予想だにせぬ人事
残念なこと?
いや、まさかこの流れでそんなことあるか?
『死ぬんだったらどこで死んでも同じなのにね。わざわざ呼び付けてごめんね☆
でも王都で晒し首にするから、来てもらう必要があったの☆』
てか!?
いやいや、それなら塩漬けにでもして送れば、
じゃない!
いや、まだ極刑と決まったわけじゃない。
なんとでもなる
かは知らんが、せめて降格とか減俸とかあるはずだ!
この際騎士でなくなったとしても、命までは!
心のうちでは殺されるまえに心臓破れて死にそうだが。
見た目のうえでは平静を装おう。
『惜しい人材だから生かそうと思っていたが、なんかそんな感じしないな』
とかあるかもしれんしな。
てことで、努めてキリッとした顔で王を見つめ返す。
果たして王の宣告は、
「君には、
王国騎士団副長の任を離れてもらう」
よしっ!
よしっ!!
甚だ不服な部分もあるが、まず命だけは助かった!
そりゃせっかく騎士となって戦ってきたんだ。
クビになるのは悲しいが。
私とて、ここまでの腕っぷしを身に付けたんだ。
なんとでもなる。
むしろ前線にいては忌まわしき魔法が付いてまわる、
中央に行ってもややこしい、ではな。
そうだよ、無位無官の者となってしまえば。
積み上げてきたものへの固執を捨て去れば、かくも物事は簡単に
「というのも、ぜひ君に担ってほしい役目があるのだ」
あん?
流れ変わったぞ?
なんだ。
おい待て、やめろ。
せっかく人が覚悟完了したところだ。
余計なことをするな。
いやまて。
何も変なポストに置かれると決まったわけじゃない。
ほら、
『やっぱり君は前線にいるべきだから、中央の役職はね?』
とかな!
そうだ! これだけ活躍したんだ!
今度は方面軍司令官かもしれんぞ!?
私に大軍を率いる能力があることは判明した!
戦果もあるし、絶対モミアゲよりは使えるからなぁ!
西方で交代かなぁ!
いや、まだ私が鎮撫していない東方って可能性もあるなぁ!
どっちにしろ、西はアンヌ=マリーが内政にお熱だから心配ないし、
東方も北方と同じ帝国、『鉄鹿』は黙らせたしなぁ!
悪くないな!
むしろいい!
楽な仕事さ!
甘んじて受け入れよう!
だから!
だから!!
どうかヤヤコシイところにだけは!!
「その、お役目とは?」
「うむ。
フレデリカ、ドミニクの傅役を務めてもらいたいのだ」
は?
傅役?
傅役ったら、演劇の『木』役の集合体じゃなくて、飯盛りでもなくて。
「陛下はドミニク殿下を騎士になさるので?」
教育係兼使用人頭、みたいなものだ。
「いや、そういうわけではないのだが」
「ではまさかアデライド殿下を?」
「そういうことでもなくてだな。というかミュラー卿は、あの子をアデライドと呼んでいるのか」
「あ、まぁ」
「わざわざミドルネームを使うとは、やはり親密なのだな。
年末年始もよく一緒にいたと聞いている」
「ままま、待ってください!」
アデライド呼びはアネッサが
『フリードリヒとフレデリカは被っている』
とかいうから差別化しただけだ!
殿下がよくいらっしゃったのも一方的な押し掛けだ!
誤解の都合がよすぎるだろ!
ていうより!
「ではなぜ私などを傅役に?
僭越ながら、ミュラー家は代々農民の血筋。
私自身も槍斧1本をもって身を立ててきた粗忽者でございます。
お世辞にも宮中にあって恥をかかぬ洗練はされておりません。
武芸にあらずば、何を教育することもありませんかと」
「分かっている分かっている」
陛下は玉座に深く座りなおすと、深いため息をつく。
私に呆れたというよりは、何か思案げなご様子。
「あれらの教育も済んだとは言わんが。
取り立てて『新しく何かを学ばせよう』という段階でもなくてな」
「は」
「傅役は何も、職掌だけが役目ではなかろう」
「む」
役職で規定された職務以外の役目。
言い方を変えれば、傅役であることそのものが効果を及ぼすこと。
それは、
「私に、
両殿下を後見せよ
とおっしゃられるのですか?」
これしかない。
傅役とは貴人の最も側近くで仕え、もはや身内と言える間柄。
よく親しみを込めて
『爺や』
とか言われてるほどのポジションだ。
つまりは、
以前フリードリヒ、ハインリヒ両殿下が争っていた
『アイツはコイツは誰派か』
が、
決まるどころか、そこの代表レベルになってしまう。
下手すればご自身より傅役が、殿下の宮中における立ち位置を決定しかねない。
「な、なぜ私にそのような役目を?」
だったら当然、宮中に精通しコネも権力も強い、元大臣とかに頼んだ方がいい。
私とは真逆の存在だ。
「うむ。それなのだがな」
しかし陛下の表情から察するに、事情はそう単純でもないようだ。
嫌だなぁ。
「アデライドとドミニクは庶子である」
「御意」
「その政治的立場はデリケートだ。
嫡流からは肉親の情は薄く、ライバル視される。
高官たちからは利用しようとは思われても敬意は持たれない。
デリケートというより、弱い」
そりゃそうだろうな。
母方の血筋だけで言ったら、下手な貴族より下だったりするし。
そんな哀れむ顔をするなら、庶子など作らなきゃいいのだが。
「ゆえに二人には、強力な後ろ盾が必要なのだ。
あらゆる悪意敵意から守ってくれる存在が」
「お言葉ですが、それなら私などますます」
「いや、そうでもない」
おおう、やけに言い切るじゃないか。
私としては諦めていただきたいのだが。
「君のことはよく聞いている。
南方、西方、北方。報告書が届いているが、非常に評価が高い。
現場の騎士たちからの信頼も篤いのだ」
「は、はぁ。いや、まさか!?
王国騎士団を私兵化してお守りすると!?」
「そこまでは言わん」
これには陛下も慌てた顔。
史上に残るレベルの暗君になってしまうものな。
避けたい誤解だろう。
「が、騎士団しかないのも事実なのだ。
政治家の実力者たちはほぼ、すでに別の子らと組んでいる。
すでにあの子らに付けている傅役もいるが。
同じ政治畑として、さすがに一段格が落ちる」
「あー」
確かに。
私が初めて年末の祭りに参加したときも、各殿下の勧誘すごかったしな。
中央の殿上人からすれば、どこの野良犬レベルの私をだ。
宮中はすでに刈り尽くされたハゲ山なのだろう。
「しかし、そうなると余計に政治方から孤立するのでは?」
「だからミュラー卿がいいのだ」
「はぁ」
「そなたは今回の遠征で、フリードリヒと親密な仲を築いた。
何やら義兄妹にも迫る契りと聞いている」
「やべっ」
「ん?」
「なんでもございませぬ」
「とにかく、私は2人に王位を継がせる気はない。
次期国王はフリードリヒ。あの子らはただ平静に暮れてくれればよい。
それをこそ、ミュラー卿とフリードリヒの繋がりで、守ってやってほしいのだ」
「なるほど」
「年末年始の動向も聞いている。
そなたはツィマー卿のあいさつ周りへ着いていく以外、万事控えめであった。
コネや根回しなどを画策せなんだ」
「あー、はー、はい」
「野心などないと、あの子たちを静かにさせておいてくれると見込んでの頼みだ。
受けてくれるか」
その真っ直ぐな瞳に見つめられて。
「……身命を賭しまして」
私は片膝をつき、深く頭を下げた。
だって最初から拒否権ないもん。




