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真摯(?)な説得

「殿下はご無事みたいですね」

「あぁ」


 さすがのアネッサも緊張していたのだろう。

 空気が抜けるようにつぶやく。


 そもそも第一騎士団の人数が減っていないし、旗も落としていない。


「フューガ・ミュラー以下中央騎士団! 援護に参った!」

「おお!」

「援軍だ!」

「ミュラー卿が来られたぞ!」


 近くで見ても、別に鎧は汚れちゃいない。

 彼らは直接巻き込まれたわけじゃなさそうだ。

 なら殿下も無傷だろう。


 だがそれは最低限をクリアしたにすぎない。


「味方は峡谷に閉じ込められ、苦しい戦いを強いられている!

 一刻も早く救援に向かわなければならないんだ!」

「この数では無茶です!」

「だとしても、方面軍の撤退が可能になれば、激しい追撃が始まるだろう!

 だから私たちが食い止めねば、彼らは後背を突かれる!

 せめて退くわけにはいかない!」


 何より気持ちが退いていない。

『仕方ない』では聞き入れるまい。


「殿下! 中央騎士団、着到いたしました、」

「おお、ミュラー卿!」


 殿下がマントを強く引くと、引っ張っていた第一騎士団の手から抜ける。

 そのまま殿下はこちらへ馬をお寄せになる。


「よくぞ来てくれた!」

「お目付け役ですから」

「兵力は!」

「各騎士団、全て続いております」

「素晴らしい!」


 かと思えば、また馬首を進行方向、爆発のあった方へ。


「これだけの兵力があれば、救援はなったも同然だ!

 さぁ行こう!」


 それはいいのだが、


「はい。



 フューガ・ミュラーがひと仕事つかまつりますれば、殿下は先にご退却を」



 おもしろいくらいピタッと殿下が止まる。

 言葉も止まって、背中から明らかにテンションの下がったオーラがしている。


 マズいぞぉ。


「……それはできない」

「何ゆえ」

「逆に問おう。これだけの軍勢、ミュラー卿という英傑。

 退く必要があるだろうか」

「過分なご評価、光栄ではありますが。


 ここは川向こうの敵地であることをお忘れなく。


 こちらは土地勘で劣り、向こうは把握している。

 いつどこから奇襲部隊が現れるか分かりません。


 また、背には川が流れ、撤退は容易ではありません。

 舟橋を渡してはいますが、狭く混雑するでしょう。


 万が一の多いこの状況で、殿下のお守りを約束できますかは」


 殿下も筋は通っていると思っているんだろう。

 勝手に馬を進めてはいかない。


 だが、振り返りもしない。


「それでも、ダメだ」

「もう一度お聞きします。なぜ」

「ダメなのだ」

「名誉のためですか」


 侮蔑に聞こえたか。

 殿下が勢いよく振り返る。


「違う!


 味方を救いに行くのがそこまでおかしいか! 間違っているか!


 むしろ騎士として、軍隊として、最優先のことではないのか!」


「要不要の話であれば。

 前線で敗戦をまとめることと同じだけ、いえ、それ以上に、


『後方で立て直しを図る』


 役目は重要でございます。


 勝ってから再建、では遅い場合がある。同時並行が望ましい。

 殿下はそちらを」


「私が! 追撃を判断した!

 その結果、北方方面軍が危機に陥っている!

 私が救援に向かう責任がある!


 立て直しはミュラー卿がよろしく差配すればいい!」


 ダメだ。

 まったく聞く耳を持たん。


 たとえ殿下が100年の賢者でも正しい判断ができない。

 それくらい頭に血が昇っている。


 どうする。

 言い争っている時間はない。

 1分1秒が北方方面軍の血だ。命だ。


 くそっ!

 かくなるうえは……!




「いい加減にして! お兄ちゃん!」




 時間が止まった気がした。

 いっそ本当に止まればいいんだが。

 その方が北方方面軍も助かる。


 殿下はまず驚きが来て、

 それから痛みが追い付いたようだ。


 そりゃ、ビンタされるなんて思わないよな。


 周りもするとは思っていなかったろう。

 アネッサなんか口元を手で覆っている。


 これでも右利きが左手でやったんだ。

 そんな顔しないでほしい。

 鎧着てるから鈍器みたいかもしれんが。


「えっ、えー」


 頬を張った高い音のあと。

 ようやく出た次の音は、殿下の戸惑いだった。

 それで時間が、他ならん私自身すら解凍された気がする。


「バカにしないで!

 私たちがなんのために戦ってると思うの!


 後ろにいる国民やお兄ちゃんたちを守るためでしょ!?

 そのために毎日命を張って、ときには本当に死んじゃうんだ!」


「お、おぉ」


「それはお兄ちゃんが戦場に出ても出なくても変わらない。

 いつも誇りを持って、使命として戦っている。


 だから何が起きようと、そっちのプライドで


『責任がある』


 なんて背負ってほしくない。

 もし逆にあるなら、お兄ちゃんには常にある。

 あなたと国を守って死ぬ兵士への責任が。


 それを、都合のいいときだけ。



 お兄ちゃんも王さまになるのなら。


 全てを受け止めはしても、無遠慮に踏み込まないで」



 ついぞこんな態度で妹属性魔法を使ったことはない。


 あのババアも


『妹らしい仕草で振る舞え』


 みたいなこと言ってたか。



 でもな、私に妹はいないんで知らないがな。

 たぶん世の中、こういう妹もいるぞ?


 特に殿下の実妹であらせられるマルグリット殿下とか。

 全然鼻っ柱が強いタイプだし。


 っていうのが効いたどうかは知らん。

 が、事実として



「分かった。任せる。すまなかった」



 殿下はそれ以上何も言わず、

 一気に私の隣を、舟橋へ向かって駆け抜けていく。


「おおっ!」

「殿下!」


「第一、第二騎士団は殿下をお守りせよ!

 どこに何の潜んでいるやも分からん!」


「「はっ!」」






「さて」


 殿下と騎士団を無事見送った。


 それにしても、殿下もさすがにデレデレせずに従ったな。

 妹魔法、全てが屈辱だが、せめて毎回こうならいいものを。



 というのはさておき。



 殿下と同じく、私たちも気を引き締めなければならない。

 なぜなら、



「さて、残った騎士団諸君。



 これからが本番だ。


 我々はこれより、北方方面軍の救援へ向かう」

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