第22話 盗賊の尋問 #1
そして、翌日の朝。
僕と魔王、そして神官長と首長の四人で、首長邸のそばにある牢屋にやってきていた。
そう使われたことがないのか、鉄格子はほとんど綺麗なままだ。海が近いから錆びたりしているかというとそうでもなく、しっかりと罪人を閉じ込める役目を果たしている。
まったく犯罪らしい犯罪のない街ではあるが、普段使いされていないかといえばそうでもなく。酔っ払いがうっかり暴れたりすることはあるので、頭を冷やすための場所として使われたりはするのだと、首長がここに来る途中、教えてくれた。
僕は鉄格子の前に立って、目を細めた。牢の中の、盗賊を見定める。
無精髭を生やした、どこか皮肉げな顔つきをした、中年の男だ。歳は三十から、四十の間ほどだろうか? いや、その無精髭を剃って清潔に身なりを整えれば、実際はもっと若いかもしれない。
奥の壁にもたれるように座っていた盗賊は、僕たちの姿を認めると、饒舌に喋り出した。
「お偉いさんがそろって、一体なんのご用で? それに、そのお坊ちゃんと、猫はなんなんですかい? 俺の知ってることは、もう洗いざらい――」
が、それを魔王が、ぴしゃりと遮る。
「盗賊よ、単刀直入に訊こう」
当然、盗賊は驚いた顔をした。嵌められた手錠の鎖が、じゃら、と鳴る。
「しゃ、喋った!?」
「盗賊よ、このお方は、大陸を守るために戦っておられる当代の勇者さまである。そして、こちらの猫は、勇者さまが仲間に選んだ、魔法の猫である。襟を正して、きちんと勇者さまたちの問いに答えよ。その態度次第では、ここから出してやってもよい」
首長は、威厳のこもった声で告げる。
が、盗賊はそれを鼻で笑っていた。
「当代の勇者さまってのは、こんな虫も殺せなさそうな若造だってのかい。で、いよいよ猫の手も借りちまった、と――うわっ!?」
毒づいてくる盗賊の眼前に、突如として火の玉が燃え上がった。
それは彼の顔を舐めるようにして、すぐに消える。怪我はないようだ。無精髭の先端くらいは焦げたかもしれないが。
僕が魔王を諫めようとすると、それを読んでか、僕よりも早く、魔王は言った。
「コソ泥風情が、生意気な口を聞くな。この勇者は温情に溢れているが、私はそうではない。お前がこちらの求める情報を吐くまで、手加減なく尋問をするつもりだ」
なにか、また言おうとして――盗賊は、唾と一緒にそれを飲み込んだようだった。
たかが猫風情が、とか、そんなことを言おうとしたのだろうが、この黒猫は魔王なのだ。今の言葉にも、凄まじい威圧感が込められている。
胆で押し負けた盗賊は、それでも苦し紛れに、言葉を発してきた。
「尋問、ねえ。俺は、もう洗いざらい話したって言っただろう。これ以上、なにを訊こうってんだい?」
「誰に雇われた?」
まさしく単刀直入に、鋭い問いが盗賊を刺した。
誰の目にも明らかな程度には、盗賊はぐっと身体を強張らせた。少なくとも、この盗賊は雇われたのだということは、誰の目にも明らかだった。
それでも、すぐに盗賊は目を逸らし、肩をすくめる。
「なんのことだか。俺は、ご大層な宝玉があるってんで、この街の教会からそれを盗んで、隣町で売っぱらった。で、捕まっちまった。それだけだよ」
「繰り返すが。誰に雇われた? 吐かぬのなら、吐かせることになるぞ」
一切、盗賊の言葉は無視して、魔王は言う。
彼女の放つ緊迫感に、僕までごくりと息を呑んでいた。
盗賊は、だんまりを決め込んでいる。
しばし待った後、魔王は僕の脛をパンチした。
「ふむ。根性だけはあるようだ。やむを得んな。小僧、アレを出せ」
「あ、はい。分かりました」
魔王に言われるまま、僕は持参していた袋から、拷問器具を取り出した。
それを両手で保持して、魔王の前にしゃがむ。
こちらを横目で見ていた盗賊は、いよいよ身体ごとこちらに向き直った。
「おい……。なんだそりゃ?」
「ええと、拷問器具です」
「なに言ってんだ? どこからどう見ても、そりゃあ……」
「ええ、普通に文房具屋で売っている、持ち運び可能なサイズの黒板です」
魔王の代わりに、僕が答える。
拷問器具――黒板の大きさは大体、雑誌程度だ。飲食店の壁に、メニューやおすすめなどを書いて吊しておくような用途のものだろう。
魔王は、ほくそ笑んだようだった。
「さっさと喋っておけばよかったものを。可哀相にな。この世の地獄を味わうがよいわ」
「あ、魔王さん、待って。一緒に耳栓買ったんでした」
「なんだ。早くしろ」
「待ってくださいって。あ、首長さんたちも、どうぞ」
急かされつつも、僕はコルク製の耳栓を配ってから装着した。
準備万端と頷くと、魔王も頷いた。
なにが起きるか理解したのか、盗賊は顔を青くする。
「お、おい。まさか――」
「では、慎んでご静聴願おうか」
魔王は、前肢の爪を剥き出しにした。
僕の差し出した黒板に、突き立てる。
そして、思い切り引き毟った。




