第100話 天空の決戦 #3
僕が呼びかける間、巨龍は空中に静止していた。
それは風を切る轟音もなにもない、完全なる静寂の世界だった。まるで、全く異なる世界に、僕と魔王と破壊龍、三人で取り残されたような。
だが。破壊龍は突然、頭を持ち上げると巨大な咆哮をあげた。
それから、身体を翻す。邪気を発散し、猛スピードで動き始めた。
背中から僕らを振り落とす気だ。
「魔王さん! これ、どう思いますか」
「交渉決裂じゃないのか!」
必死で動きに堪えて、背中にしがみつく。守護龍とは乗り心地が違いすぎる。
「この龍に、心はあるんですか? 僕の呼びかけに、一応は反応してるんじゃないですか、これは!」
「さあな。どちらとも言えぬ、が、調べる方法はあるぞ」
「なんです?」
「魔物には、『核』と呼ばれるものがある。なければならない。それを調べるのだ」
「どうやって?」
「いいか、お前は魔物を殺す際、心臓や脳を狙っていただろうが――」
そこで、破壊龍はより激しく旋回した。言葉が途切れたが、すぐに魔王は続ける。
「くそ、説明は後だ。いいか、ちょうど、お前の足元。背中の急所を狙え。剣を突き刺すんだ。もちろん、剣気を使え」
「死んじゃいませんか」
致命傷になり得る位置だ。
だが、魔王は静かに答えてきた。
「私は、お前の馬鹿に付き合う覚悟をしたぞ。お前はどうだ? 私を信じるか。口車に乗せて、この龍を殺させようとしていると思うのか?」
数瞬、魔王の言葉以外の音が途切れる。
その中で、僕は苦笑した。
「なに言ってるんですか。僕はいつも、魔王さんを信じてますから」
「調子のいいことを」
頭の上でも、苦笑する気配がした。
僕は右手一本で、剣を構えた。剣気を刃に纏わせ、魔王の言う通り、背中の中心を狙う。
――ごめんね。
胸中で謝りつつ、剣を突き下ろす。
剣が、背中の急所に突き立った、その瞬間――
半ばから、剣がぶち折れた。
「なっ――」
思わず、声が出る。
破壊龍が、また身体を翻す。今度は思い切り、その巨大な体躯を回転させてきた。
剣が折れるという事態に気を取られた一瞬の出来事だった。僕の身体はなす術なく、空中に放り出された。
が、落下の感覚は数秒だけで、すぐに身体がなにか、柔らかいものに受け止められた。
聖女だった。お姫さま抱っこの形で、僕を受け止めてくれている。
落下先に、守護龍が回りこんでくれたのだ。
「おかえり、少年。初日の逆だねぇ」
「どうも」
それだけ言って、下ろしてもらう。
「お兄ちゃん……腕!」
篭手は砕けて外れ、めちゃくちゃな形になっている僕の左腕を見て、兵士長の娘が悲鳴を上げた。
と、聖女が僕の左手を取り、手を翳した。
「無茶したねぇ。すぐ治すよ。少年、で、収穫は?」
「ええと。良いかもしれないニュースと、悪いニュースがあります」
「あんまり聞こえが良くないねぇ。まあいい、まず悪い方は、なんだい?」
「あいつの鱗、固すぎて僕の今の剣気じゃ、攻撃が通りません。剣が折れました」
「腕はいいけど、剣は直せないねぇ。どうしても無理? 止めるにしろなんにしろ、少年の攻撃しか、私らにはないからねぇ」
「刺さりはしましたけど。あと少し……僕が、刺した瞬間に剣気を伸ばしたりできていれば、致命傷を与えられたかもしれないんですが」
「折れた剣先は、じゃあ、刺さったままかい。押し込んだりできないかね?」
「難しいですね。もう一回飛び乗って、蹴り込むくらいしないと」
「良いかもしれないほうは?」
「破壊龍には、意識があるかもしれない、ってことなんですが――」
話していると、兵士長の娘が叫んだ。
「お兄ちゃん! 攻撃してくる!」




