第28話 代替案
僕と魔王は西の都に帰り着くと、まず首長邸を訪ねた。
そこに神官長も呼んでもらってから、事の顛末を説明する。
「……という、わけだったんです」
「なるほど、そういう理由が……」
痛ましそうに、首長と神官長は頷いている。
僕はまず、神官長に話を聞いた。
「あの。宝玉をそのまま、質屋さんに貸してあげるということは、できませんか?」
「……しばらくの間であれば構いませんが、ですが、街に破邪結界を張るときに、どうしても必要となります。そして破邪結界を張った後は、結界の力を維持するために、教会に安置しておく必要がありますから……」
「そうですか……」
元々、そうであることは破邪結界を作る一員である僕自身が、よく分かっていることではあったが。
となれば、本命のプランを提出するほかない。
僕は訊ねた。
「新しい神聖宝玉を作ることって、できませんか?」
「新しい?」
「はい。この問題ってつまり、神聖宝玉が一個しかないから問題なわけで。質屋さんとか、あんなふうに病気で困っている人に貸してあげられる分と、教会に置いておく分の宝玉があれば、全部丸く収まるんじゃないかって思うんです」
僕の言葉に、神官長はなるほど、と膝を打った。
が、すぐに顔が曇る。
「神聖宝玉は、魔水晶を素材として作るのですが」
魔水晶――生命エネルギーを蓄えることのできる水晶のことだ。一般にほとんど流通はしていない、非常に希少な鉱物である。
神官長は続けた。
「近くに、魔水晶の鉱山が、あるにはあるのです。しかし、もう何十年も、閉鎖されたままなのです。件の神聖宝玉も、そこで採れた魔水晶に、先々代かの神官長が力を込めたもので。もっと昔は、豊富に宝玉も用意でき、病める人の助けとなったのですが……」
「どうして閉鎖を?」
「魔物が棲み着いてしまったのです。それも、強力な……」
そんなことだろうとは思っていたが。
それなら、事態の収拾は簡単だ。僕は立ち上がった。
「勇者さま?」
「鉱山の場所を教えていただけますか。必要な分の魔水晶さえあれば、神官長、新たな宝玉を作っていただけますね?」
「それは、もちろんですが……。危険ですよ。先代の勇者も挑戦しようとして、断念したのですから」
「父さんが?」
僕が言うと、神官長はしまった、という顔をした。別に侮辱するような意図でもなかっただろうが、先代勇者が僕の父だという考えに至っていなかったのだろう。
それに、僕は笑った。
「大丈夫ですよ。僕は父どころか、歴代と比べても、最強の勇者だって言われていますから。もし本当に危なかったら、逃げ回って、なんとか水晶だけでも回収してきます」
「そ、そうですか……」
神官長は、不安そうにしながらも引き下がる。
と、ぽつりと、誰もいない空間に向かって魔王が言った。
「私を当てにしているなら間違いだぞ。ひとりで行けよ」
「はい。最初から当てになんて、してません。ここでのんびり、おいしいものでも食べてゴロゴロして待っていてください」
「ご、ご一緒しないんですか?」
首長が訊いてくる。それに、僕は肩をすくめた。
「ええ。ちょっと……ケンカしちゃって。でも、水晶の回収くらいでしたら、僕ひとりで平気ですから。魔王さんのこと、よろしくお願いします」
「は、はあ」
「じゃあ、そういうことで。神官長、地図に場所を書き込んでもらえますか」
もちろん、最強の勇者たる力が完全に消失してしまったということを、首長たちは知らない。
だが、だからといって、目の前の事態に手をこまねいているわけにはいかないし、弱音も吐いていられない。
僕は勇者だ。たとえ、茶番によって作られた存在だろうと、僕は勇者だ。
いや、まだまだ勇者としては未熟だと分かっている。でも、そうあろうとしてきた。
みんなが手を取り合って、笑って、楽しく、平和に生きていけるように、そのために戦うという心に、偽りはない。
誰かが犠牲になって成り立つ平和なんて、そんなもの、僕は認めない。
もし、みんなの中からひとり、どうしても犠牲を払わないといけないのなら――
真っ先に犠牲になるべきは、勇者でなくてはならないはずだ。
僕は、そう思っている。
僕は、どこにも逃げるつもりはなかった。




