第110話 激闘後の目覚め #3
魔王が、僕に訊いてきた。
「で……なに食うんだ、小僧」
言われて、考える。
まず、真っ先に頭に浮かんだ食べものがあった。それを答えた。
「じゃあ、みたらし団子が食べたいです」
「は? みたらし団子?」
魔王が間の抜けた声で答えてくる。僕は頷いた。
「はい。みたらし団子が食べたいです」
「なんで?」
兵士長の娘が訊いてくる。それに答える。
「ええと……今回、僕の命を救ってくれたから、かな。改めて食べてお礼をしたいというか、そういう気分なんだ」
「お前はつくづく、わけが分からんな」
魔王がぼやく。
そこを、聖女が取りなした。
「ははっ、まあ、いいじゃないか。起きたばかりだし、重いものも食べづらいだろ。そういうことで、行こうじゃないか。私も甘いものいきたい気分だしねぇ」
誰も反対はしなかった。
僕たちは六人連れ立って、以前に入ったのと同じ、甘味屋ののれんをくぐった。
そして僕はみたらし団子を。魔王はフルーツあんみつを。聖女は三色のおはぎ。兵士長の娘はわらび餅。守護龍はどら焼き。破壊龍は、チョコレート羊羹を頼んだ。飲み物は、全員が濃いめの緑茶を。
注文の品はすぐに揃い、僕たちは会話をしつつ、食べ始める。
「で、どういう意味だい少年。なんでみたらし団子が命を救ったんだ?」
早速、聖女が訊いてくる。
僕はみたらし団子を手に持ち、答えた。
「火炎弾を斬り裂いて、僕はもう、ほとんど力が残ってなくて。みんなの力で背中に取り付いたけど、掴めなくて。で、なんとか背中にへばりつこうと思ったときに使った剣気のイメージが、ここのみたらし団子だったんですよ」
「なにそれ」
兵士長の娘が、半笑い、半呆れで言う。
それに僕は、大真面目に答えた。
「あのとき君にみたらし団子を恵んでもらえてなかったら、そのまま転がり落ちて終わりだったと思う。ありがとう」
「なんか……それでお礼言われても、実感ないけど。お兄ちゃんの助けになったんなら……まあ、いっか」
兵士長の娘は、わらび餅を食べながら頷く。それも非常にぷるぷるもちもちしていて、おいしそうではあった。
と、聖女が破壊龍に訊いた。
「覚えてるかい? 戦いのことは」
それに、破壊龍はまだチョコレート羊羹には手をつけていない状態で、頷く。
「うん……。覚えてる。最初、ここで……なんか、口の中に針を刺された。痛かった」
呟くように言ってから、僕を見てくる。
「あとは……空で戦った。ぶつかろうとしても、ひらひら避けるし、身体にくっついてくるし、逃げ回るし……。本当に、鬱陶しかった……。ぶっ殺してやるって思った」
「あはは……」
わりと真剣に殺意の眼差しを向けてくるが、笑ってごまかす。
僕は、訊いた。
「今は、どう? まだ、ぶっ殺したい?」
それには、目の殺意を引っ込めて、首をすぐに振る。
「……全然。ちょっとムカつくけど……。でも、なんで、あんなに怒ってたんだろうって……そんなふうに感じる」
「そっか。それは、よかった。みたらし団子、食べる? おいしいよ」
僕が勧めると、破壊龍は、みたらし団子を手に取った。
串からそのまま、団子のひとつに齧り付く。
このお店のみたらし団子はこの街の例に漏れず、握り拳ぐらいの大きさがあり、しかも生のお餅のような粘りともちもち感が特徴だ。(今日知ったが、メニューに喉に詰まらせないよう注意、と注釈がついていた)
もにゅもにゅと口を動かし、嚥下するまで、僕らはずっと、破壊龍を見守っていた。
別に喉に詰まらせるのではとか、そんなことが心配だったわけではない。
飲み込んで、破壊龍は微笑した。
「……おいしい」
それに、僕たちも笑顔になる。
いろいろと質問をしようかと思ったが――今はまだ、そういうことはしなくてもいいだろう。時期尚早だし、あまりにも残酷だ。
今は休んで、自然と、自分がここにいてもいいのだと、感じてほしい。
神聖宝玉を取り寄せて、破邪結界を張るまではまだ時間がある。周囲の町村にも張って回らないといけないし、まだ、東の都に滞在することにはなる。
その間に、僕のできることをしよう。
そう思って、僕は笑った。




