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殺しの庭

「団長……」


 敵味方の兵士たちは何も言わんし、私らもこれ以上言葉はいらんからな。

 雪の落ちる音も止んで、アネッサの声だけが響く。


 そんな心配そうにするな、とは言いたいが。



 実際私にとって一騎打ちは不利だ。



 今まで組み打ちで多くを仕留めてはいる。


 だがあれは乱戦の中で一気に接近できるからだ。

 懐まで踏み込めば、向こうも味方を巻き込まんよう魔法をセーブするからだ。



 一騎打ちじゃそうはいかんよな。



 私の動きだけに注視できるから、間合いを保つのは容易だ。


 一応ハルバードはクレッケル卿を抱えたときに置いて、わざと拾ってはいない。

 インファイターな印象を持たせない、間合い管理の意識を下げさせるハッタリだが。


 どこまで効くものか。


 相手も『私は魔法が使えない』ことを知っているかは別にして。

 とりあえずは間合いを保ってはくるだろう。

 騎士なら剣は持っているわけだしな。



 だったらいっそ、軍団で雌雄を決するべきだろう。

 殿部隊ならともかく、後詰めの我々は反撃に出た敵軍より数が多い。

 有利だ。


 それはそうなのだが。


「む」


 今つま先に何か当たったな。

 相手から目は離せん。

 が、この()()()()した曲線は、


 誰かが落としてった丸盾か。

 もらっておこう。

 おそらく必要になる。



 そう。

 クレッケル卿の致命傷。無数に空いた小さな穴。


 魔法の常として中距離戦になるのはそうだが、



 おそらく散弾式の、回避が難しい飛び道具を有している。



 また、聞こえていた音も問題だ。


 どこにも箱や袋は見当たらないが、



 ヤツがまだ火薬を隠し持っている可能性は高い。



 万が一大勢で突っ込んで、中央騎士団まで壊滅したら。


 今度こそ北方は終わりだ。

 ご親征で援軍に来るまえより状況を悪化させてしまう。


 怒りのあまり一騎打ちに出ておいて言うことでもないが、慎重にいくべきだ。


 やはり戦闘は先に手の内を見せた方が不利。

 お互い沈黙のまま、ジリジリ間合いが詰まる。


 相手までは、跳び込みありきで3、4歩というところ。

 欲を言えばこのまま剣の間合いまで入りたかったが、



「そちらが動かんなら、この身より行かせてもらうぞ」



 血まみれの真っ赤中で、目がギラリと光る。


 ヤツの体内で魔力が膨れ上がるのを感じる。

 それが大地の中へ。


「地属性か」


 散々爆発音をさせて、焦げ臭い煙を立てているヤツだ。

 なんらか火属性の応用と思っていたが。


 地属性も足場を崩されたり、峡谷の壁が迫ってきたり。

 いろいろ厄介ではあるが、


「……おい」

「何かな」

「『行くぞ』と言ったわりに、うごかんじゃないか、ええ?」


 そのどれもが発生しない。


「いや、フェイントを悪いとは言わんぞ?」


 私もハッタリかましてるしな。


「だが騎士道精神を語る口には、似つかわしくないんじゃないのかね?」

「ははは、ご寛恕(かんじょ)願いたい。

 騙し討ち目的にあらず。

 大きくは出たが、少し時間が掛かるのだ」


 さっきから手の内はペラペラしゃべるヤツだな。

 ブラフでなければ。


 と思っていると。


「む」


 なんだ、人差し指を立てやがって。挑発か?

 いや、その先に光るのは、ロウソクのような


「やはり火属性なのか?」


 結局アレコレ心理戦仕掛けてくるのか?


