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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第25話 質屋の旦那いわく #2

「お話は、ここでいいでしょうか」

「ええ、どこでも」

「では、こんな狭い店内で申し訳ありませんが。……ああ、椅子をどうぞ」


 と、旦那は店の一角、アンティークらしい家具の置いてあるところに案内してくれた。


 年代物の椅子に勧められるまま腰かけて、膝に魔王を乗せる。

 旦那も、向かい合うようにして座った。

 まず口火を切ったのは、魔王だった。


「質屋の旦那よ。此度こたびの宝玉盗難事件は、そなたの仕業だな?」


 猫が喋ったのを見てか、あるいは核心を突かれてか、旦那は驚いて口をぱくぱくさせた。

 それに、僕が断りを入れる。


「人の言葉を喋る、魔法の猫なんです。ちょっと性格がキツくて、恐いところがあるので僕はそのまま、魔王って呼んでるんですが。魔王再討伐の切り札になってくれる、心強い大事な味方なんです」


 魔王は僕の言葉になにも言わなかったが、性格がキツくて、のあたりで思い切り爪を立ててきた。

 僕の言葉に、旦那は頷いている。


「……な、なるほど。あの、伝説の猫の森のご出身で?」

「違うというのに。どいつもこいつも、そんなに有名なのか、そこは」


 釈然としていない魔王だったが、気を取り直して、質問を続ける。


「もう一度訊くぞ。此度の事件は、宝玉を我が物にせんと企んだお前の仕業だな? 盗賊を雇い、狂言まで仕込み……その度胸は褒めてやろう。しかし、いかんせん、企みそのものがずさんではあったな。まぁ、妙に知恵の凝らされた企みなどされても、たまったものではないが」

「ずさん? 狂言?」


 僕が訊くと、魔王は頷いた。そして右の前肢をひょいと持ち上げた。

 すると。宝飾品の飾られた一角から、ひとつの水晶玉が飛んできた。くすんでいる。

 僕の目の前の宙空に浮かんだそれを、手にとって確かめた。


「これは……神聖宝玉……?」

「ではない。精巧な模造品イミテーションだ。力が感じられぬ」


 そう言ってから、魔王は言及を始めた。


「筋書きとしては、おそらくはこうだ。この旦那は、どうしても神聖宝玉が欲しい事情があった。そして、一計を案じたのよ。まず、盗賊を雇って、教会より神聖宝玉を盗ませた。その後、盗賊に謝礼を払い、自身は、たまたまその宝玉を買い取ってしまった質屋の店主として、名乗り出る。それからは、宝玉をなくしたフリをして……しばらく経ったころに、この偽物をそっとどこか、見つかりやすいところに置いておくか教会に戻すか、する予定だったのではないか」


 魔王の言葉に、店主は力無く、うなだれた。


「……ええ、おおむね、その通りです」

「そんな」


 意味もなく、僕は言葉を発していた。首を振ってから、言い直す。


「……どうして、そんなに回りくどいことを? そんな必要が?」

「まあ、あったように思っていたのだろう、この旦那はな。悪事の当事者というのは、ごちゃついた計画を立てることで、なんだか知恵を凝らした素晴らしい計画を思いついたのだと思い込むものよ。シンプルに、覆面でもして強盗に押し入り、宝玉を奪い、どこかの街に行方をくらませる、というほうがよほど、上手くいったであろうにな」


 そういうものだろうか。僕は訊いた。


「たとえば、最初の時点で、偽物と本物をすり替えちゃうのではダメなんですか? そのほうが、簡単だと思うんですけど」

「ふむ。小僧の言う通りだが。そうしなかったのには、いろんな事情が考えられる。それではすぐにバレると踏んだか――」


 魔王はじろりと旦那を見て、続ける。


「私の予想としては、最初の盗難の時点では、この偽物はなかった。完成していなかったのではないか。もっと言えば、この宝玉を盗む計画自体が、火急の事態に迫られ、やむなく考え出されたものなのではないか。そう思うのだが、どうだ、質屋の旦那よ」


 訊かれ、ゆっくりと……質屋の旦那は顔を上げた。


 この席についてからまだいくらも時間は経っていないが、すっかり彼は弱り切っていて、気の毒になってくる。旦那が清廉潔白な人だというのは、正しい情報に思えた。


 罪を犯し、それを詰問されるという未知のストレスに、全身を蝕まれている。

 それでも旦那は、口を開いた。


「……悪いことをしてしまった、と思っています。ですが……そうするしか、方法がなかったんです……。あの宝玉がなければ、あの子は……」


 嗚咽のようなものとともに、語尾は消えていく。

 僕は、彼にそっと言葉を添えた。


「あの……。僕たちで良ければ、話してくださいませんか。できる限り、力になってみせますから」


 僕の言葉に、旦那は大きく頷いたりはしなかったが。受け入れる姿勢を見せてくれた。


 彼は、語り始める。


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