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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第105話 天空の決戦 決着

『この声は、魔法で声をそっちに飛ばしてるのさ。ついでに、お助けアイテムも投げるから、猫、受け取れ。なあに、こんなこともあろうかと、ってヤツさ。お礼は少年、身体で払ってくれればオーケーよ。分割払いでもリボ払いでもねぇ』


 わけの分からないことを言って、声は途絶えた。

 僕は、なんとか顔を上げた。首を動かすのもだるい中で、守護龍の方角を探す。

 暴れ回る破壊龍の背という、回転する視界の中で。ちらりと見えた。方角が分かった。


 そちらから、なにかが飛んでくるのも分かった。


「なるほどな、そういうことか……! あの、腐れ聖女め! やってくれる!」


 魔王が歓喜の声を上げた。


「我々の勝ちだ、小僧!」


 魔王の言葉に、僕は頭上を見上げた。

 そこには、言った通り、聖女が投げてきて、今しがた魔王が魔法で受け止めたのだろう――出撃前に修道士から聖女が受け取っていた、謎の革袋が浮かんでいた。

 魔王はそのまま魔法で袋の口を解いて、空中から直接、中身をばらまいた。


 中身は、僕に向かって降ってくる。


「これは――」


 なにかの、粉末だった。陽光を浴びて、目も綾な輝きを放っている。


 それが僕の身体に降りかかる。

 なぜか――信じられないほどの力が、身体の底から湧いてきた。

 干からびた泉に、新しく地の底の水脈から水が満たされるような、そんな感覚とでも言えばいいだろうか。


 と、また声が響いた。


『全回復しただろ? それどころか、いつも以上の力が湧いてきただろう? ご利益たっぷりだからねぇ。それもそのはず、そいつは、その龍がぶち壊してくれた――東の都をずっと守ってきた、あの神聖宝玉なんだ。その破片をさらに細かく砕いて、粉末にしてやったのさ。巨大都市の結界を維持し続けてきた、そんな生命エネルギーの詰まった宝玉の粉末なんだ、どんな酒よりも効くだろう?』


 酒の味は知らないが。そして、心底嬉しそうに酒を呑む聖女ほど、そのありがたみを感じられているかは自信がないが――

 僕は立ち上がり、大声で答えた。


「ありがとうございます、お姉さん!」


 都を守ってきた神聖宝玉を粉々にして『回復アイテム』にしてしまうなど、とんでもなく罰当たりだが、それがたまらなく、あの人らしい。


 どんな聖女よりも聖女らしくなく、どんな聖女よりも、聖女らしい。強いて言うなら、やっぱり元魔王――それが、あの人だ。


 僕は、半ばで折れた剣を振り上げた。

 回復した力で、再び剣気を束ね上げる。

 今度は、光の刀身ではなく、つちのような形にして。


「やれ! 小僧!」


 魔王の言葉に頷いて、僕は剣(鎚だが)を振り下ろした。

 がつん、と両手が痺れるほどの手応えが返ってくる。

 ずぶり、と折れた剣身が、巨龍の体躯に完全に埋まった。


 瞬間、破壊龍は身体を大きく、痙攣させた。


 すっ――と、驚くほどにあっさりと、巨龍から力が失われたのが分かった。


 そのまま、僕たちを乗せて、破壊龍は落ちていく。

 今までのことを思えば、とても緩やかに感じられる自由落下の中で、魔王が言う。


「よくやったぞ、小僧。今回ばかりは、素直に褒めてやる。すべてが綱渡りだったが……そのすべてを、お前は見事に渡りきった。誇るがいい。お前は、かつての世界すべてを蹂躙した龍に、勝利したのだ」

「僕の力じゃないです。みんなが、いてくれたから。僕だけじゃ、絶対に無理でした」

「うむ。その通りだな。ありったけ全部、使い切った。チームワークの勝利だ」


 魔王の口からそんな言葉が出ると、思わず笑ってしまう。

 魔王も笑い出した。自覚しているらしい。

 落ちながら、僕たちは言葉を交わす。


「魔王さん。この龍の核になったのって……」

「想像はついているだろう。おそらくは、子供だ。……あの守護龍と同じくらいであろうな、たぶん」

「魔王さん、あの、守護龍さんも……」

「うむ。人の子を核としている。勇者が、なにゆえそんな非人道的な方法で守護龍をこさえたのかは、私には分からぬが。事実として、あの守護龍は少女を核とし、それを聖なる力で覆い、龍に形成したのだ」

「どうして、そんなことを……」

「分からぬな。暇なら、小僧が考えろ。人の心を推し測るのは、お前の分野だ」

「うーん……」

「ふん、私の考えでは、よくできた勇者であったのだろう。未来の平和を守るため、少女を守護龍の核として犠牲にすることも厭わなかった。それだけだろう」

「もー、相変わらずの魔王思考なんですから」

「ふん。魔王だから当然だ。悔しければ、勇者思考とやらを見せてみろ」


 でも、本当に、なんでなんだろう?

 僕がその勇者なら。いくら未来の平和を守るためとはいえ、人を――それも、あんな小さな女の子を核にしてしまうなんて、絶対にできない。


 なにか理由が、絶対にあるはずだ。

 そして理由は、この破壊龍にだって、きっとある。

 僕は、落ちる巨龍の背に、手を当てて耳を澄ませた。


 ――なにか知っているなら、教えてほしい。無念があるなら、僕に打ち明けてほしい。


 祈る。


 沈黙する巨龍の心に、できる限り、この落ちている間だけでも寄り添いたい。

 僕はひたすら、巨龍に呼びかけ――

 数秒して、巨龍の死体は、地上に激突した。


 その場所は、東の都の中央広場だった。

 だだっ広い、石畳の上だ。みんな避難していて、誰もいない。


 そして激突とはいっても、接地の瞬間に魔王が魔法を使って、音もなく地面に着地させている。


 僕たちも無傷で、龍の背中から降りる。

 と、守護龍が空から降りてきた。その背から、聖女、兵士長の娘が降りてきて、守護龍は少女の姿に戻った。

 三人が、僕と魔王のところに駆け寄ってくる。


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