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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第106話 破壊と、救済

「お兄ちゃん、無事!?」

「無事だったかい、少年。よくやったな」

「勇者さん、大丈夫ですか!」


 ほとんど同時に発せられる声に微笑み返して、手を差し出す。

 全員とハイタッチして、僕たちは無事と再会を喜んだ。


 やがて、都の人が集まってくる。巨龍を倒したのが、分かったのだろう。特別警報が出ていたが、それくらいでは人の好奇心に蓋はできないだろうし。

 僕たちを遠巻きに都の住民が囲み、拍手をしてくれる。


「さすがは勇者さまだ! こんなデカい龍を倒しちまうなんて!」

「龍殺しだ! さすがは、最強の勇者さま!」

「俺は見たぜ! あの勇者さま、落ちながら戦ってたんだ!」


 そんな具合に、口々に喝采が飛んでくる。それに頭を下げていると、兵士長が兵士を引き連れて駆けつけてきた。


「勇者どの! ご無事でしたか!」


 兵士長は、息を切らせて僕の目の前までやってきた。


「ええ。なんとか、倒すことができました」

「さすがは、勇者どの。望遠鏡で、我々も見ておりました。空中で、丁々発止と渡り合い、しかも、あの火球を剣で一刀両断に! まさに勇者どのこそ、武の化身!」

「いや、そんな……。大袈裟ですよ」


 どれもひとつ間違えば死んでいるような無茶ではあったが、言うほどのことはしていない。強いて言えば、運が良かったんだろう。

 そんな会話の間に、兵士たちが人々を広場から遠ざけて、封鎖しようとしている。


「して、この巨龍の亡骸は……?」


 兵士長の問いには、魔王が答えた。


「まあ、待て。いずれ、答えが出る」

「答え?」


 兵士長は訊き返してくるが、魔王は僕に向かって言った。


「魔物の肉体として凝り固まった邪気は、核を失うとじきに空気に紛れ、溶けるように消える。完全に死んでおれば、核になったものも一緒に消える。小僧の祈りが届いていれば……なにかが残るはずだ」


 それから魔王は、破壊龍の死体へと目を向けてから、訊いてきた。


「小僧。お前に、あの龍は、なにかを答えたのか?」

「いいえ。……ただ、声みたいなものは聞こえました。断片的な」

「記憶のカケラのようなものか。お前の力は、宝玉の粉末によって高まっていたから、それに触れることができたのかもな。なんと言っていた?」


 僕は、目を閉じて思い出そうとした。


「声は……こんな感じでした。『やめて、おとうさん』『いやだ、私』『お別れ、したくない』――そんなふうに、泣き叫ぶ、小さい女の子の声が、延々と……」

「……反吐が出るな」


 吐き捨てるように言う魔王。僕も、頷いた。


 恐らくは、あの破壊龍の核は、あれを作った魔王の実子なのだろう。

 嫌がる我が子を、無理やりに、その核としたのだろう。

 やるせなさを感じながら、僕は続きを言った。


「他に、感じたのは……どうしようもない悲しみ。あとは、憎しみでした。自分をこうした魔王への怒り……だと思いますけど」

「ふむ……。恐らく、兵士長の語った龍破戦役とやら。あの龍を作った魔王は、ご多分に漏れず、あの龍に殺されたのであろうな。しかし、目先の恨み、憎しみを晴らしても、真の意味でそれが晴れることはない。それどころか、その感情の振り下ろす先を失って、どこまでもあの龍は暴走していったのであろう」


 そこまで言って、ぽつりと小さな声で魔王は結んだ。


「その古代の破壊劇というのは、あれが邪悪な魔物であるからだとか、そういうことではなく……孤独な子供の癇癪かんしゃくでしかなかったのだろうな」


 それを聞いて、僕は胸が締めつけられる思いだった。


 最強の力を持つ、破壊龍――


 僕も、道を踏み外せば、このようになっていたかもしれない。

 でも、僕は、僕を導いてくれる人に恵まれていた。


 父、母。稽古先のみんな。聖女。

 あるいは、生きてきて出会った人のすべて。

 そして、今、傍にいてくれる魔王。

 だが、みんなが傍にいなかったら、僕もこうなっていたかもしれない。


 破壊龍は、幼い頃に、いきなり破壊龍に仕立てられ、どうするかも分からず、導いてくれるものもなく……ただ、盲目に暴れ続けるしかなかったのだろう。


 それを想うと、ひたすらに辛い。


 見ると、聖女も、兵士長の娘も、魔王の言葉を聞いて、痛ましい顔をしていた。

 守護龍は、ぼろぼろと涙を零していた。


 ここにいるみんなが、力を持つ人だ。

 その辛さ、恐ろしさが、具体的に想像できるのだろう。


 だから、僕たちがやらなければならなかった。

 だから、僕たちが止めなければならなかった。


 もし、助けることができたなら、僕たちが力になってみせる。


 聖女の言う通り、生きるというのは、ロクでもない――楽しいことだけでは、ないのかもしれない。

 それでも、一緒にいてくれる人がいれば、どんな些細なことだって楽しくなる。どんな辛いことだって、笑い合って乗り越えられる。

 生きてさえいれば、どこかで必ず、生きていてよかった、と思えるくらいに素晴らしい出来事がある。


 それを、教えてあげたい。


 神を信仰していたりはしないが、僕は、天に向けて祈った。

 どうか……この子に、もう一度生きるチャンスをあげてほしい。


 僕たちは、静かに巨龍の死体を見守った。

 やがて、風に紛れて、その巨体が少しずつ、削れるように、蒸発するように減っていく。

 固唾を呑んで、僕たちは見守った。


 そして、巨龍の死体があった場所には――


 ぽつんと、眠るようにして横たわった、褐色の肌の少女の姿があった。

 魔王が言う。


「……やったな、小僧。お前の勝ちだ」

「……はい!」


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