意義のあるや否や
あまりにもサラッと、当然のように。
しかも提案ではなく決定事項として話されるもんだから。
諸将の誰もが、一瞬反応できなかった。
私も
『えっ? 昨日私が休んでいるあいだに会議があったのか?』
と思ったし、周囲の反応を窺う意味でも
『知らないのだから迂闊な口出しはできない』
という意味でも黙るしかなかった。
だが、どうやら全員が寝耳に水だったようだ。
誰一人応えない。
椅子と同化したように動かず、気配すら薄れている。
「……」
クレッケル卿と目が合う。
『何か知らないか?』
中央の実質指揮官である私に、改めて確認しているのだろう。
北方方面軍のトップに小さく首を振り返すと、大体のことが確定した。
となれば、
「殿下。クラウスリッケン奪還を持ってご親征の目的は達されたのでは?」
私が探りを入れるべきだろう。
みんな知らなかっただけでなく、
『えぇ……?』
って反応だった。
有り体に言えば、みんな嫌なのだ。
「いや、陛下より奪還をご下命されたが。
更なる戦果について、袖を引かれてはいない」
「しかし我々も、方面軍は特に連戦続きで疲弊しています」
敢闘精神を疑われそうな発言は、お目付け役の私以外言いにくいからな。
しかし殿下は、
「だからこそだよ」
情感よりも理論武装派だ。
「コンクカンツァーとクラウスリッケンは目鼻の先だ。
ここを攻略しておかなければ、すぐに逆寄せが来る。
しかも我々が去ったあと、疲弊した方面軍しかいないところに、だ」
そりゃそうだよな。
素人という自覚は殿下にもあられる。
だから今まで、方針に口を出しても都度の作戦は我々に任せたし、
逆に口出しするからには、ただの邪魔にならないよう練ってくる。
「懸念たる敵の援軍も、まだリンツブルクを過ぎてカンプターに至らないあたり。
諸兄による望外の進軍がもたらした成果だ。
ふいにしては報われない」
言い終えるや否や、殿下は席をたつ。
「もちろん今後を左右する重要な判断だ。
『すぐに結論を』とは言わない。じっくり考えてみてくれ。
では解散とする。よい休暇を」
やるな。
このあたりはさすが政治畑か。
攻略の作戦会議、と銘打って反応が悪いと見るや『提案』に退く。
一方でガッツリ反論が来るまえに話を打ち切ってしまう。
自身の意見を押し出した、自身がリードした状態で。
で、『解散』と言われたら残って議論するヤツと素直に帰るヤツが出る。
殿下の正当性だけ耳に染ませたヤツが、多数決になれば作用するってハラだ。
「殿下におかれては、まだ不服があるらしい」
その後、食堂でアネッサと食事していると。
クレッケル卿が盆を持って現れた。
私と議論しに来たらしい。
正面はアネッサが占めているので、その隣にお座りになる。
こらアネッサ。そんな顔するな。
水を差されたのがイヤなのか、隣にオジサンが来たのがイヤなのか。
どのみち縦社会で上長にしてはいけない顔だぞ。
なんなら正面を譲らなければならないくらいだが。
卿は話を進めてしまう。
「マイナスをゼロに揺り戻す事績は『救国の英雄』だ。
しかし殿下は敵領を切り取り、『開明の英雄』を積もうとしておられる」
あるな。
王国軍は基本負け続きだ。
貴種から平民まで、どこか『ジリ貧』の意識がある。
たまに大天才が現れて、延命されてきたに過ぎない。
最近の私みたいに(私は妹魔法の天災だが)。
だからケチ付けようと思えば付けられるんだ。
『現状維持の王では未来がない』
と。
まぁこんな中傷、本来ならあまり気にすることはない。
だが、殿下にはハインリヒ殿下がいらっしゃる。
「コンクカンツァーより逆寄せが来て、万が一
『救国の事績に即傷が付くと困る』
