりまで辿り着いた。


「ここがそうかな……?」


 周りを見回す。と、地下への梯子は案外あっさりと見つかった。


 突き当たりの壁の近くに、人工的な四角い穴が空いていて、木製の梯子がかかっている。

 僕は注意を払いつつ、梯子に足をかけた。底は見えず、そこはかとなく恐ろしい。


「危ないよなぁ。崩落でもしたら、一巻の終わりだよ、こんな鉱山……」


 ぶつぶつ言う。と――


 下ろした足をかけた梯子から、バキッと音がした。

 そして、身体がふわりと、浮遊したような感覚。


「えっ。えええええっ!?」


 悲鳴をあげながら、僕は納得していた――長い間放置されていた鉱山の、木製の梯子をどうして僕は信用してしまったんだろう。腐っていて当然じゃないか。


 落下は、ほんの一瞬ではあった。床に叩きつけられて、呻きをあげる。


 死ぬほどの高さでなくてよかった、と思いながら、僕は手放していたたいまつを拾いあげた。


 瞬間、その炎の明かりが、なにか妙な、大きな影を映した。


 それを知覚する前に、僕は反射的に、横っ飛びしていた。いくら弱体化していても、反射のレベルにまで刷り込まれた回避行動である。それは、僕の命を長らえさせてくれた。


 なにかが、僕の立っていたところを、風を切って横切っていった。


 床を転がって、すぐに起き上がる。たいまつを翳す。


 明かりに照らされたのは、毒の滴る尻尾をぴんと伸ばした、巨大(さそり)だった。

 胴体のサイズは、成人男性ほどある。尻尾の先までの長さも、僕の目線ほどはあった。

 人間の腕くらいなら簡単に切断しそうなはさみを、しゃきしゃき言わせている。


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