第21話 盗賊の尋問 #0
川から戻った後の僕たちは、すっかりと意気消沈していた。
それでも漁具を返却し、遅めの食事を済ませて――魔王はアユが食いたかったなぁと未練がましかったが――それから、首長邸を訪ねた。
牢屋にいる盗賊に尋問をしたいと言うと、首長は怪訝な顔をしたが。それだけで、すんなりと許可をもらえた。
ただし、もう遅いので、明日の朝一番に、ということになった。尋問には、首長と神官長も同席するということにもなった。
約束を取りつけて首長邸を辞去する前に、魔王はなにやら首長と話していたが。僕にはなにごとかは聞き取れなかった。
宿までの帰り道、それについて僕は訊ねてみた。
「魔王さん。さっきはなにを話してたんです?」
「ん? いや、一足先に答え合わせをな」
「答え合わせ?」
「うむ。その、質屋の旦那の人となりについてな。訊いただけだ」
「宝玉を盗みそうな人か、ってことですか?」
「んん……まあ、そういうことでもあるか。まあ、人柄は間違いなく、清廉潔白な人間であるらしいがな」
「そうですか。なんだか、僕はちょっと、ショックですよ」
「なにがだ?」
「なんていうか……。この大陸では、そんな犯罪とか、滅多に起きないはずなんです。人のものを盗ったりとか、暴力を振るったりとか」
「……ふん。私と王族とで、完璧な治安を維持していたからな。民どもの不満を、この私が一手に引き受けていたおかげだぞ。あとは、ここがあらゆる資源に恵まれた大陸であるおかげでもある。極端に貧しいものはなく、皆が満たされている、平和そのものの大陸だ。魔王の存在を除けばな」
その通りだ。僕は頷いた。
「それなのに、まさか神聖宝玉を盗む人がいるなんて。なんで、そんなことをしちゃったんでしょう……」
「ふむ。まあ、いろいろ事情はあろうよ。それに……」
「それに?」
「お前は勇者であろう? 人々の味方であるはずだ。私は魔王ゆえ、疑うことしかしないが。神聖宝玉なんて、そんな大それたものに手を出す輩には、それ相応の事情があるのではないか、くらいには思ってやったほうがいいんじゃないのか」
「あ……」
言われて、僕はまた、頷いた。
「そうですね。なんだか、どうかしてたみたいです。魔王さんの邪悪さがうつっちゃったのかな」
「人をバイ菌かなにかのように言うな」
「ごめんなさい。でも、魔王さんの言う通りです。うん……悪いことをしたとしても、きっと、なにか事情があるはずです。それをまずは、盗賊さんに訊かないと」
「うむ。実際に訊いてみるまでは、物事は分からぬ。私の予想とて、完璧だという保証があるわけではないからな。というわけで、小僧。明日の尋問を完璧にするために、拷問器具を買いに寄っていくぞ」
ちょいちょい、と魔王は通りがかりにある店を示した。
店じまいの準備をしている、文房具屋である。
「あのお店に、拷問器具が? なにする気なんです? 鼻の穴とか耳の穴に鉛筆を突き刺すとかですか?」
「案外エゲツないこと言うな、お前……。もっと効果的にいたぶれるものがある。今の私にかかれば、即座に秘密を吐かせられるほどのものがな」
「……うーん、なんだろ。指を一本一本、鉛筆削りでゴリゴリ削るとか?」
「違うわ」
「あ、分かった。糊で鼻の穴とか口とかを塞いで、窒息させるんですね。それか、消しゴムを何個も、無理やり飲み込ませるとか? さすがは魔王さんですね」
「いや、そんなことがすらすらと出てくるお前のほうがどっちかと言えば恐いが……」
ちょっと距離を取りながら、そんな風に魔王は言ってくる。心外である。
「言っておきますけど、糊を使う方法なら、薄手の布かなにかを顔に被せてから塗布するほうが効果的ですよ」
「おい。お前はどこでそんな知識を蓄えた。お前、勇者よりも実は魔王としての素質のほうがあるんじゃないのか?」
「失礼な。本で読んだんですよ、小さい頃に。家に『拷問大全』って本があって」
「子供になんてものを読ませてるんだ、お前の親は……。ガキの手の届くところに置いておくな、そんなものを」
度し難い、という調子の魔王だった。
ともかく、僕たちは文房具屋で目的の買い物を済ませたあとは、宿に戻って、早めに休むことにした。




