人は適応する生きもの
殿下の傅役、となったのはいいが。
何をしたらいいかなどはまったく分からない。
だが後方に立っているだけならカカシでもできる。
ってことで、
「傅役というのは、何をするべきなのでしょう」
分からないことは素直に聞くのが一番。
殿下へのあいさつを済ませた翌日から、質問行脚が始まった。
まずお部屋を訪問したのはドイブラー卿。
フリードリヒ殿下の傅役でいらっしゃる。
髪も眉も髭も長い白髪で、特徴的な顔だ。
陛下も
『フリードリヒと協力して』
みたいなことをおっしゃっていた。
向こうも、副官として支えた私を憎からず思っているとか。
そう冷たくはされないだろう。
しかし、
「お若いのに災難ですなぁ」
「へぇ?」
返ってきた答えは、なんとも言えない感じ。
いや、ウザがられてはいなさそうだが。
「どういうことですか?」
隣のアネッサが聞き返す。
そんな話しに来たんじゃないけどな。
「お二人とも才気溢れると聞いていたものを。
かえって出世の道から外されるとは」
そんなことを言われてもな。
アネッサと顔を見合わせるしかない。
あぁ、でも陛下が
『野心のなさが大事』
みたいなことをおっしゃってたな。
ここは
『出世興味ないです』
って顔でヘラヘラしとこう。
そもそも女と社会進出が繋がらない時代。
私たちはイレギュラーだ。
「しかも、もう両殿下もあの歳になられますとな。
そう教えることもないでしょう。
私もフリードリヒ殿下がご立派になられてからはもう。
たまにご公務でミスをなさったら忠言させていただくくらい。
相談あらば、少しのヒントを差し上げる程度のことで」
「なるほど」
それはそれで参考になる、
とメモをとるも
「しかしそちらの両殿下は、あまり大きなご政道には関わらぬでしょう?
その、ゔゔん、あー」
「庶子でいらっしゃいますから」
「ええ、ええ。気を悪くなさらず。
ただ、本当にすることはないと思われます。
もう出世もエネルギーもないこの老骨ならともかく。
あなた方では、若い才気を持て余すことでしょう。
おかわいそうに」
やっぱりあまり意味なさそうだな。
「親身になってくださり、誠にありがとうございます」
結局、ロクな成果は得られなかった。
強いて言えば
『そもそも成果などない』
という知見が得られたことくらいだろうか。
しかし、それで許されるのはフリードリヒ殿下の傅役だからだ。
私がお仕えするアデライド、ドミニク両殿下はそうもいかない。
放っといたら何か起きかねない立ち場の弱さと、攻撃される理由がある。
こうなることが分からないわけはなかった、
だから強権をもって捩じ伏せていた陛下が危惧するほどに。
……なんで急に不安視してるんだろうな?
大事に警戒してそうなわりに、他の殿下みたいな
『1人に1人』
と違って
『両殿下と私・アネッサで2対2』
という雑な編成にもなっているし。
きっとアレだ。
フリードリヒ殿下とハインリヒ殿下がアレだからな。
『個別に扱った結果、兄弟で歪み合う』
みたいなのが悲しかったんだろう。
話が逸れた。
とにかく私は、両殿下をお守りするために布石を打たなければならんのだ。
ただボンヤリ
『傅役なんていらないほど立派だなぁ』
と頬杖ついていたら、今度こそ陛下に罰を下される。
てことで、
「ミュラー卿。君は北方戦線から戻ってきたところだったな。
敵東部戦線からの援軍が到着し、また味方が押され気味のようだ」
「南方方面軍の一部を東方方面軍の増援にまわしましょう」
「東方? 北方ではなく?」
「そちらの方が南方から近い。北方も東方も同じ鉄血との戦線。
東方を圧迫して、北方だけ援助していられなくするのです」
「なるほど」
「また、万が一長靴半島が攻めてきた場合。
国境の山脈を防衛戦とし時間を稼げば、東方からなら帰還が間に合います」
「よし、それで行こう!」
「ミュラー卿。現場ならではの苦労、それに伴い我々が改善できる……」
「防 寒 対 策」
王国騎士団長や軍務大臣とは関係を密にした。
陛下も私の軍部へのコネを見込んで抜擢したわけだしな。
ここのラインは今まで以上に強く持っておかねばならん。
かといって、こちらから積極的に絡みすぎると
『野心あり』
だ。
塩梅が難しい。
現状は
『相談されたら120パーセントでお応えする』
かたちで好印象を稼ぐしかない。
私だって少しまえまで、いち騎士団長だった女だ。
経験や見識が豊富なわけではない。
それでもやってきたことをフル動員してみると、それっぽいことは言えるもんで。
努力は道を拓く、とでもいうのだろうか。
「ミュラー卿はどのようにして敵国との交渉を通しておられるのでしょう?」
「えー、あー、まぁ軍人なのでー。与えた打撃と提示する条件の
『このまま戦えばこちらが勝つとしても、講和した方がメリットあるな』
と思わせるバランスでしょうかー」
気が付けば外務大臣と話をする機会にも恵まれた。
こっちは悪徳コンサルみたいな返答しかできないが。
え? 妹属性魔法は使わないのか、って?
バカいえ。
バーカ。
とまぁ。
慣れないことにも慣れないなりに馴染みつつ。
「ミュラー卿。今月末の日曜日、ハリブルクの祭りに招待された。
これも公務だ。供をしてくれ」
「殿下。私、その日は」
「あぁ、ジジと教会のチャリティーに出席するんだったか。
トゥルネー卿、来てくれるか」
「お任せください!」
「いくら祭りだからって、食べすぎるなよアネッサ」
「なんで?」
「あんまり意地汚いと、王室が貧しいと思われるだろ」
「上品にたくさん食べる」
「あのなぁ」
アネッサも持ちまえの図太さで役目に順応しつつ。
(ふさわしく成長しているとは言っていない)
(結局『フューちゃん』呼びもあまり矯正されていない)
(殿下が『構わない』とおっしゃるから許されている)
(まぁドミニク殿下もアデライド殿下を『ジジ』って呼ぶし)
「ミュラーさま。チャリティーには私たちもクッキーを持っていきます。
一緒に焼きましょう!」
「私が?」
「みんなと同じように、自分で作るからこそ意義があるのです」
殿下たちとも馴染み……は言うまでもない気がする。
あとは意外と、目について誰から攻撃されることもなく。
(距離を感じることはある。手を出さない代わりに、離れという箱庭でソフトに隔離されているような)
何より。
何より!
忌まわしい魔法も、
もっと忌まわしい妹属性魔法とも関わることなく!
概ね平和に日々を過ごしていた、
しかし、
「なぁアネッサ。やっぱりこの程度なら、私たちは北方に残った方がよかったんじゃないのか?」
「『鉄鹿』復帰で泥沼になりつつあるそうだね」
「フリードリヒ殿下のために祈ろう」
「神さまキライなくせに」
やっぱり今回の人事は肚落ちしないなぁ。
慣れもしないなぁ。
ずっとしないのかなぁ。
と喉に引っ掛かるものを覚えながら、
訪れた春の気候も身に馴染んできたころ。
「なにっ!? 陛下が!?」
疑問の答え合わせは、唐突に訪れた。




