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始まりの魔王と終わりの勇者  ~猫になった最凶魔王と天然最強勇者のハチャメチャ144日間大陸救済旅~  作者: 式見 汀花
第二章 東の都 ~いろいろとデカい都~

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第104話 勇者の挑戦

 僕は、すぐに言い返した。


「僕がなんとかします。魔王さんは、しがみつく準備をお願いします」


 魔王が火炎弾の処理に力を消費してしまえば、巨龍の身体にしがみつけない。

 かといって避けてしまえば、背後の守護龍たちが危ない。

 それなら、僕がどうにかするしかないのだ。


 魔王は、なにも言い返しては来なかった。ただ、一言だけ。


「任せる」


 そう言った。


 その一言は、さらに僕の心の奥底から、力を呼び起こしてくれた。信頼してくれている魔王の目の前で、それを裏切れない。


 僕は可能な限りの剣気を、剣に纏わせた。

 折れた部分の刀身を補うように、剣気を束ねて作った刀身が現れる。

 それを、両手で構えた。


 破壊龍は、けたたましい咆哮と共に、火炎弾を放ってきた。

 尋常でない速さだ。着弾まで、何秒もない。


 迫る火炎弾で、破壊龍の姿も見えない。燃えたぎる炎の塊が、視界を埋め尽くす。


 僕は、前方へ身体を回転させた。

 イメージには、火炎蜥蜴と戦ったときの経験が活きている。あの時は、身体を微々たる剣気で多い、かろうじて丸焼きを避けることしかできなかったが。

 今なら、もっとマシな方法を思いつき、実行に移すことができる。


「う――おおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 破壊龍ほどではないが、僕も叫んだ。


 気合いに乗せて、剣気を思い切り、振り抜く。自分の全生命力をぶつける。掛け値なしの全力で、剣気を束ねた刀身で、極大の火炎弾に斬り込む。


 僕の狙いは単純だ。

 火炎弾を、真正面から、斬り裂く。


 剣気でどれほど刀身の長さを稼いでも、およそ三十メートルの直径を誇る火炎弾を斬ることはできない。

 だが、剣圧と、火炎弾そのものの推進力を利用すれば、可能だと思っていた。

 火炎弾自体に威力がありすぎるのが、弱点なのだ。それを見切る技術さえあれば、ちょっとした障害物でも、その軌道を逸らすことは可能なはず。


 僕は、そういう技術には、他の人よりも自信があるのだ。


 火炎弾の威力に逆らわず。真っ直ぐにぶつかりながら、剣圧で空気を斬り裂く――

 僕は、回転しながら剣を振り抜いた。


 手応えは、なにもない。剣の素振りの時に感じる、剣に纏わりついてくる空気を引き剥がし、裂くような感覚だけがあった。

 熱波が、ちりちりと肌を灼いた。剣に剣気を回さねばならなかったので、身体を守る剣気は、最小限にしている。


 すぐに、視界は開けた。

 地上を背にする、破壊龍の姿が見える。


 すべては、刹那の出来事だったが。僕の剣は、見事に極大の火炎弾を切り裂いていた。

 身体で、感じる。切り裂かれた火炎弾は左右に分かたれ、どこかへ消えていった。守護龍にも命中していない。


 しくじったことを悟った破壊龍は、当然、身を翻して僕らを避けようとする。

 だが。


「逃すか!」


 魔王が叫ぶ。ぶわっ、となにかの力が、魔王から起こる。

 避けようとする巨龍の動きに追従するように、僕たちの身体も動いた。


 が、破壊龍の動きが速い。追従する速度よりも、逃げるほうが速い。

 このままでは……通過してしまう。


 と、その時だった。

 なにか鋭い輝くものが、破壊龍の眼前を通過した。

 龍は、びくりと驚いたように、回避行動を止めた。


 僕は、すぐに理解した。兵士長の娘だ。

 彼女が、剣気を込めた矢を、破壊龍に放ったのだ。

 先だってその威力を文字通りに味わっていた破壊龍は、その記憶のせいで、反射的に動きを止めてしまったのだろう。


 おかげで魔王の力が、完全に破壊龍を掴んだのが分かった。

 ぐい、と僕たちは破壊龍に引きつけられた。そのまま、背中に衝突する。


「小僧、剣気で掴め!」


 魔王が叫ぶ。が――力が入らない。

 火炎弾を切り裂くのに、全エネルギーを消費していた。なけなしの剣気をなんとか振り絞るが、ほんのわずかしか出ない。


 指先が龍の背中を掻いて、滑っていく。落ちる。掴めない。


「小僧、工夫しろ! 張り付け! タコの吸盤かなにかを模倣しろ!」


 張り付けそうなもの――

 僕の頭に過ぎったのは、タコの吸盤ではなく、極限のひもじさの中で兵士長の娘に一本分けてもらった、みたらし団子のもちもち感だった。


 手のひら全体に剣気を広げ、それを必死にイメージする。


 ――しくじれば、死ぬんだ。やれ、思い描け! 僕の命を救った、あの、団子のもちもち……もちもちした感じを……!


 なんとか、それは功を奏した。

 破壊龍の背を五メートルほど滑って、僕たちは止まった。


 そのまま、そのイメージを活かして滑り止めにし、僕たちは背中を這い上った。

 ようやく、刺さったままの剣身に辿り着く。


 が、僕の膝は勝手にがくりと曲がった。まるで、身体に力が入らない。


「しっかりしろ、小僧! あとは、こいつを押し込むだけだ! 私の邪気ではなく、お前の剣気でなければ、起こる奇跡も起こらぬのだぞ!」


 魔王が叱咤の声を飛ばしてくれる。


 しかし、情けないことに、無茶をしすぎたせいか、一度折ってしまった膝を伸ばすことはできそうになかった。できるなら、大の字になって寝てしまいたい。


 と、破壊龍が旋回を始めた。僕らを、また振り落とす気だ。


 魔王は、僕の分も力を使い、破壊龍の背にしがみつこうとしている。

 だが、巨龍はどんどん動きを激しくしていく。無理だ、剥がされる。

 そんな少しも動かせない、諦めようとする身体に、必死に抗っていると――


『おほん。お困りかね、少年』


 なんと、声が聞こえた。神々しいものではない、いつもの聖女の声だ。


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