 盾を拾っておいてよかった。

 とりあえず構えておけば、多少は安心


「騎士ミュラー。



 よくご(ろう)じろ」



 指先からパチッと。

 焚き火なんかで見る火の粉と同じ。

 火が跳ねる。


 無駄に美しい放物線を描いたそれは、お互いのちょうど中間くらい。

 地面に触れた瞬間、


 光っ




「   」




 私は何か叫んだのだと思う。


 だが聞こえなかった。


 自分の声が自分で聞こえない。



 それほどの爆音。



「フューちゃん! 大丈夫!?」


「はっ」


 アネッサの声で我に帰る。


 どうやら反射で盾の陰にしゃがんでいたらしい。


「っ」


 意識が戻って、ようやく手に痺れを感じる。


「これは」


 丸盾を見れば、



 いくつもの石礫(いしつぶて)が食い込んでいる。



 これか。クレッケル卿の命を奪った穴の正体は。


「よく初見でかわした」


 視線を戻すと、分厚そうな岩の壁。

 それが崩れて、向こう側に『鉄鹿』が見える。


「表彰してくれてもいいんだぞ?」

「そうだな。胸に薔薇のコサージュを飾って差し上げる。盾を捨てたまえ」

「バカ言え」


 トラッシュトークしてる場合じゃない。

 また次の火種が放り出される。


 目算できる放物線の着地点。

 角度的に、今の体勢のままだと盾の横から襲われる。


「チイッ!」


 なんとか盾が間に合うも、金属を叩く甲高い音と衝撃が襲う。

 さっきより慣れた分実感しているわけだが。

 逆によくさっきは無意識で受けられたな。


 いや、感心している場合ではない。


 今度はまた別の角度から。


「次から次へと……!」


 放物線の落下点へ盾を向け



 る視界の端で、背後に飛んでくる火種が見えた。



 しかも放物線じゃない。

 ストレートのピッチングだ。


 マズい!


「このっ!」


 私だって一切の魔法が使えないわけじゃない。


 放物線で飛ぶ方なら水魔法が間に合う。

 グラス1杯あるかも怪しい量だが、小さい火種なら消せる。

 あとは無理矢理でも体を捻って、盾を背後に。



「間に合えッ!」



 強い衝撃。


 脇腹が痛む。

 が、石に貫かれたヤツじゃないな。

 無理な体勢に圧が加わって、筋が痛んだだけだ。


「ほう。今のをかわした者は初めてだ。賞賛に値する」

「ならば金銀財宝くらい、いただけるのだろうな!」

「我が軍門に降れば、厚遇もあり得るだろう。いかに?」

「オマエが地獄の門を見てこい」


 とにかくこのままではジリ貧だ。

 なんとしても間合いを詰めなければ。


 相手は戦場でも抜きん出た長身、一見強そうだが。

 その実シルエットは細身。

 組み打ちになればチャンスはあるだろう。


 何より、気にしている場合じゃない。

 そもそも私には近接しかない。

 それに、ヤツは爆撃と同時に岩の壁を出していた。


 自分にも被害が出かねないってことだ。

 近付けばこの技も使えるまい。


 日頃からインファイト第一の私だ。

 他の者では遠い間合いも、私なら数歩で、


「はあっ!」

「なおも向かってくるかね!」



 その数歩が遠い。



「うっ!」



 今度は足元。

 ほぼ真下に直接に火種が飛んできて、



「かあっ!」


 大地を転がるとは、ザマないな。

 だがザマで命は買えん。


 なんとか、なんとか盾が間に合った。

 格闘で生きてきた私でなければ、反射神経が追い付かなかったかもな。

 実際クレッケル卿には無理だったのだろう。


 運命の別れ道、なんとか迷子を回避したのはいいとして、


「はぁ、はぁ」

「もう立ち上がってくるか。受け身もうまいらしい」


 派手に吹っ飛ばされたからな。


 さっきより間合いが遠くなっている。

 状況としては、目を覆いたくなるほどの悪化だ。

 最悪だな。


「フューちゃん!」


 アネッサも黙ってられんらしい。

 いや。ずっと喚いていたのが、聞こえる位置まで退がったのかもな。


「オフィシャルだ。団長と呼べ」

「でも!」


 待てよ。

 そこまで退がったなら、アレがあるんじゃないか?


 うむ。

 やはり足元にあった。


 最初に手放したハルバードだ。


 少しでも間合いを稼ぎたいからな。

 剣なんかより圧倒的だし、もうハッタリも意味がない。

 拾っておこう。


 しかし間合いは多少埋まっても、依然不利は埋まらんか。


 クレッケル卿も絶望的な気分だったろうな。

 私も似たような感じだが、



 実は、これはこれで分かってきたこともある。



 それに付随して、


 攻略の糸口も。

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