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ウィニングラン

 寒さもピークの季節となってきた。


 家の中にいたって命の危機を感じることもある季節。

 ここを乗り越えれば暖かくなる、という希望で胸を温める季節。

 本来なら、今ようやく降り尽くしの雪が溶け始めるころ、


『そろそろ敵味方、(いくさ)に動くようになるな』

『面倒だな』


 となる季節。



 だというのに。






「思った以上に堅牢な城だな」

「それもありますが、殿下。味方の動きが鈍い」

「ヴァイスフレンデンのあと、長めの休息を取ったと思うのだが」

「ですがここ数日はまた、野営しての城攻めです。

 寒すぎて日々の疲労が、その日の睡眠で回復しないのでしょう」

「うーむ」


 我々は朝っぱらから戦争をしている。

 枯れ草に付いた朝露が凍って、まだ液体になっていないぞ。


 で、高台の本陣から眺める戦場も、凍ってしまって進まない。


 今回はキロ単位離れた位置に本陣がある。

 遠近感で詳細な部分までは見てとれないのだが。


 それでも味方が城壁や城門に取り付けている様子はない。

 崩したり黒煙が上がったりもない。

 ようは攻城戦が始まってから、位置的にも進捗的にも進んでいないのだ。


「ここが落ちれば、あらかたの領土奪還はなされるというのに」

「時間が掛かりましょうな」


 帝国軍最後の占領地域(ここ数年で奪取されたものに限る)

 クラウスリッケンもまた城塞都市。

 ファーレンファイトやヴァイスフレンデンくらいの時間は覚悟せねばな。


「しかし、クレッケル卿は


『北方方面軍の名誉に賭けて、短期にて抜いてみせる』


 と」

「クレッケル卿が? そう言ったのかい?」

「御意」


 殿下は何やら驚いてらっしゃる。

 唐突な決意表明に思えたのかな?


 だが実際、ここさえ落ちればご親征の目標は達成される。

 東方より来たる敵の援軍もまだ到着していない。

 すでに来ているならともかく、


『救援すべき対象に間に合わなかった。現場へもまだ距離がある』


 では撤退するしかないだろう。

 本来戦をしない期間に大きく食い込んでいる。

 双方戦場より後ろが限界だ。



 ここを奪還すれば、今回一連の戦役は終わると見ていいだろう。



 となると、北方方面軍の名誉挽回チャンスも、今回が最後となる。


 ご親征ばかり取り沙汰されるが、そもそもの発端は


『こちらの北方方面軍が手痛く負けた』


 損失を取り返すための戦だ。

 やはり明確に


『北方方面軍で仕上げた仕事』


 がないと回復しない、と


『皇位継承を確たるものにした殿下』


 の勲章が放つ反射光に、埋もれると考えたのだろう。



 気持ちは分かる。

 騎士は勇敢で誇り高い。


 ゆえにそれらが傷付け貶められる可能性には誰より()()だ。


 ほんの少しであろうと、星を積んでおきたいのだろう。



 私としても、思うところがある。


 向かうところ敗戦してばかりいる白十字王国軍だが。

 ともに戦っていて分かる。


 決して彼らが無能なのではない。

 モミアゲ以外。


 南方のゼッケンドルフ卿もそうだし、特にクレッケル卿。

 大天才かは知らんが、広い視野と冷静な判断力を有している。


 だがどちらもそうだったように、相手は国力からして違う列強。

 常に兵数からして、ときに倍近い不利を負って戦いが始まる。


 先の敗戦だってそう。

 むしろオオワシを相手にカマキリが、奇跡的なまでに保たせているのだ。

 そう考えたらモミアゲもそこそこエラい。


 だからこそ、



「ご安心ください殿下。

 彼らはやり遂げます」



 彼らが結果論で不当な評価をされるのは気に入らない。


『条件さえ()()()なら勝つ』


 そのことを証明してもらいたいのだ。











 クラウスリッケンが落城したのは、半月あまりのちのこと。

 かくして今回のご親征により、我が白十字王国は直近の失地を回復した。


 下手すれば数ヶ月、平気で年単位に及ぶこともある攻城戦。

 野戦であらかた兵力を削いだとはいえ、ひとつの城にひと月掛かった事例はなし。


 伝説的な進軍である。











 クラウスリッケン城の会議室。


 我々指揮官に召集が掛かったのは、陥落の翌日に休みをもらって次の朝だった。


「じゃあ行ってくるよ、アネッサ」

「北方遠征も終わって、中央へ帰るって話かな?」

「うれしそうだな」


 戦場との別れを惜しむヤツも、そう多くはあるまいがな。


「だって最近忙しくて、あまり一緒にいられてないし」

「そっちか」


 だから部屋まで乗り込んできて、鎧の着付けを手伝うと言い出したんだな。


「はい、マントもピシッ! 完成でーす!」

「戦場いたんだぞ。絶対シワだらけだろ」

「そういう意味じゃなくてさぁ」


 つまり、それくらいには今回もよく戦った。

 今までのような苦境こそなかったが、順当に激しく長い戦場だった。


 そのあいだ、私が新しいことに苦しんだように。

 ずっと殿下やクレッケル卿と集まっていたために。


 アネッサは一人で苦労していたんだ。

 指揮どころか、ずっと副官をしてきた彼女が。


 ときには私ですら面食らう大軍の現場指揮を投げられて、大層困ったことだろう。


 いつだって世話になっているが、今回の殊勲はアネッサだ。


「よし、アネッサ。中央に帰って、ご親征の軍団が解散したらな。


 休みもらって、二人でどこか遊びに行こう。

 遠出して、景勝地とか、温泉とかな」


「本当!?」

「私がウソついたことがあるか?」

「見栄を張ることはあるよ」

「あるかぁ」


 まぁいいさ。

 もっと愚痴られて当然なくらいだから。



 それに、今は私も機嫌がいいんだ。


 あとはもう帰るだけだからって?

 それもあるが、



 妹属性魔法が、必要最小限で済んだからな!



 こんなに素晴らしいことはない!

 次はゼロを目指そうか!






 と、ウキウキルンルンで会議室に入った私を待っていたのは











「次の、コンクカンツァーの攻略について話し合いたい」




「……は?」



 殿下からの、サラッとしたひと(こと)だった。

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