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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
第一章 西の都 ~海の見える都~

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第17話 西の都の首長は言った

 僕と魔王は、街を散策した後、首長邸にやってきていた。散策といっても、余分な寄り道ではなく、首長邸までの道すがらにあるものを見てきただけだが。


 面会をすると、首長は部屋に入った僕たちを見て、目を丸くした。


「お久しぶりです、勇者さま。……この都へは観光に?」

「いえ、あのう……そういうつもりではなくて、一応事態は逼迫ひっぱくしている感じではあるはずなんですけども……」


 半信半疑で訊いてくる首長に、ひたすら申し訳ない気分で言葉を返す。


 僕は干物の入った袋に、果物の入った袋、新鮮なエビやサザエなどの詰まった袋を両手一杯に持ち、胸当ての隙間からは突っ込まれた商店のチラシが顔を出している。

 そして魔王は器用に尻尾で飴細工の棒を持って、ぺろぺろ舐めている。


 どう見ても、大陸の危機を報せに馳せ参じた勇者とその仲間の姿ではなく、遊びに来た観光客だった。

 僕の言葉に、首長は困惑しつつも、椅子を勧めてくれた。言葉に甘えて、それに座る。


「お話は、数日前に王都からの早馬が届いて伺っています。なんでも、北の魔王の力がより強まる可能性があるので、各地の防御を強めよ、と」

「ああ、はい。そうなんです。僕は、魔王と戦ったんですが、負けてしまって。ええと、その時に……魔王の力はすごく強くなっていることが分かって。もしかしたら、という注意喚起と、万が一の備えだけは、各地でしておいたほうがいいな、ということを報せつつ、結界作成のお手伝いをするために、こうしてやってきたんです」


 でたらめを述べていることに、罪悪感がないわけではない。が、大陸の危機があり、備えておこうというのは正しく、すべてがでたらめというわけではなかった。

 今まで茶番に関わってきた人たちは、こんなふうに自分を納得させてきたんだろう。当事者となって、僕もその気持ちが理解できた。


 僕の言葉に、少しの疑問も差し挟んでいない、そんな神妙な面持ちで、首長は頷いた。


「あなた――当代の勇者は、歴代でも最強である、と言われているのに、それをも撥ね返してしまうほどの強さなんですね、魔王は。いえ、あなたの実力を疑っているわけではありませんよ。勇者さまには、灯台の魔物の件では助けていただきましたし、その力は、この街の民みんな、よく分かっていることでしょう。しかし、そのあなたでも敵わないとなると……一体誰なら、魔王に勝てるというのでしょうか……」


 嘘には、ほんの少しでもいいから真実を混ぜておくと、人は簡単に騙される、という。

 すっかりその気になっている首長に、僕は付け足した。


「僕も、ちょっとショックでしたが。今は心強い仲間がいるんです。今度こそ、討伐してみせますよ。猫の姿なんですが、これがその、仲間の魔王さんです」

「ぶっ!?」


 上機嫌で飴を舐めていた魔王が僕の紹介に吹き出す。

 しまった、と思ったが、時すでに遅しだ。


 これは魔王だと言い切ってしまった。

 僕は、首長と魔王の顔を交互に見た。魔王は、お前なぁ……と目を細めている。首長は、僕の言った意味を計りかねて眉間にしわを寄せている。

 僕は慎重に、取り繕うための言葉を探した。


「え、ええとですね。本当に魔王ということじゃないんですよ。でも、すごく不思議な力がある猫で、人の言葉も喋れるんです。で、僕よりも強いし、じゃあ、これはもう魔王じゃないかってことで、魔王だなんてあだ名をつけて呼んでるんですけどアハハ……」


 ダメだ、わけの分からない説明しか出てこない。背中は汗でびっしょりだ。

 目で魔王に助けを求めると、はあ、と嘆息してから言い足してくれた。


「小僧の言う通り、魔王というのは通称のようなものよ。本物の魔王はもっと美しく、強く、有能な存在だということは知っておろうが。あくまでも、猫の魔の王というニュアンスで受け止めるといい」

「は、はあ……。なるほど。魔王っぽい猫なので、そのまま魔王ということですね」


 僕の言っていることと大差ない気がしたが、その堂々とした態度に、首長は納得してしまったようだった。

 何度か頷くと、首長はぽんと手を打った。


「そういえば、聞いたことがありますね。祖母の語った昔話の類ですが、この大陸のどこかの森には人語を話す猫の隠れ村があり、いつか歴史の表舞台に出ることを画策して爪を研いでいると。ひょっとして、そちらのご出身で?」

「いや、そんな村聞いたことないし、全然違うが……。あったら恐いぞ、そんなもの」

「あるいは、そこから離反なさったはぐれ猫とか」

「違うと言っているんだが……」

「なるほど、なるほど。分かりました。複雑な事情がおありなんですね。ですが、我々は猫といえど、色眼鏡で見たりはしませんし、勇者さんのお仲間なら、なおさらです。村でのことは忘れて、どうか、楽しんでいってください」

「おい小僧。こいつ全然聞く耳がないぞ」


 まぁ、複雑な事情あり、というところは間違っていないので、訂正することはないと思うが。それに、いつか歴史の表舞台に出ようと画策していて、そこから離れてここにいるという点も、見事に魔王のことを言い表している気がする。


「魔王さん、実は本当に首長さんの言う通りの出自だったりしません?」

「ぶん殴るぞ」


 腿の防具の上を、すでに猫パンチしつつ、魔王は言っている。

 なんとか話ははぐらかせたようなので、僕は首長に切り出した。


「では、あの。結界を張る必要があるので、都の神官さんを、集めてもらえますか。準備って、どれくらいかかります?」

「準備ですか。それが……申し上げにくいのですが」

「え?」


 今度は首長のほうが申し訳なさそうな顔になって、言った。


「その、今のままでは相当なお時間を頂くことになるやもしれません。問題がありまして……。神官たちは、その問題にかかりきりなのです」

「はあ。問題、ですか」

「ですが、こうして勇者さまが来てくれたのですから、もう問題はない、とも言えますね。ぜひとも、お力を貸していただきたいのです」

「はあ、分かりました」

「お前な、問題の中身も聞かずに請け負うな」


 魔王が突っ込んでくる。

 が、なにか困ったことがあると言われたらその場でふたつ返事で手伝え、というのが勇者の鉄則だ。ひとまず魔王の言葉は無視して、首長に訊き返す。


「なにがあったんです?」

「それが……」


 首長は語り始めた。


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