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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第22話 盗賊の尋問 #1

 そして、翌日の朝。


 僕と魔王、そして神官長と首長の四人で、首長邸のそばにある牢屋にやってきていた。


 そう使われたことがないのか、鉄格子はほとんど綺麗なままだ。海が近いから錆びたりしているかというとそうでもなく、しっかりと罪人を閉じ込める役目を果たしている。


 まったく犯罪らしい犯罪のない街ではあるが、普段使いされていないかといえばそうでもなく。酔っ払いがうっかり暴れたりすることはあるので、頭を冷やすための場所として使われたりはするのだと、首長がここに来る途中、教えてくれた。


 僕は鉄格子の前に立って、目を細めた。牢の中の、盗賊を見定める。


 無精髭を生やした、どこか皮肉げな顔つきをした、中年の男だ。歳は三十から、四十の間ほどだろうか? いや、その無精髭を剃って清潔に身なりを整えれば、実際はもっと若いかもしれない。


 奥の壁にもたれるように座っていた盗賊は、僕たちの姿を認めると、饒舌じょうぜつに喋り出した。


「お偉いさんがそろって、一体なんのご用で? それに、そのお坊ちゃんと、猫はなんなんですかい? 俺の知ってることは、もう洗いざらい――」


 が、それを魔王が、ぴしゃりと遮る。


「盗賊よ、単刀直入に訊こう」


 当然、盗賊は驚いた顔をした。嵌められた手錠の鎖が、じゃら、と鳴る。


「しゃ、喋った!?」

「盗賊よ、このお方は、大陸を守るために戦っておられる当代の勇者さまである。そして、こちらの猫は、勇者さまが仲間に選んだ、魔法の猫である。襟を正して、きちんと勇者さまたちの問いに答えよ。その態度次第では、ここから出してやってもよい」


 首長は、威厳のこもった声で告げる。

 が、盗賊はそれを鼻で笑っていた。


「当代の勇者さまってのは、こんな虫も殺せなさそうな若造だってのかい。で、いよいよ猫の手も借りちまった、と――うわっ!?」


 毒づいてくる盗賊の眼前に、突如として火の玉が燃え上がった。


 それは彼の顔を舐めるようにして、すぐに消える。怪我はないようだ。無精髭の先端くらいは焦げたかもしれないが。

 僕が魔王をいさめようとすると、それを読んでか、僕よりも早く、魔王は言った。


「コソ泥風情が、生意気な口を聞くな。この勇者は温情に溢れているが、私はそうではない。お前がこちらの求める情報を吐くまで、手加減なく尋問をするつもりだ」


 なにか、また言おうとして――盗賊は、唾と一緒にそれを飲み込んだようだった。


 たかが猫風情が、とか、そんなことを言おうとしたのだろうが、この黒猫は魔王なのだ。今の言葉にも、凄まじい威圧感が込められている。

 胆で押し負けた盗賊は、それでも苦し紛れに、言葉を発してきた。


「尋問、ねえ。俺は、もう洗いざらい話したって言っただろう。これ以上、なにを訊こうってんだい?」

「誰に雇われた?」


 まさしく単刀直入に、鋭い問いが盗賊を刺した。


 誰の目にも明らかな程度には、盗賊はぐっと身体を強張らせた。少なくとも、この盗賊は雇われたのだということは、誰の目にも明らかだった。

 それでも、すぐに盗賊は目を逸らし、肩をすくめる。


「なんのことだか。俺は、ご大層な宝玉があるってんで、この街の教会からそれを盗んで、隣町で売っぱらった。で、捕まっちまった。それだけだよ」

「繰り返すが。誰に雇われた? 吐かぬのなら、吐かせることになるぞ」


 一切、盗賊の言葉は無視して、魔王は言う。

 彼女の放つ緊迫感に、僕までごくりと息を呑んでいた。


 盗賊は、だんまりを決め込んでいる。

 しばし待った後、魔王は僕のすねをパンチした。


「ふむ。根性だけはあるようだ。やむを得んな。小僧、アレを出せ」

「あ、はい。分かりました」


 魔王に言われるまま、僕は持参していた袋から、拷問器具を取り出した。

 それを両手で保持して、魔王の前にしゃがむ。

 こちらを横目で見ていた盗賊は、いよいよ身体ごとこちらに向き直った。


「おい……。なんだそりゃ?」

「ええと、拷問器具です」

「なに言ってんだ? どこからどう見ても、そりゃあ……」

「ええ、普通に文房具屋で売っている、持ち運び可能なサイズの黒板です」


 魔王の代わりに、僕が答える。

 拷問器具――黒板の大きさは大体、雑誌程度だ。飲食店の壁に、メニューやおすすめなどを書いて吊しておくような用途のものだろう。


 魔王は、ほくそ笑んだようだった。


「さっさと喋っておけばよかったものを。可哀相にな。この世の地獄を味わうがよいわ」

「あ、魔王さん、待って。一緒に耳栓買ったんでした」

「なんだ。早くしろ」

「待ってくださいって。あ、首長さんたちも、どうぞ」


 急かされつつも、僕はコルク製の耳栓を配ってから装着した。

 準備万端と頷くと、魔王も頷いた。

 なにが起きるか理解したのか、盗賊は顔を青くする。


「お、おい。まさか――」

「では、慎んでご静聴願おうか」


 魔王は、前肢の爪を剥き出しにした。

 僕の差し出した黒板に、突き立てる。

 そして、思い切り引きむしった。


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