冷静に脳筋に
分かったこと。
それは、
ヤツの魔術がどういったメカニズムか
だ。
結論から言って、自由自在に爆発を起こせるわけではなさそうだ。
もしあれが火属性魔法の一環で爆発を起こしているのなら。
小さな火種など出していないで、直接ぶつけにくればいい。
あくまで着火装置にすぎない。
じゃあ何に着火してるのかって言えば、
当初の予想どおり、火薬しかないだろう。
東部戦線から持ってきた火薬を地面に撒いておいて
ではない。
この一騎打ちの最中、いちいち撒きなおしている様子はないからな。
かといって、あらかじめ撒いていたら最初の一発で全部誘爆する。
さっきからの2手、3手の展開はできない。
となると、残された線はひとつ。
最初地面に流れていった魔力だ。
聞いたことがある。
東国より伝わる火薬は『黒色火薬』と呼ばれ、
硝石
硫黄
木炭など可燃性の高いもの
を混ぜ合わせて作られるらしい。
で、これらの材料には共通点がある。
全て
『地中から採掘する』
あるいは
『採掘したものから化学反応により合成する』
ことで手に入るものだ。
「顔面の血も拭えんくせに、繊細な使い方をするじゃないか」
「ほう」
おそらくヤツは地属性の上手。
涼しい顔して、相手から見えない地中で
材料を掘り起こして
なければ合成して
地中で混ぜ合わせて
地表まで運ぶ
なんて作業を行なっていたのだ。
どうりでどこにも火薬箱がないのに、爆撃できるわけだ。
任意のタイミングで、都合のいいポイントから攻撃できるわけだ。
「野郎め」
地表で私を相手取りながら、マルチタスクがすぎるぞ。
見た目もあだ名も、インテリがしていいようなものじゃない。
だがそこに活路がある。
頭をフル回転したうえで、自由自在には爆破できない。
なら。
「ふっ!」
チャンスは1回だろう。
2度3度通じる策ではない。
穴ボコの地面。足を取られるなどは気にせず、とにかく前へ。
この突撃に賭ける。
『鉄鹿』は何も言わなかった。
ただ薄く笑う。
楽しんでいるのか?
いいご身分だな。
こっちは必死でやっているんだ。
吠え面かかせてやるぞ。
クレッケル卿の分まで。
雪でぬかるんでいそうな土も、爆発のおかげで乾ききっている。
滑ることなく出足は上々。
私の脚なら、数歩数秒でヤツに到達する。
特に今回はいつものハルバードだからな。
ヤツの首に届くまでの間合いがダンチだ。
やっぱりコレよ。
だがそんなこと、向こうだって百も承知だ。
数秒で済もうが、その数秒を間に合わせない。
指先にオレンジが灯り、向けられるのは私の右斜め前方向。
「そこか!」
オマエの泣きどころは、落ち着いて見れば爆破地点を読めることだ。
そこへ向かって火種が飛ぶ
より早く。
私のハルバードの先端から、火の粉が舞う。
水魔法を使ったときも言ったが。
私だって妹魔法以外も使えるんだ。
微々たる、カスみたいなモンだがな。
それでも、自然科学の法則たる火薬への着火なら。
「じゅうぶんだ」
火薬に火の粉が引火する。
『鉄鹿』が想定していたタイミングより早く。
「おおっ!」
爆発が無差別に撒き散らされる。
私は分かっていたからな。
あらかじめ盾を構えておけた。
だが『鉄鹿』よ、オマエはどうだ。
爆破は自分の舞台だという思い込み。
獲物がハルバードに変わったことで、注意も引っ張られたはずだ。
いかにマルチタスクな脳みそとはいえ、
むしろフル回転していたからこそ。
予想外のアクシデントには対応できるまい。
とはいえ。
爆煙を突っ切ると、
そこには岩の壁がある。
『鉄鹿』咄嗟の判断だろう。
普段から爆発物を扱っているんだ。
不慮の事故に対する反射は身に染み付いているのだろう。
だがここまでは予想どおり。
私の言う『予想外のアクシデント』はそれじゃない。
そう、
私自身に他ならない。
予想外というより演算のオーバーフローか。
まぁなんでもいい。
私は知性派ではないのでな。
それより今大事なのは、
ずっと余裕そうだったあの顔が
ようやく血まみれにふさわしく歪んだだろうところへ
その冷静で緻密な脳みその処理が回復するまえに
雑な壁の向こう側へまわり込んで
「よう」
「フューガ……ミュラー……!」
「近くで見れば、案外キレイな顔と肌じゃないか。
もったいないぞ」
ハルバードのフルスイング。
地獄みたいな戦いを勝利で終える。
それだけだ。
「オラアッ!!」
私は右利きだ。
つい右手で引いて、右手で押し込む癖がある。
つまり横薙ぎは右から左が多いワケだ。
今回はその動線上に、岩の壁が立っているのだが。
関係ないね。
私は誰だ? 『女熊』だぞ?
そんなもの、腕力とハルバードの質量で粉砕してやる。
「がっ!」
岩を砕く感触。
その直後には、また別の硬いものを捉えた手応えを感じる。
斧の刃を当てるのには失敗した。
が、柄は確実に、鎧の上から『鉄鹿』の脇腹を捉え、
「オマエが! 吹っ飛べ!!」
ハルバードが折れてもいい。
その代わり、アイツの肋を持っていけ。
クレッケル卿への餞に、何本でも派手に持っていけ。
私自身の腹斜筋も、捻れのあまり悲鳴を上げる。
それすら無視してフルスイングした先には、
「天まで届け。よくご覧じろ」
クレッケル卿の何倍も派手に、
宙を舞う『鉄鹿』の姿があった。
いつまでも眺めていたいが、そういうわけにもいかん。
やがて『鉄鹿』が地面に叩き付けられると、
「クレッケル卿の仇!」
ただ勝利しても仕方ない。
これこそが何よりの目的なのだ。
さらに踏み込み、今度こそ刃の部分で、
『鉄鹿』だろうと豆殻のごとく叩き割ってやる
というところで、
「『鉄鹿』さまをお守りしろーっ!!」
「むっ」
静観していた神聖鉄血帝国軍の騎兵が、堰を切って突撃してくる。
おいおい、一騎打ちだぞ。
私が不利な状況でもアネッサは加勢しなかったぞ。
見習え。
とは言いたいが、死んだら終わりだからな。
なんでもやるのが戦場の常だ。
だから文句は言いたいが、ギャーギャーゴネて喚いたりはするまい。
ただ、
「こちらも加勢する! 団長を見殺しにするな! むしろ連中を皆殺しにしろ!!」
それならこちらも、同じことをするだけの話。
アネッサの号令一下、味方の中央騎士団も殺到する。
背中から私を踏むなよ。
まぁそれはいいとして(よくない)。
元々兵力だけならこっちの方が有利だったんだ。
頼みの綱たる援軍も『鉄鹿』一人。
今ノックアウトしたところだしな。
物理的にも精神的にも流れは決まっていて、
1時間としないうちに戦闘は終結した。




