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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第24話 質屋の旦那いわく #1

 僕と魔王は、馬を駆って隣町までやってきた。

 馬屋に馬を繋がせてもらい、それから真っ直ぐ、質屋に直行する。


 ガラス製の質屋のドアには、『ただいま臨時休業中』という札がかかっている。

 僕は注意を払いつつ、店のドアに触れた。鍵はかかっていないようだ。慎重に開けると、からん、とベルが鳴る。


「あれっ、おきゃくさん?」


 聞こえたのは、小さな女の子の声だった。反射的に、そちらを見る。


 壺やらの美術品などが無造作に並べられている狭い店内の、特に宝飾品が置いてある一角に、パジャマ姿の女の子が立ってこちらを見ている。


 年齢は――五歳か、あるいはもう少し幼いくらいに見えるが。背丈は、僕の腰に届くくらいで、体つきは少々、痩せているようだった。


 僕は、おかしな反応をしないように心がけているつもりだったが、つい、目を見開いてしまった。


 その女の子が、くすんだ水晶玉があしらわれた首飾りを身につけていたからだ。その水晶玉は手のひら大の大きさで、小さな女の子のアクセサリにしては、不格好に見える。


 しかし、すぐに気を取り直して、僕は言った。


「こんにちは。あの、君は、ここのお店屋さんの女の子かな?」

「うん! そうだよ!」

「そっか。あの、お父さんはいるかな? お父さんと、ちょっとお話したいことがあって、来たんだけど」

「おにいちゃん、おきゃくさん?」

「ああ、違うんだ。ええと……お父さんに相談があってね。お話がしたいんだ」

「ふうん。……あ! ねこちゃん! かわいい!」


 女の子は魔王の姿を認めると、飛びついてきた。

 しゃがんで魔王を抱きすくめると、めちゃめちゃに撫で始める。

 もみくちゃにされながら、魔王は言った。


「お、おい。小僧。このガキを止めろ……!」

「わあ! しゃべった! おにいちゃん、このねこちゃん、しゃべるの?」

「ああ、うん。喋る魔法の猫なんだ」

「すごーい! かわいい!」

「むぎぎぎ、やっ、やめろというのに……!」


 ますますもみくちゃにされる魔王。僕は面白いので、そのままにしておいた。

 が、女の子は唐突に、手を止めてしまった。それから、口元に手を当てる。


「うっ、げほっ、げほっ……!」

「はしゃぎすぎるからだ。大丈夫か?」


 撫でられていた魔王が、女の子に言う。


 傍目には、あまり大丈夫そうではない、重い咳だ。肺になにか、重い病気でもわずらっているのだろうか。よく見ると、肌もあまり、血色がよくない。

 僕もしゃがんで、女の子の背中を撫でた。少しずつ、落ち着いていく。


 僕に魔法が使えれば、もう少しマシなことができるのだろうけれど、こうしてあげるくらいが精一杯だった。

 女の子は胸に手を当ててゆっくり呼吸を整えると、にこっと笑った。


「ありがとう……おにいちゃん、ねこちゃん。もう、だいじょうぶ」


 と、答えたところで、店の奥から慌てた気配が伝わってきた。


「おおい、ちゃんと部屋にいなさいと言った――ゆっ、勇者さまっ!?」


 呼びかけとともに出てきたのは、恰幅かっぷくのいい壮年の男性だ――この人がおそらく、この質屋の旦那だろう。


 お互いに面識そのものはないはずだが、彼のほうは僕が当代の勇者であると知っているらしい。それとも、二年前からの旅のときに、見られでもしただろうか。

 ともかく、僕は立ち上がって声をかけた。


「こんにちは。この質屋の旦那さんで、いいですね? あの、宝玉について訊ねたいことがありまして。事前の連絡も無くて、大変失礼だとは思いましたが、直接、どうしても伺いたいことがありまして、こうして訪ねてきました」

「……はい」


 強ばった顔で、質屋の旦那は頷く。

 なんだか気の毒になりながらも、僕は続けた。


「あの。西の都の――ああ、これも、中央の嫌味な言い方っぽくてすみません。とにかく、神聖宝玉がなくなってしまった事件については、ご存じですよね」

「ええ……。はい」

「それについて、お話、聞かせてもらえますか」


 僕の言葉に、旦那は押し黙った。


 僕の足元では、女の子がなんだか泣きそうな顔で、僕と旦那の顔を見比べている。

 魔王は、そんな不安げな女の子に抱きかかえられて、ぬいぐるみのようにきつく締め上げられている。

 魔王が泡でも吹くんじゃないかと心配になり始めた頃、旦那は頷いた。


「……わかりました。こっちに来なさい」


 最後の言葉は僕と魔王にではなく、女の子にだった。手招きをする旦那に頷いて、女の子はやっと魔王を放して、旦那のもとに駆け寄る。


「……お前は、寝ていなさい。パパは、勇者さまと、ちょっとお話があるからね」

「うん……。わかった」

「いいかい、絶対にちゃんと、寝ているんだよ。パパは大丈夫だからね」

「うん……」


 言い含められても、どうしようもなく不安そうな女の子は、僕を見てきた。

 それに頷き返すと、名残惜しそうに女の子は店の奥に消えていった。

 どこかの部屋のドアが開いて、閉まる音を聞き届けてから、旦那は僕たちに向き直った。


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