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これも妹効果

 この業界、騎士は魔法を戦闘レベルで使えるのが前提だ。

 そのなかで


 火属性なら暖炉に着火できる

 水属性だと顔ぐらいは洗える

 風属性では消耗が(まさ)って涼しくならない

 地属性の場合家庭菜園にクワがいらない


 が出せる全て。


 フューガ・ミュラーは兵士として、非常に劣等なスタートラインに置かれている。


 だが私は幸いにして、男に劣らぬ

 いや、下手な男より長身に育つことができた。

 別の面では、有利なスタートラインにも立っていたのだ。


 だから私はそちらを伸ばした。

 肉体を鍛えた。

 武芸百般を鍛え上げた。


 結果、戦場でも力こそパワーで暴れまわり、敵国や味方から


『野生の女』

女熊(めぐま)

『女の顔で騙してくるタイプのデーモン』


 とか呼ばれるようになったころ。



 私は南方方面軍・第四騎士団長を拝命したのだ。



 ゆえに過日のザウパーの干し肉ネタとか。

 ありゃ


『女に腕っぷしで負ける』


 という屈辱を与える存在として、目の(かたき)にされているわけだ。






 そんな私がだ。


 何十人に囲まれてしまうならともかく、




 狭い峡谷で、数人横並びの雑兵が突っ込んでくるごとき!



 相手にならんわ!!




 まずは先頭のオマエら3人!


『おい、見ろ! マントだ!』

『騎士団長クラスだ!』

『手柄首だぜ!』

『いや、待て! 緑だ!』

『てことは、第四騎士団の「女熊」か!?』

『上等ォ!!』


 ほう! 私と理解して、なお向かってくるか!

 ウチの嫌がらせしか能がない連中より、よっぽど男らしいじゃないか!


 よかろう!

 まとめて薙ぎ倒してや



「「「「「うおおおおああああああ!!」」」」」



「な、なんだ!?」


 何か黒い塊が隣を走り抜けていったぞ!?


 ん? アイツらはもしや、




「団長が前に出てるぞぉ!!」

「ここで退いたら男が(すた)る!!」

「フューガちゃんを守れぇ!!」

「テメェらぁ! オレの妹に手を出すなぁ!!」




 パイクを装備した、味方の騎士たちか!

 いや、彼らも軍人だし、対騎兵用の装備だし、来るのは当然なんだが、




「オレらのアイドルに刃を向けたな!!」

「生かして返すな!!」

「オマエらなんかに妹はやらん!!」

「穢らわしい野郎が近づかないでちょうだい!!」

「キシャアアアア!!」

「団長あとで褒めてねぇぇぇ!!」

「お姉ちゃんのことギューってしてねぇ〜!!」





「オマエらキモチワルイな!!」




 なんか思ってたのと違うぞ!?

 ていうか今アネッサいたよな!?

 オマエは立て直す指揮を執れと、


 いないわ。

 混乱してたはずの連中がどんどん前へ出ていく。

 パイク持ってない魔法担当の連中も、剣を抜いて走っていく。


 立て直す、統制しなきゃならん人員がいないわ。


 正直すごく困惑している。

 完全に勢いを削がれたし、どうしていいのか分からなくなってきた。


 でも、



『うわっ!?』

『なんだコイツら急に!』

『ぐわああ!!』



 突如殺到する、怒涛と化した500名。

 止め方が分からないのは、敵方も一緒だったらしい。



「討ち取ったぞ!」

「次だ次!」

「我らが妹ちゃんに仇なす賊どもを滅せよ」

「突撃せよ! このアネッサに続けぇ!!」



「「「「「おおおお!!」」」」」



 なんなら本人たちも分かってないんだろうな。

 洗脳って怖いね。


 誰も分からない、なんだコレ状態なもんだから



『なんだアイツら!』

『急に突っ込んできたぞ!』



 当然、敵方だってそう。


 守勢を決め込むと思っていた相手が、急に突撃してくるんだもんな。

 それも狭いから展開しきらないとはいえ、500人全員で。

 しかも関わっちゃいけない目をして。


 自分たちが一方的に攻める側、ってのも災いしている。

 騎兵を前面に出して、撃ち合いで被害が出た魔法隊は一旦後ろ。


 突っ込む私たちに弾幕を張れない。


 じゃあ騎兵で突っ込んで迎え討てば、と思えばパイクの槍ぶすま。

 急に止まれない馬、足元のガードが乏しい馬上。

 長い槍で下から突き上げられるのには対応しづらい。


 かわいそうに。

 常識的に堅実に進めてきたから、何ひとつ状況が噛み合ってないんだ。


 となるともう、


「お、オマエたち、オマエたち!


