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悪魔の正体

 聴力をやられた手応えがある。

 巨大な太鼓が張り裂けるような、それをまた濃縮したような轟音。


「なんだ、今のは」


 全身を同時に襲われた。

 空気の動きとは思えない、濡れたカーテンで叩かれたような衝撃。


「なんだ今のは」



 遠くからでも()()()()見える。

 街ひとつ森ひとつ焼き払ったかのような、火属性魔法でも見たことのない黒煙。




「なんなんだ今のはっ!!」




 猛烈に嫌な予感がする。


 否。

 現場から離れていても分かる。


 圧倒的破壊と暴力だった。



「総員、全速力!

 今すぐ駆け付けるぞ!!」



 アレが人類にとって、悪いものでないわけがない!



「今から、あそこに、ですか……?」

「当たりまえだ! 殿下の御身に()()あらば!

 ビビるのは分かるが殴るぞキサマ!!」


 怒鳴ってから気付いた。

 コイツ、第二騎士団長か。

 判別つかないほど顔面蒼白になっている。


 だがここで議論している暇はない。

 相手も責任ある立場なら()()()()だ。


「先頭は私が行く! 続け!!」

「アネッサ・トゥルネーがお相伴(しょうばん)つかまつる!」


 私ら二人が飛び出せば、さすがに他も引っ張られたらしい。

 なんとか無理矢理でも進軍できた。


 私だって今、気絶しそうなほど怖いんだからな。






「むっ。あれは」


 しばらく進んでいると。


 向こうからこっちへ爆走してくる騎乗の騎士が一人。

 旗印は



「おお! ミュラー卿か!?」



 確認するまでもなく味方か。

 さっきも爆走だったが、さらにスパートを掛けて隣に来る。


「まさか、もうここまでいらっしゃっているとは!

 いったいどうやって!?」

「世間話はいい! キサマは第一騎士団だな!

 敵前逃亡でもなければ、伝令であろう!」

「はっ!」


 若い伝令は息を大きく吸う。

 鎧の上からでも胸が動いたのが分かる。



「味方先手集、北方方面軍!


 大敗いたしました!」



「なんだと!」


 悲惨な報告ながら、言いにくいとの躊躇すら許さない内容。


 私も口では驚いているが、ここまで前振りがあれば予想内だ。


「それより殿下は!」

「救援に向かわれるのを、第一騎士団長が必死に止めていらっしゃいます!」

「くそっ!」


 慈悲深いのか血気に(はや)っているのか。

 はたまたご親征に汚点を残せんからか。


 ご天気は知らんが、ロクな方に作用していない!


「案内しろ!」

「はっ!」






「改めて、詳しく説明しろ」

「はっ!」


 伝令と並走しつつ。

 

 殿下がどこまで進軍なさったかは分からん。

 だが味方が敗北、進行が頭打ちになったということは。

 そこまで遠くもないはずだ。


 到着までに情報を整理しておかねば。


「まず、北方方面軍は上陸後、周囲を哨戒(しょうかい)しておりました」

「それは知っている。そこで敵と遭遇したと」

「はい。その数、1万に満たないほどかと」

「ほう」


 北方方面軍の方が多い。

 とはいえ占領地奪還で削ってやったのに、まだそれだけの動員が。


「序盤は拮抗、こちらがやや有利。

 そこに殿下がご到着なされ、味方は()()()()勢い付きまして。

 ついにこれを破ります」


 早いな。ほぼ互角の兵数で。

 遭遇の報があって、殿下がすぐに出発なされて。


「偽装退却か」

「御意。お味方は一度落ち着くか追撃に入るかの択となり、


 殿下が追撃をお命じになられました」


 仕方ないな。

 殿下は功を焦っておられた。


 それを抜きにしても、追撃は大戦果のチャンス。一方的なボーナスタイム。

 攻めるのが常識だ。


 だが、ときには『釣り』の可能性もあるわけで。

 私たちがエノレーでやったようにな。


 それを思い起こしてもらいたかったが、


 敵は奇襲で来ていた。

 乾坤一擲、『これで勝つ』策だ。


 二段構えとは見抜けなかったんだろう。


「そこで伏兵に遭い、大敗したと……」

「御意」



「ちょっと待て」



 それだと何やらおかしいぞ。


 相手は1万近い兵力で討って出た。

 疲弊した敵方面軍でも、かき集めればこれは分かる。


「じゃあ伏兵は何人いたんだ」


 ちょっとやそっとの数なら、突然現れたって効果はない。

 だからといって、そこからさらに一定の兵力を捻出したのか?


 どうやって。

 本格的な援軍はカンプター前。

 まだ到着していないはずだ。


 何より、


「それは」

「どうしたんだ」



「分かりません」



「なに」

「北方方面軍からの伝令曰く、


『敵を追って峡谷に入った。

 しばらくは何事もなかったが、先手衆の多くが乗り入れたところで



 急に地面が光り、吹き飛び、音と熱と衝撃が』」



 私たちが目撃した、天に伸びる悪魔の手のような煙。

 そもそもアレはなんだったのか。



「『先手衆は一瞬にして壊滅。

 退却していた敵からの逆襲を受けている。


 さらに悪いことに、衝撃で峡谷が崩れ、退路が細くなっている。

 全体での退却も()()()()()()ので、とりあえず自分だけまず連絡に来た』


 と」

「くっ」

「報告に伏兵の様子がないのです」

「団長」


 アネッサも黙っていられないらしい。

 不安な声を溢す。


 だが、分かったこともある。


「アネッサ。おそらく『火薬』というヤツだ」

「火薬!」

「あぁ。東方で生み出されたもので、なんでも凄まじい


『爆発』


 なるものを起こすとか」

「えへぇ」

「東方からの異教徒が使うと聞いたこともある。

 連中、東部戦線で学んで導入したのかもしれん」


 あ、言わない方がよかったか。

 未知の兵器に、アネッサだけでなく全員が萎縮している。

 すでに怯えているのに、それ以上縮こまると頭足人(とうそくじん)になるぞ。


「だが安心しろ。火薬ってのは一度爆発するとなくなる消耗品だ。

 少しの量で延々火力を出せるなら、すぐに大地がなくなってしまう。

 おそらく我々が見た規模のを起こしたからには、もう残っているまい」


 一応元気付けてはみたが。


 安心半分、

『大量確保してたらどうするんだ』って顔半分か。


 どうしたもんか、とも思うが。



「殿下! 一刻も早くお退きください!」

「否! 否だバウマン卿!」


「やっとるな」


 やがて見えてきたのは第一騎士団。

 お姿も見えないのに、殿下の怒鳴り声がする。


 今ケアせねばならんのは()()()だ。

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