表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

決戦に向けて

 先遣隊と合わせれば2万か。

 キツいな。


 先日の倍の兵力、ということもあるが。


 南方方面軍も今回は即応ではなく、兵力をかき集める時間がある。

 万全の布陣で当たれるだろう。



 そのうえで集まるのは1万強だ。



 引き続き、圧倒的数の不利は縮まらない。


 それだけならまだしも、



「ナルデーニか!」

「チレネーの海戦で大勝利を収めた!」

「アイツがこっちへ来ていたのか!」



 敵司令官に、味方の団長たちがこの反応。

 2万の兵よりよっぽど恐ろしいようだ。


 私も話には聞いている。

 長靴ども最強の将なのだとか。


 連中は長年、列強と内陸海の覇権を争っていた。

 そんな国家の宿願にして最大の悩みの種を、チレネーで安定せしめたのがヤツとか。


 激戦区を勝ち抜いた男が、今度はこっちへまわってきたか。


「というわけでだ。軍議を(おこな)いたい」


 爺さん、軍議と来たか。


 本来なら私たちに(はか)らず、自分で考え決める権限を持つ男が。

 実際今までそうしてきたし、戦力で劣る南方戦線を保ってきた男が。


 私たちに意見を求めるとはな。

 手立てがない、というよりはプレッシャーを背負いかねたな。






「アネッサぁ!!」


 小一時間の軍議を終えて、宿舎に戻って。

 探すのも面倒だ。

 廊下で叫ぶ。


「はい」


 お、私の部屋から出てきたということは。

 全てを理解して、待機していたようだな。


「第四騎士団、すでに荷駄の積み込みを開始しています!」

「さすがだ。よくやった」

「えへへ」


 なんだその溶けた表情は。

 助かるし素晴らしいが、もう少し緊張感を保て。


「ですが団長、ひとつ私では判断しかねることが」

「なんだ。歩きながら話そう」


 と思ったらすぐ真面目な顔。

 それでいい。

 それでいいけど、いつも切り替えの速さってか、豹変ぶりが怖い。


「負傷者はどの程度まで連れて行きますか?」

「あぁ」

「一応、騎乗に耐え()る体調の者には準備させています」

「そうだな」


 常識的な判断だ。


 馬に乗れりゃ移動はできるし、魔法が撃てれば戦力として機能する。

 利き腕吊ってるくらいなら、案外従軍はできる。


 だが、



「最低限、長槍を振り回せるヤツに(しぼ)れ」



「え?」


 今回は少し事情が違う。


「本当によろしいのですか?」


 アネッサ、今日は百面相だな。

 私の1歩後ろを歩いているから、実際は見えていないが。


 まぁ気持ちは分かる。



 先日の戦い、私たち第四騎士団こそ勝ったが。

 全体で見れば白十字王国軍の大敗だ。


 騎士一人でも惜しい状況。

 なんなら男は根こそぎ徴兵、女子(おんなこ)どもも投石くらいはしてほしいところだ。

 私も女だがな。



 とにかく、この状況で兵員を()り好みなど、正気の沙汰ではないだろう。



 普通なら。



「あ、まさか」


 だがアネッサよ。

 オマエは賢い女だ。察しがいい。

 私が一介の騎士だったころから、


『団長になったらば副官には』


 と決めていたほどだ。


 だから分かるだろう。



 武器を持てない兵士は連れて行かない、ということは


『絶対に武器を使う場面がある』


 ひるがえって


『魔法を使えない場面が確定している』


 ということだ。

 例えば、


『火を放てば味方を巻き込んでしまう』


 ってレベルの大混戦とか。



「まさか、あれだけ過酷な殿(しんがり)をやらせておいて!

 今度は前衛をやれってことですか!?」



 ははは。階段は降りているが、ボルテージは上がっているな。

 テンションは順当にダダ下がりだろうが。


 いや、笑い事ではないよな。

 私もそう思うが、


「いや、前衛は他の連中の受け持ちだよ」

「そうなんですか」

「我々のポジションは……」


 ふと、踊り場の窓が目に入る。

 外は広い庭で、騎士たちが荷物を荷馬車に詰め込んでいる。


「あぁ、そうだ」

「なんでしょう」

「荷物はもっと小分けにしろ」

「はぁ」


「馬車ではなく、馬に積めるくらいのサイズでな」











 先日戦ったときに準備はしたわけで。

 加えて、またすぐ攻めてくる可能性も考慮していた。


 というわけで、翌日の昼には我々白十字王国軍もレガロ城を進発した。

 騎兵3,500歩兵6,500、総勢1万。

 道中の城の守備隊も加えて、もう少し増える予定。


 で、数日かけて進軍し、



 我々はベーゼリッヒ高原に布陣した。



 高原である以上に、起伏が激しい土地だ。

 (せん)だって大敗した、アズロレッテの()()()()な丘とは違う。


 このまえの撤退戦のような、『崖に挟まれた』とまでは言わないが。

 山間(やまあい)の細道も多い。


 それを高所から見下ろせば、敵の動きがよく分かるという寸法だ。


 うむ、悪くない。

 いや、いい。


 これこそ数で負けている防衛戦の、籠城と並ぶ勝ち筋。



『地の利を活かす』に他ならない。



 前回は敵の電撃戦、こちらは即応。

 有利な土地を選んで戦う余裕はなかった。


 しかし今回は敵の本隊を引っ張り出している。


 軍勢は多ければ多いほど歩兵と荷駄が増える。

 すると後続が伸びる。

 結果、進軍は遅くなる。


 ゆえにこちらも、どっしり構える時間を手に入れた。


「これも、私たち第四騎士団が敵を追い返したからだ。


『先遣隊だけでは勝ちきれない』


 という実績を積んだ、な」

「はい」


 依然不利な状況には違いない。

 しかしイニシアチブはこちらにあると見ていいだろう。


 相手がどこに布陣するか、どういうルートで来るか。

 シミュレーションもし放題だ。


「アネッサ、どう見る」

「そうですね。やはり味方本隊の位置、長期戦を想定した水場の確保からして……。

 尾根伝い西側の、あの山を中心に布陣するのでは」


 よし。軍議で想定したのと同じだな。

 本隊の配置による敵の誘導はまずまずと見ていいだろう。


 というように。


 我が第四騎士団は現在、戦場の東側



 敵の予想位置だけでなく、味方全体も見渡せる

 一帯で最も高い位置に布陣している。



 戦場、配置、戦況、全てが完全に把握できる好立地。

 本来なら本隊があって、総指揮を執る人物がいるべき場所。


 そこに我々がいるということは、


「さて、第四騎士団の諸君!



 今回も我々が勝敗を左右する、出世コースの大仕事だぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