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始まりの魔王と終わりの勇者 ~ふびんな天然最強勇者の僕が、猫になった最凶ワンオペ魔王さんと、大陸を救う旅に出た――食べて戦って呪われて恋もする、ハチャメチャな144日間の記録~  作者: 式見 汀花
プロローグ(という名の最終決戦と真実)

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第14話 本当の旅への出発

 たっぷりと生家で英気を養い、僕と魔王(黒猫)は朝一番に登城した。父と母も一緒だ。


 王様は、当面の旅には困らないだけのお金と、鋼の剣、新しい具足を用意しておいてくれた。二年前とは大違いだ。


 二年前の旅立ちのときは申し訳程度の旅費と、棍棒、青銅製の剣、あとは、革製の防具、数日分の糧食とか、そんな程度のものしかもらえなかった。

 こんな装備で魔王が倒せるのだろうか、と激しい不安に襲われたものだった。


 今なら、いきなり最高級の装備を与えるのではなく、必要最低限のところからスタートして冒険のイロハを学べ、という、社会勉強も兼ねていたんだろうなと好意的に解釈はできるが。


 なにしろ勇者は各地を旅して装備を調ととのえて、人助けをしたりして現地で認められたりする必要がある(らしい)。


 当時は、なんで最高の装備でもって、いきなり魔王城に攻め込んではいけないのか不思議で仕方なかった。いち早く攻め込んで、いち早く平和を取り戻さないといけないのではないか、と。そのための準備は、王家がしてくれてもいいんじゃないか、と。


 勇者としての様式美なんだと自分を納得させていたが、魔王の説明を聞いた今――魔王討伐は、魔王と王家による最強の勇者育成のための茶番だった、ということを踏まえると、納得がいく。


 きちんと段階を踏んで強く己を鍛え、困難の数々に挑み、克服し、そうして魔王にお目通りして、認められるかどうか――それが、今までの『勇者』というものだったのだ。


「どうしましたか、勇者よ」


 新しい武具を身につけていると、王様に訊かれた。

 それに、僕は肩をすくめて答えた。


「いいえ。その……大人とか世間って、想像以上に汚いよなぁって思ってしまって」


 王様に対する態度ではなかったが、ちょっとは当てこすりたいような気分だった。この王様はケチだが、温厚な人だと分かっているという打算もある。

 案の定、王様は苦笑いを浮かべつつ、髭を所在なさそうにいじっていた。


「申し訳ありませんね。ですが、システムの維持は……為政者として、王国と民を守るために、仕方のないことだったのです」


 僕は、同年代の人たちと比べて、特に頭が良いわけではない、と思う。


 十五まで学校には通っていた。そこで落第しない程度の成績はあったが、勉強よりも剣の腕を磨くことにばかり時間を使っていた。

 それでも本を読んだりすることは好きだったし、勉学の大事さについては分かっているつもりだったので、討伐の旅の最中は、教会の人なんかにいろいろ訊いて、自分なりに勉強をしたりもした。


 僕は、政治についてはよく分からない。でも、社会というものを直接見て回っていたので、社会について考えることはできる。

 それを守るための王様という立場だ。とても責めることはできないだろう。


 歴代の勇者についても、王家は全員をあつく弔ってきた。

 最初の勇者以外は、魔王によってきちんと亡骸が返還されている。

 勇者が敗れるたび、王都をあげての盛大な葬送の式典が行われたらしい。そして勇者の遺族は、保障を受けることが決まっていたりする。住居や仕事の面倒を見てもらえたり、定期的に給付金がもらえたりもするらしい。


 そういうことを考えると、王家は既得権益の上にあぐらをかいていたのではなく、常に真剣に、この社会を存続させるために全力を尽くしてきたのだ、と理解できる。

 代々の王様がいてくれたおかげで、昨日、僕に挨拶をしてくれた街の人たちみんなが、幸福な生活を送れている。


 魔王はそもそも、とても強い。そんなものを敵に回すよりは、そうしないで済む方法を選ぶ、というのも、健全かどうかはともかくとして、当然に思えた。


 それなら、それでいい。


 利用されていようと、作られた勇者だろうと、茶番だろうと、なんだろうと――封印された邪悪なるものを滅ぼせば、大陸に住むみんなとその生活、社会を守れるというなら、今度はそのために戦うだけだ。


 篭手をめ終えて、王様を見た。


「分かってます。僕は勇者として、ここにいます。甘えたことは言いません。この大陸を守るために、全力を尽くしてみせます」

「うむ……。どうか、頼みます、勇者よ」


 僕は頷き返した。

 それから王様、王妃様と握手を交わし、父とは拳を合わせ、母とは抱擁を交わす。

 ひとまずの、別れの挨拶だった。


 元々僕が旅の中で集めた今までの装備――聖剣や聖なる防具は、この王城で預かってもらうことになった。荷物になってしまうし、まずこれを直すよりも、各地に結界を張って回ることを優先せねばならないからだ。


 すべての準備が終わり、あとは北に向かうだけになったときに、またここに立ち寄り、回収することになるだろう。

 折れた剣、傷ついた防具の修繕にも、全力を尽くすと王様は約束してくれた。旅の間に直るのなら、無駄のない話だ。


 王城の兵士たちの作る花道をくぐり、僕と魔王は城を出た。

 そして市壁の外に待機している、立派な箱馬車に乗り込む。


 今回の旅は、目的が目的なので、最高級の馬、最高級の馬車を借りられるよう、配慮がされている。

 これなら、西の都へも一週間とかけずに到着できるだろう。もちろんそれは、なんのトラブルもなく、旅程が順調にいけばの話だが――


「さあて。いよいよ始まるぞ。ここから先、どんな障害が待ち受けているかは私にも分からぬ。『お芝居』の旅は終わりだ。覚悟はいいな?」

「はい、もちろんです」


 魔王の言葉に、僕は頷いた。

 そう――この旅は、保証などなにひとつない。魔王討伐という、仕組まれた茶番ではない。本当の旅が始まるのだから、どんなことも覚悟していなければならないのだ。


「よし。さて、最初は西の港湾都市か……」


 魔王の呟きを聞きつつ、僕は馬車の外を、窓から眺めた。

 そろそろ四月――命の芽吹き始める季節だ。

 西の都に着くのは、ちょうど四月の頭……というところだろうか。

 新たな始まりには、ちょうどいい時期だなと思えた。


 馬車の窓から見える景色は、どこまでものどかだ。とても、この世界に危機が迫りつつあるのだとは思えない。


 それこそ、この馬車の窓のようなものだと、僕は思った。

 窓から見える世界は、ほんの一部分に過ぎない。

 視界の外には、想像も付かない世界が広がっている。西の港湾都市、東の城塞都市、南の商業都市――などなど。


 二年と半年をかけて回って見てきたばかりではある。

 だが、心持ちひとつで景色がまるで違って見えることがある。


 二年前は、ひとりで馬車に乗り込んだ。

 でも今は、魔王が一緒だ。

 どんな旅になるのだろう。


 期待感と緊張感を膨らませていると、御者が声をかけてくる。


「では、勇者さまとお猫さま。出発いたしますぜ」

「はい、よろしくお願いします」


 僕は本当の旅の開始を意味する返事を、できるだけ声音を抑えて返した。


ここまでがプロローグ(もとい、レギュレーションの説明)です。長かったですが、お疲れさまでございました。

次章よりいよいよ、勇者くんと魔王さんの旅が始まります。

次の西の都編は、十万字ほどの分量で展開されますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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