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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第109話 激闘後の目覚め #2

「さて、どうしましょう?」

「そうだな。メシが先か、腐れ聖女たちと合流するのが先か、というところだが」


 街ですれ違う人たちは、僕たちを見て笑顔で手を振ったりしてくれる。

 そして、街の中には、なにか活気のようなものが満ちていて、さらに祝日か記念日かなにかのように、商店やレストランが飾り付けをしている。


「あれ、なにしてるんです?」

「ふむ。祭りをするらしいぞ」

「お祭りですか」

「うむ。大破局を免れたのだからな。首長が、そういう通達をしたらしい。今日の夕刻から、数日間は続くそうだ」

「それは、楽しそうですね」

「うむ。……しかし、分かっているな、小僧。戦いはまだ終わってはおらぬ」


 真剣な魔王の言葉に、僕は歩きながら、頷いた。


 祭りの飾りつけをしている人たちを見る。

 街は、幸せな空気に満ちている。


 僕たちは、なんとかこれを守れた。だが、ギリギリの勝負だった。

 そして、本当の敵は、まだいる。

 北の地に封印された、邪悪なるもの。


 破壊龍が纏っていた邪悪――それそのものが敵として立ちはだかってくるのなら、今度こそ、対話の余地などひとつもない、真の脅威との戦いになる。

 それが、最終目標なのだ。ひとまず喜ぶのはいいが、気は引き締めておけ――

 魔王はそう言いたいのだろう。


 僕の力はだいぶ戻ってきたと思う。だが、まだまだ足りない。引き続き、向上していくための努力を、決して忘れてはいけない。


 北の都は後回しで、次は南の都になる。

 少しばかり浮かれていた自分を戒めて、僕は改めて、決意し直す。

 南の都でも、この東の都のような事件が待っていないとも限らないのだ。


「もちろんです。油断しないよう、精進します」

「そうだな。では、どこから回るかだが……」

「え? 次は、南の都じゃないんですか?」

「ん? お前は、なんの話をしている?」


 いまいち話が噛み合わない魔王が、訊いてきた。それに答える。


「え。まだまだ、北の邪悪なヤツを倒すまで、これくらいで浮かれるなって、言いたいんじゃないんですか? 魔王さん」

「そんな先のことを考えてどうする。今は、祭りを楽しめ。私は、この祭りで飲食店が大幅値下げアンド大盛り増量キャンペーンをするから、どこから戦っていくべきか、という話をしていただけだ」

「あ、そうですか……」


 魔王はどこまでも魔王だ。僕は半分呆れつつ、安堵もしつつ頷いた。

 だが僕を見て、魔王は言ってくる。


「なんだ、その気のない返事は。祭りは数日しかないのだぞ。きちんと計画を立てて回らねば、完全制覇など不可能! 分かっておるのか! あれを見よ!」


 魔王が示す先は、広場になっている。

 そこでは、体格のいいおじさんたちが、なにかを準備している。


「出店、屋台も出るのだ。いいか、小僧。屋台グルメを逃すような失態を演ずれば、それは末代までの恥ぞ。心しておけよ。分かったな?」

「分かんないですけど、まあ、分かりましたよ。あとで考えましょ」

「いまいち、覇気のないヤツだな……。事の深刻さが分かっておらぬのか」


 そんな具合に言い合いつつ、僕と魔王は、兵舎のほうへと足を向けていた。

 そのまま何分か歩くと、声がした。


「お兄ちゃん!」


 その声のほうを見る。

 兵士長の娘が、駆け寄ってきていた。

 そのやや後方に、聖女が立っていた。左手側に、守護龍を連れ――

 右手側には、黒いローブを纏った、褐色の女の子がいた。


「お兄ちゃん、目が覚めた? 大丈夫?」

「うん、もう大丈夫。完全に回復したよ」

「もう? お兄ちゃん、バケモノみたいだね」

「魔王さんにも言われたよ」

「まぁ、子供の頃からそうだったし。私は、そんなに心配してなかったけど。ほら、そういえば。昔、木に登って、落ちて、頭打って気絶して、でも次の日にはなにごともなかったかのように稽古してたじゃん、お兄ちゃんって。それで大人の人全部叩きのめしちゃったりしてさ」

「あー、えー、そうだったっけ?」


 とぼける。よくそんな昔のことを覚えているものだ。八年くらい前の、まだ僕もこの子も小さかった頃だと思うのだが。


 と、聖女が追い付いてきた。

 僕を見て、にっと笑う。


「やあ、すっかり回復したなぁ、少年。元気があってよろしい。腹減ったろう? どこか、適当に入ろうじゃないか。私たちも、少年の宿に寄って、メシにするつもりだったんだよ。行き違いにならなくてよかった」

「勇者さん、なにか食べたいものはありますか!」


 守護龍が言う。褐色の女の子は、黙ったままだ。聖女の手を握り、僕からは意図的に目を背けている。

 僕は、褐色の女の子の前にしゃがんだ。

 褐色の女の子――破壊龍は、僕をちらりと横目で見て、すぐに逸らしてしまう。


「ついさっき、目覚めたんだ。ちょいと、シャイな子でねぇ。でも、少年や猫にも会いたいっていうから、連れてきたのさ。身体は、どこにも異常はない。健康そのものだよ」

「そうですか。それは……よかった。本当に、よかった」


 僕は、守護龍と破壊龍を見比べた。

 格好も相まって、色はまるで正反対の双子のようだった。


 僕は、破壊龍に手を差し伸べた。

 一瞬、ぎょっとしたような顔をして、伏し目がちな横目で、僕を見てくる。

 辛抱強く待つと、おずおずと、破壊龍も、手を伸ばしてきた。


 その手を、握る。

 小さい手だった。あの、破壊そのものが具現化したとしか思えない、巨大な破壊龍とは似ても似つかない、柔らかな、小さい手……。


 この手に、すべてを壊せるほどの力が握られていた。

 しかし、今は――これからは、違うはずだ。


 僕はできるだけ、破壊龍の手を優しく握り返して、言った。


「こんにちは」

「……こんにちは」


 小さな声で、返事をしてくれる。

 それだけで、たまらなく嬉しい。


「これから、ご飯を食べに行くんだけど。お腹は、空いてる?」

「……うん」

「なにか、食べたいものはある?」

「……分からない」

「そっか、じゃあ、僕たちについてきてくれる? 一緒に食べよう」


 それに、破壊龍は無言でこくりと頷いた。


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