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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第19話 宝玉探し #1

「そもそも、なんだかおかしいとは思わぬのか?」


 今日の僕たちは、西の都の北を流れる川にやってきていた。


 大きな川で、宝玉を引き取ってしまった質屋のある隣町は、この川を越えてさらに北にある。川を越えた途中に、昨日浚った毒の沼地もあるのだが。

 僕は、たも網(西の都には、こういう漁具がいっぱいあるので貸してもらった)を川べりから伸ばしつつ、魔王のほうを振り返った。


「なにか言いました?」

「だから。小僧はなにか変だとは思わぬのか?」

「だから、なにが変なんです?」

「まったく。鈍いやつだな。私は最初からおかしいとは思っておったが、この期に及んでも疑問すら抱かぬのか、お前は」


 やれやれ、と嘆息しながら、魔王は続けた。


「いいか。お前は昨日、なにをした?」

「ええと。質屋の旦那さんが落としたっていう宝玉を探しました」

「どこでだ」

「昨日は、このさらに北にある毒の沼地を、瀕死になりながら必死で浚いました」


 ちょっと恨みを込めて言った。が、魔王は少しも意に介していない様子で頷いている。


「うむ。で、今はなにをしておる」

「ええと。今日は、川を探すことにして。漁師さんからたも網とかを借りて、こうして探してみてます」

「うむ。で、見つかりそうか?」

「いいえ。こうして川べりから眺めてみても、ちっともそれらしきものは見当たらないですよね。やっぱり入らないとダメかなぁ」


 僕は右手を日避けの形にして、額に当てた。


 川は昨日の毒の沼地とは違い、まさに清流といった趣だった。透き通った流れの中に、魚が遊び、時折水鳥が羽を休めに降りてくる。


 まだ水は冷たいだろうが、毒の沼地のように一歩ごとに痙攣けいれんする羽目にはならないだろう。ただ、この川は大きい。向こう岸まで、五十メートルほどはある。流れも静かに見えるが、こういう川が危ないと子供の頃に父から教わっていた。


「なあ、小僧。なんでお前はこの川を調べておるんだ」

「え? 魔王さんも同意したじゃないですか」

「まぁ、するにはしたが。お前の意見を尊重してやろうと思ってな。だが、今一度よく考えてみよ」


 魔王に促されて、僕は顎に手を当てた。

 なぜ、ここを調べているのか?


「それは……宝玉が落ちているかもしれないからじゃないですか」

「本当にそう思うか?」


 魔王は、前肢でちょいちょい、と東の方角を示した。そちらを見ると、橋が架かっている。立派な、木製の橋だ。


「あれが見えるな?」

「橋ですね」

「うむ。橋があるのに、なんでお前はここを探している?」

「それは、質屋の旦那さんがここを通ったって言うから」

「うむ、そうだな。だから、それがおかしいと思わんのか」


 今度は、ちょいちょいと手招きをしてくる。可愛い招き猫だな、と思いながら、僕は魔王のところに歩み寄った。


 しゃがむとまずパンチされ、それから地図を出すように促された。それを僕は、川原に広げる。


 地図には、赤いインクで質屋の旦那が通ったルートが記されている。それは昨日調べた毒の沼地に、僕たちが今いる川を通っていた。

 北の隣町から、西の都まで、ほぼ一直線のルートだ。最短距離を通っている。


「どうだ、おかしいだろう?」

「なにがです?」

「お前な……。まず、なんでわざわざ毒の沼地を通り、川を橋も使わずに突っ切るんだ。そんな馬鹿、どこにいる? 火のついた猪か、質屋の旦那というのは」

「それこそ、火のついた猪くらいに慌ててたんじゃないですか? 神聖宝玉かもしれないから、急いで返さないとって」

「ルートを見ると、そう見えるが。現実に急ぐ場合は、全然違うであろうが。急いでいるのに毒の沼地を突っ切るか? お前は。直線の最短距離だからと、こんな川を馬鹿正直に渡るか? あそこに橋があるのだから、そっちを通ったほうが確実に早いであろうが」

「それは……そうかも。でも、慌てすぎていて、橋が目に入らなかったのかもしれないじゃないですか。慌てていたからこそ、宝玉も落としちゃったのかもしれないですし」

「お前なぁ……。どこまでお人好しだ」


 ばしばし、と苛立たしげに魔王は地図を叩いた。


「ただの質屋の旦那が、どれだけ急いでいようとだ。あの毒の沼地を渡りきり、この川も渡り、走って、西の都まで参上したとでも言う気か? どんな体力だ。あり得ぬだろう。そんな体力があるなら、なぜ質屋の旦那なぞやっている。勇者にでもなれ」

「無茶言いますね」

「こいつのやっていることのほうがよっぽどの無茶だ」

「うーん……」


 僕は唸った。


「じゃあ、つまり。魔王さんは、質屋の旦那さんはウソをついている、って言いたいんですか?」

「まあ、そうなるな」

「なんのために?」

「理由なぞ、ひとつしかあるまいよ」


 そう言って、魔王は僕の顔を見返してきた。


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