第112話 破壊龍 #2
どんな言葉をかけていいのか、僕には、皆目見当がつかなかった。
この子は、世界を破壊しようとして、当時の勇者に封印された破壊龍だ。紆余曲折を経て今の時代に蘇り、大幅に力は落ちていたが、邪気に導かれるまま再び大陸を恐怖に陥れようとした。
それはつまり、自分の生きていた時代をすっ飛ばし、知っているものなどなにひとつない遙か未来に、たったひとりぼっちになってしまった、ということでもある。
破壊龍という宿命を背負わされた上で、この時代の完全なる異物にもなってしまった。
そんなことになって、はたして、自分の居場所を見つける、という気持ちになれるものなのだろうか?
罪の意識を抱え、しかしそれを償う相手もいない、全く違う時代に取り残されて。
そんなことなら死んだ方がマシだ、と思うのは、当たり前かもしれない。
僕はその辛さを想像しようとしたが、できそうになかった。
遙か未来に、自分だけが罪を抱えて蘇るなんて、想像できるわけがない。
だが、この子がこの世界に、この時代に馴染めるのかどうかは、僕たちにかかっている。それだけは、確かなことだろう。
それも、ただ気を遣うとか、なだめすかすとか、そういうことではなくて、心から打ち解け合って、信頼してもらえるようにならないといけない。
そのためにどうするのがいいのかは分からないが――
僕は背中を撫でながら、声をかけた。
「……とにかく、しばらく、一緒に行動してみない?」
「……一緒に?」
「うん」
僕はハンカチを取り出して、破壊龍の涙を拭った。
「そうすれば……うん、たぶん、自然と、ああ、ここにいても大丈夫だなって思ってもらえる……そんな気がするんだ。今日は、楽しかった?」
それには、こくりと頷く。が、痛ましい表情だ。
きっと、この子は――過去から今に至るまでにあったことと、自分のしてきたことを、すべて記憶しているんだろう。
受け答えからして利発な感じがあるし、だから、自分のしてきたことの重大さもよく分かっていて……。
今、嬉しいし、楽しい――そういう感情を抱くことに、ものすごい戸惑いがあるのだろう。自分なんかが、嬉しく思ったり、楽しく思ったりしていいのか、と思っているのかもしれない。
それについて考えながら、僕は言った。
「きっと、馴染めると思うんだ。僕たちって、結局は似たものだと思うし」
「……え?」
目を潤ませながら、破壊龍はきょとんとした。
その顔に、笑いかける。
「僕は、一応この時代の勇者で。僕の頭の上に掴まってぶら下がってる黒猫、いたでしょう? あれは、この時代の魔王なんだ」
「……ええっ?」
泣くのを忘れて、驚いた顔になった破壊龍に、僕は続けた。
「聖女さんは、もっと古い魔王なんだって。で、あの、赤い髪の毛の女の子は、僕の次の勇者になるって言われてる。あと、守護龍さんは、きっと……君と同じ時代に作られていて、今は、僕たちの味方をしてくれている」
守護龍のことを訊いて、破壊龍は少し、目を曇らせた。なにか、知っているのかもしれない。
が、ごまかすようにか、我慢しきれなくなったのか、くすっと笑った。
「……変なの。なんで、勇者とか、魔王がいっぱいいて、しかも一緒にいるの?」
「さあ。それこそ……なんでか、成り行きでこうなってるんだけど。でも、楽しく一緒に馬鹿をやりつつ、君を止めることができるだけの力を出せた。仲間だから」
「……仲間」
自分には関係がないもの、という具合に、破壊龍は呟く。
それに、僕は頷いた。
「君も、もう、仲間だと思ってるよ」
「……私も? 勇者の?」
また、驚いたような声だった。それにまた、頷く。
「もちろん。でも、なんていうか……言葉でくくれるようなものでもないと思うけどね。仲間とか、友達とか、家族とか……そんな感じ。どれとも違うような気がする。でも、どれよりも強く繋がってるような……たぶん、そんな感じなんだ」
言うと、破壊龍は、しばし、呆然とした。
なにかを考えているようだ。
しばらく待っていると、彼女は口を開いた。
「……私が仲間になったら……」
「勇者と魔王と守護龍に、破壊龍まで加わることになるね」
「いいの……? それ。もっと変な集団になると思うけど……」
「ふふ、そうだね。でも、面白いし、いいんじゃないかな」
「いいのかな。……面白くても。私なんかが……そんなふうに感じても」
苦しそうに、破壊龍は言う。
僕は、頷いた。