というのもあるでしょうな」
「うむ」
クレッケル卿と考えだけでなく、スープを飲む動きもシンクロする。
むくれたアネッサが、あーあーあー。
匙使え。一気飲みするな。
さすがに卿も驚いて彼女を見たあと、咳払いをする。
「畏れ多くも、これ以上の進軍は思わしくない」
「ふむ」
「目鼻の先たる両都市が分かれているのは、間に大河があるからだ」
厳密には湖の一部。
これにより、大昔に帝国側が侵攻を区切ったことがある。
それでひとつの都市だったものが、今日のかたちに至る。
「渡ればいざというとき、撤退は容易ならざる」
「敵も『間に合わなかった援軍』なら帰りましょうが、
『失地回復の遠征軍』
となれば、変わる場合もあるでしょう」
「正直挑みたくはない」
よくもまぁ言い切るもんだ。
どこで誰が聞いているかも分からんのに。
だがクレッケル卿は居住まいを正すと、私の顔を真っ直ぐ見据える。
「だが、お国の一大事たる王位継承。その一本化に関わるとなれば。
私はこの機会を逃さない方がいいと考える」
確かにな。
ハインリヒ殿下のネガキャンを恐れての行動なら。
逆に
『成し遂げれば封殺できる』
って話でもある。
「私も、内乱よりは外征の方が易しいと心得る」
かくして4日後。
地元民より舟を徴用した白十字王国親征軍は、
最後の任務に出撃した。
のちのち無茶なタイミングで功績をねだられるよりは、
勝勢に乗って次期国王を一本化していただこう。
といっても、数万の大軍が一気に渡れるだけの舟はない。
数回に分けて渡河する運びとなった。
「では露払いには偵察も兼ねて、我々北方方面軍が参りましょう」
クラウスリッケンの街を囲む城壁の上。
眼下には港が見える。
朝だが湖にありがちな靄もなく、日和と言える。
「では第二陣は私が」
「いや、ミュラー卿」
殿下の声が割り込む。
見れば、みんな港を見ているのに、わざわざ手まで上げて。
「第二陣、中央騎士団主力は私が率いたい」
ほう。
「正直、ここまで私は『おんぶに抱っこ』状態だった。
私の名のもとの親征だったが、記録を見れば
『実質指揮官であるミュラー卿とクレッケル卿の功』
に帰結するだろう」
それはまぁ、言いかねんお人がいるよな。
「最後くらいは『お飾り』でなく終わりたい。
卿たちの奮戦で勝てる戦にしてもらい、最後だけ手柄を持っていく。
卑怯な振る舞いとは思うが、全て君たちの功で終わると
『ただ君たちが戦うタイミングを指定されただけ』
になってしまう。
どうか手柄を分けてもらえまいか」
「殿下」
つまりこれは、渡河だけでなく
『コンクカンツァー攻略戦の、全体に渡って指揮を執る』
という宣言だ。
確かにここまで連勝街道、敵も増援が集まる都度打ち倒した。
少なくとも国境付近はすっからかん、敵領といえど抵抗力は変わらないだろう。
順当にいけば勝てる。
「ミュラー卿」
クレッケル卿が力強く頷く。
「とりあえず、渡河に関しては殿下に行ってもらおう。
先頭ならともかく、すでに私が渡っているからな。
国境を越える瞬間で、殿下が指揮官の姿を演出する。
いいプロパガンダだ」
確かに。
要は『見栄』にこだわっている殿下だ。
なんなら実質の手柄より、
『有名な絵のテーマになって後世に語り継がれるシーン』
のひとつもある方が効果的だ。
「ミュラー卿、譲ってくれるか」
すでに殿下は、もともと美形なご尊顔に加えて、覚悟の籠った目をしている。
これを肖像画にしたいくらいだ。
「ご存分に、お気張りください」
なんか、子離れを見守る気分だ。
ほぼ同い年だけど。
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