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目標達成?

「あ! フューちゃん!」


 陛下の御前を辞去すると、アネッサは廊下で待っていた。

 妙に興奮した様子で私に駆け寄ってくる。


「控えの間で待ってたんじゃないのか」

「いても立ってもいられなくて」


 私がその場で手討ちにされるとでも思ったのか。

 そんなまさか。


 ……返答次第でなってたとかないよな?


「それで、どうなったの? 二人で山奥に丸太小屋建てて1からやりなおす感じ?」

「なんだそりゃ」

「私は庭でお野菜育てるから、フューちゃんはニワトリと羊のお世話するの」

「一旦実家に帰れよ。

 というか、そういう事態には陥っていない」

「あ、そうなの?」


 おい、なんでちょっと残念そうなんだよ。


「だが喜べ。危険な戦場に戻されることもない」

「ホント? よかったぁ」


「軍人じゃなくなったしな」

「え?」











 後日、書面にて正式に辞令が来た。

 アネッサは


「左遷じゃん!」


 とキレていたが。


 いや、まぁ、どっちとも言えん。


 殿下の傅役ともなれば、そりゃ騎士なんぞより社会的身分は高いが。


 別に政治の何を担当するでもなければ、殿下の靴下ひとつ洗濯もしない。

 偉そうな顔して近くに控えて、見守っているだけ。

 言ってしまえば、お付きのメイド長とたいして変わらない。


 ほぼ中身のない名誉職で、条件に


『平均寿命を超えた男性』


 があるのかってくらい、9割引退な大臣のあがり(出世)先だったりする。


 実権で言えば、王国騎士団副長の方がよっぽど力はあるのだ。

 私は数ヶ月、しかも戦場にいたから実感していないが。






「そんなんで本当に、殿下を政治闘争とやらから守れるの?」


 で、今は王城の廊下を歩いているところ。

 道も慣れないが、靴だ。


 今までずっと鎧だったのが、今日からは礼服。ずっと礼服。

 ドレスじゃなくていいだけマシ。


 それに伴い変わった靴の、床を捉える感覚にいまだ戸惑う。

 年末年始は騎士として鎧で失礼してよかったからな。


 って感じで、私はなんだかグロッキーだが。

 アネッサはまだプリプリしている。


「『あんまり力がある人物を付けても警戒される。軍が動かせるなんて特に』

『私も殿下も野心がない、持つべくもないというアピールが必要』


 とのことだ」

「だったらわざわざフューちゃんじゃなくていいじゃん!」


 そこはアネッサの言うとおりなんだよな。

 いや、むしろ。


『私じゃなくていい』


 には


『私でもいい』


 ニュアンスが含まれる。


 だが、現実は


『白十字王国は私を騎士団から抜いている場合ではない』


 だ。


 かわいい愛妾の我が子もかわいいのは分かるが、それにしても。


 というか普通にモミアゲでも使えばいいじゃないか。

 ああいう社交界に慣れている高級将校をだな。

 アイツなら別にいなくなっても痛くないし。


 確かに能力や騎士からの支持という点では、馬でも連れてきた方がマシかもだが。



 考えているうちに、中庭を横切る渡り廊下へ。


 ここから先は、年末年始の無礼講でも立ち入らなかった。



 王族たちの居住区、完全プライベート空間だ。



 これには文句タラタラだったアネッサも背筋が伸びる。

 元から姿勢はいいのをがんばるから、鳩胸になっている。


「それで、団長はどうなされるんですか?」

「もう団長ではない。今度こそな」


 口調まで改まってまぁ。

 まだ厳密には下々(しもじも)ぶっ殺しゾーン(そんな名前ではない)にゃ入ってないぞ。


「ではミュラー卿?」

「だな」

「は、これでいいのですか?」

「いいも悪いもあるまい。勅命だぞ」


 なってしまったものは仕方ない。

 前向きに考えるべきだ。


 正直戦場よりメンドくさい宮中の、

 その最たる理由である勢力争いど真ん中に放り込まれてしまった。


 だが、


「え? 庭下りるの?」

「ああ。両殿下のお住まいへは、ここから北西方向に横切る方が速いと聞いた」

「ちゃんとした道に沿ってった方がいいと思うなぁ。迷子にならない?」

「ならないよ」


 だって、屋根の下から出れば、春間近の日差しがこんなに眩しい。


 喜べ私。

 ついに当初の目的どおり、



 出世して中央へ行き、魔法と一切縁のない世界にたどり着いたぞ。



 第3話からずっと抱いていた悲願だぞ。


「これは神が私に与えたご褒美なのかもしれん」

「あんなに中央での出世嫌がってたのに?」

「私に苦しみをたくさん背負わせるカスなんだ。ご褒美も()()()()しかくれん」


 魔力がないとか妹属性魔法とかな!


