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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第108話 激闘後の目覚め #1

 腹の上に、漬物石が乗っている。


 僕は、仰向けで寝ているのだが、漬物石が、僕のお腹の上に乗っている。

 それは真っ黒で、丸い形をしていた。


 なぜか僕は、全く身体を起こせない。手も、足も動かせない。

 ただ、身体――腰のあたりだけは動いた。

 お腹の上の漬物石を、芋虫のように身体を揺すって、振って、落とそうとする。


 しかし、漬物石は意思を持つかのように僕の動きに追従してきて、ぴったりと僕のお腹の上に乗ったままだ。


 くそ、なんだ、こいつは。

 悪態をついて、さらに動く。

 と、漬物石は重くなった。


 苦しい。

 漬物石は、どんどん重くなる。


 このままでは、お腹が潰れる。放っておけば、押し潰されて、口から内臓を吐き出してしまうかもしれない。それくらい、重い。


 僕は、声も出ない喉で、悲鳴を上げた。

 漬物石が、じわじわと重くなっていく。

 もう、身体を動かすこともできない。


 僕のお腹が、みしみしと音を立てているような気がする。

 ダメだ、潰れる。死ぬ……!

 黒い漬物石のせいで、内臓が潰れて、背骨が真っ二つにへし折れ――




 ――た、というところで、僕は目を覚ました。


 ひどく、汗をかいていた。悪夢のせいだ。

 ずいぶんと、いやな夢だった。あの漬物石の感覚は、とても生々しく、今も腹部に残っている気さえする……。


 宿の天井が見える。

 寝ているのは、ベッドのようだ。


 そうか――僕は、あの戦いの後、無茶がたたって、倒れたのだ。

 肘を支えにして、僕は上半身を起こした。


 と――

 ころん、と、腹の上から、黒い塊が転がった。

 それは器用に体勢を立て直すと、ベッドの空いているスペースに寛ぎ、僕を見てくる。


「おう。起きたか、小僧」

「……魔王さんのせいだったのか」


 僕が言うと、魔王は怪訝な顔をした。


「なにがだ?」

「いえ、なんでもないです。生々しい悪夢を見ちゃって」

「ほう。あれだけ肉体と精神を酷使したのだからな、無理もないな」


 うんうん、と頷いている。いや、あなたがお腹に乗っていたせいなんですが……。

 その言葉は飲み込んで、僕は訊ねた。


「僕、どれくらい寝てました?」

「丸一日だな。あの戦いが終わってお前が倒れたのは、午後一時三十分過ぎだ。戦いは、ほんの三十分ほどだったわけだな。で、今は翌日の……そろそろ、正午だ」

「そうですか。……ずいぶん、寝ちゃいましたね」

「そうだな。回復したか?」

「ええ。倒れたときは、死ぬほど痛かったですけど、今はもう、なんともないです」

「バケモノか、お前は」

「ひどいなぁ。生まれつき、頑丈なんですよ」

「その耐久力と回復力を、それだけで済ますのは、なんだか間違っている気がするな」


 魔王はそう言ってから、大きくあくびをした。

 それを見て、訊ねる。


「魔王さんは? 大丈夫ですか?」

「なにが?」

「あの戦いで、なにか影響は? 力を使いすぎたとか」

「ふっ、あるわけなかろう。あの程度、労働にも入らぬ。慣れない守りなどを担当したせいでの疲れはあったがな。元々、あの巨龍はかつての一万分の一の力しか出せなかったのだ。それに後れを取るわけがあるまい」


 それは、そうだろう。僕がなんとかできたのだから、僕よりも強い魔王なら、全然へっちゃらで当然か。

 と、腹が鳴った。

 それを聞いて、魔王が笑う。


「空腹か。調子もいいようなら、出掛けるか。あの聖女どもも呼ぼう」

「はい。そういえば、みんなは?」

「腐れ聖女は、修道士の臨時詰め所だ。小娘は、守護龍と一緒に兵舎だろうな。聖女のほうと合流しておるやもしれぬ。黒き龍の核であった小娘のことを、気にしていたからな」


 黒き龍の核の小娘――

 それを聞いて、僕は、いてもたってもいられなくなった。


「あの子、どうなったんです?」


 が、魔王は落ち着いた声でこちらを制してきた。


「まだ寝ておる。お前が慌てたところで、どうにもならん。力は完全になくしておるし、あれはもう、ただの小娘よ。ひとまずは、あの腐れ聖女の言う通り、好きなだけ寝かせてやればいい。話は、それからでよかろう」


 それに、僕は頷いた。


 あの子は、自分が破壊龍と化していた時の記憶は持っているのだろうか。

 古代を蹂躙し、多くの命を奪っただろう、破壊龍としての記憶を。

 それを考えると、憂鬱になる。


 が、考えても始まらない、という気もした。

 覚えていようと、いまいと。僕たちがあの子を受け入れ、癒やしてあげないといけないというのが、唯一、言い切れることだろう。


 目を覚ましてくれたら、いろいろ、話がしたい。

 そう思いながら、僕は魔王に訊ねた。


「分かりました。で、魔王さんは、なんでここに?」

「さあな。まあ、食べ歩きでもしていてよかったんだが、財布はお前が持っておるし、仕方がないから、ここで目覚めを待っておったのよ」


 その言葉に、僕は笑った。

 魔王は、不機嫌そうに目を細める。


「おい、なにがおかしい」

「いえ。ごめんなさい、我慢させちゃって」

「まったくだぞ。もっと早く起きろというのだ。うんうんうなされておるから、こっちもロクに寝られなかった」


 それを笑いながら聞き流して、僕はベッドから起き上がった。

 荷物袋から新しい服を出して着替えて、魔王とふたりで、街に出た。


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