 あー、もう!!」


 下手に止めるより(止められないし)、




「行ったれオラァー!!!!」




 勢いで突っ込むしかない!!


 もう知らんぞ!

 どうせこのザマなら、死んでも分からん!!











「開門! かいもーん!!」



「ミュラー! おい! ミュラー! マジか!」

「本当か?」

「へ?」


「私は、フューガ・ミュラーか……?」



 あれから何時間戦ったかは知らん。

 レガロの城門をくぐったのは、東の空が(しら)みはじめたころだ。


 だが、



「もう記憶がなくなるくらい戦い抜いてな……。

 もはや自分が誰かも分からん。生きているかどうかすらな」

「大丈夫だ。足はあるぞ。保証する。オレも死人じゃないかぎりはな」



 脳が疲労でやられるまで戦い抜いた甲斐あって、

 なんとか無事、敵を退(しりぞ)けることができた。


 望外の大戦果、いや、

 奇跡だ。



「第四騎士団が帰ってきたって!?」

「ウソだろ!? あの状況でか!?」

「英雄だ! 英雄の帰還だ!」



 話を聞きつけたか、他の騎士団連中が続々集まってくる。


「本当によかった!」

「オレたちの代わりに死線に立って……。本当にすまなかった」

「1杯、いや、好きなだけ奢らせてくれ!」

「いったいどうやって生き残ったんだ。聞かせてくれ」


 みんな(ねぎら)ってくれるのはうれしい。

 感謝やら褒めそやされるのも悪い気はしない。


 確実に出世への評価ポイントにもなっただろう。

 まずはコイツらの上に立って南方でエリート。

 ゆくゆくは魔法とか無縁の中央へ……


 夢は広がる


 が、


「ちょっと通してくれ。本当に大変だったんだ。休ませてくれ」


 本当に地獄だったのだ。


 全員がひとつの生物のような塊になっていた。


 言い換えれば全員が『妹属性』の洗脳のもと、

 個々人の生死を忘れたところで暴れ散らかした。


 だから向こうも


『死兵当たるべからず』


 無駄に手強い、見るからにヤバい相手と当たるのを嫌がったのだ。


 甚大な被害を与えたわけじゃない。

 長靴半島王国軍が、無理せずクレバーに退いてくれただけだ。

 朝からの戦闘で、疲労もあれば戦果も上がっていることだしな。


 それで()()()()、生還できたというわけだ。



 もうヘロヘロだ。

 足と言わず全身が棒のようだ。


 とにかく今は、汗を流してすぐにも寝たい。

 いや、気絶したい。


 夢は広がらんでよろしいから、夢も見ずに深く眠りたい。





















 フューガ・ミュラー以下、第四騎士団が深い眠りについたころ。


 白十字王国南部。

 アルツィヒ城の廊下を走る、若い青年の騎士がいた。


 白十字の人間にはめずらしい、少し日焼けした肌。

 それもそのはず、


 彼は長靴半島王国の、それも日照時間の長い南部出身だからである。


 アルツィヒ城は白十字王国南部といったが、それはつい先日までのこと。

 ここ数日の戦闘により、厳密には長靴半島王国北端の領土となっていた。


 だから彼がいるのもおかしいことではなく、



「申し上げます!」



 飛び込んだ城主の間にいるのも当然、


「何?



『マルティノの先遣隊が敗走した』



 だぁ?」

「はい!」

「そうか」



 若き才英 キオスキ・ナルデーニ

 長靴半島王国軍総司令官である。


 また、


「なら、




 次はオレが直接手を下すしかねぇな」




 長靴半島王国最強の男でもある。











お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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