 おい人類。戦争している場合じゃないぞ。

 世界連合組んで空に矢を放つべきだ。

 目を覚ませアンヌ=マリー。


 やはり人間、希望の詩より罵詈雑言の方がモリモリ浮かぶ。

 (ゴミ)をネチネチ呪うのに熱中し、自然と歩調が速くなる。


「ふーん。ま、いいけどね。私も一緒に配属みたいだし」

「いいのか。オマエだって苦労して騎士になったんだろう」

「いいのいいの。フューちゃんとならどこでも」

「そうか。だが軍人よりフォーマルさが重要な世界だ。

 今まで以上に『フューちゃん』とは呼ばないようにしろよ?」

「今すぐ逃げよう。どこか海の見えるところ」


 なんか知らんがアネッサのペースも上がったところで、


 噴水

 ◯◯何世の像

 ガゼボ

 いつかの誰かのペットの墓(おい、下手な戦死者より豪華だぞ。どうなってる)


 とか、聞いていた目印を星座のように繋いでいくと、






「ようこそミュラーさま! またお会いできて光栄です!」


 他とはやや分離された居住区の中でも、また離れとなっている区画。

 その入り口で、我が主人は待っていた。



「こちらこそ、お出迎えいただき光栄です」



 カーテシーをするアデライド殿下


 その隣にドミニク殿下

 後ろにレディ・ド・ブロイ


 あとその他使用人たち。


 そんな集まってこんでも。


「ささ、庭でお膝をついては汚れてしまいますわ。上がってくださいな」


 アデライド殿下が私とアネッサの手を取る。


 まぁ、神のご褒美やらなんやらは、こういう明るい人にこそ訪れるのかもな。


()()()()だけれどお茶の用意もあるんだ。ぜひ寛いでほしい」

「今後はここがお二人のホームなのですから」


 ドミニク殿下とレディ・ド・ブロイの雰囲気も優しい。


「え? ここに住むの!?」

「いや、私たちの住まいは官舎があるからな」

「お泊まりになられることは、あるかもしれませんよ?」


 なんかアネッサの抜けた雰囲気も馴染んでいる。


 私もあーだこーだ考えるまえに、溶け込んでしまえば楽かもな。


 それでも、だ。


「しかしジジ。まさかミュラー卿が来られるとはね」

「びっくりだわ。『縁』ってあるのね、ドミニク」


 どうやら今回の人事、両殿下にも思いもよらぬことだったらしい。


 今更養育することもないしな。

 政治を意識してなけりゃ、係を変える必要がない。


 お二人の態度がひたすらフレンドリーなのも、


『先生』


 ではなく、ただの客みたいな関係だからだろう。



 それには私もびっくりだ。


 何せ、なんだかんだ言っても不可解な抜擢。


『年末年始に懐かれたアデライド殿下の、たっての希望で実現した』


 とかが真相かと思っていたからだ。



「こちらです! どうぞお座りになって」


 だが本人は知らない感じで、アネッサにクッキーの解説をしている。



 こうなるとやはり、今回のことは陛下の(おぼ)し召しで、


 過剰に思える私の起用が


『妥当である』


 と判断されたことになる。



 それだけ敵が多いってことか?



 別に離れまで来て石を投げるヤツはいないようだが、


『近道』と説明されていたルート。

 あれは速いというより


『嫡流の方々の居住区から、いろいろ陰になって見えにくいルート』


 だった。


 そんなのが確立されているくらいには、


『こちらの両殿下に拝謁するのを知られては気マズい』


 風潮があるってことだ。



 思った以上に、ヤバいのかもな。



 ハーブティーの香りすら、なんだか異臭に思えてくる。


 念願叶って前線を離れ、『あがり』のポジションに就いたわけだが



 私にはそんなもの、まだまだ先の話かもしれない。

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