第107話 確かな勝利
僕たちは、すぐに少女へと駆け寄った。
聖女が、身体を抱え上げる。
「なんてこった。息があるよ!」
それに、僕たちは歓声を上げた。兵士長の娘、守護龍とハイタッチをする。
よく分かっていない兵士長は、僕に訊いてきた。
「ゆ、勇者どの! その、子供は?」
「この子は……あの黒い龍の核になっていた、女の子なんです」
僕はかいつまんで、魔物とその核についての話をした。
魔物との戦闘経験も豊富な兵士長は、すぐに理解をしてくれた。
「……か、核に、幼子を……。なんと……そんなことが……」
「ええ。でも、この子には、なんの罪もないはずです。悪いのは、この子を破壊の権化に作り上げた、大昔の魔王のはずですよね。どうか――」
「無論です。おっしゃる通り、この子に罪が、あろうはずもありません」
兵士長は僕にみなまで言わせず、痛ましそうに、首を振った。
「なんとも、むごいことをするヤツがいたものですな……」
「はい……。でも、邪気はなくなりましたから。あとは、僕たち次第のはずです」
「そうですな。その通りです」
兵士長は、深く頷く。
聖女が、お姫さま抱っこの形で、少女を抱えて立ち上がった。
僕は改めて、少女の顔を見る。
黒く、長い髪。褐色の肌。しかし顔の造作は、守護龍にうりふたつだ。
聖女は言った。
「じゃあ、この子は教会に任せてもらうよ。修道士たちに預けて、看病させよう。魔法の力で無理やり治したり起こしたりするよりは……ちゃんと人の手で世話をして、自然と目を覚ますほうが、いいだろうからねぇ」
それに、全員で頷く。
と――
僕の視界が、いきなり回転した。
「お兄ちゃん!?」
兵士長の娘が叫んだ。
頭の上から、ぴょんと魔王が飛び降りる気配がした。
僕は、午後の青い空を見上げていた。
見上げたまま、なんにも身体が動かせない。声も出ない。
どうやら、仰向けにぶっ倒れたようだ。
遅れて、全身に激痛を感じ始めた。
身体の中で、この都の鐘楼の鐘が鳴っているような激痛が暴れている。
全身が、バラバラになりそうな痛みだった。
と、視界の端から、ひょいっと魔王の顔が覗いてきた。
「あの粉末の効果がなくなったようだな。戦闘時の興奮も収まり、安堵し、気が緩み、身体の悲鳴がようやく聞こえてきた、というところか」
あの粉末の効果って、一時的なものだったのか。僕は胸中で言った。
それを読んだように、魔王が答えてくる。
「当たり前だ。身体についた粉末が、大方取れてしまったのだな」
――なんで、こんなに痛いんでしょうか。気が狂いそうなんですけど。
「お前が、限界を超えて無茶をするからだ。馬鹿たれめ。特に、アレだ。あの、火炎弾を斬った剣気。あんな無茶、下手をすればそれだけで力尽きて死んでおるぞ。まぁ、あれだけのことを、感情の昂ぶりだけでこなしてしまうのだからな、馬鹿もおだてれば木に登るとは、よく言ったものよ」
ぺしぺし、と魔王は僕の額を肉球で叩いてくる。
それだけで、全身が砕けそうに痛むので、やめてほしいのだが。
僕を眺めてたっぷりせせら笑ったあと、魔王は言った。
「まあ、せめてもの労いに宿まで運んでやる。安心して気絶するがよい。よかったな、小僧。やっとベッドで寝られるぞ」
それに頷こうとしたが、首筋ひとつ動かせそうにない。
が、魔王の好意に甘えて、僕は意識を手放した。
激痛に彩られているが、確かな勝利の満足感と共に――




