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勝者の報酬

 その日は一旦、森に入って夜営した。


 エノレーじゃないのか、って?

 人が埋まっている上で寝たいかね?



 ってことで、ひと晩明けてからアルゼウへ。


 敵はボコッたのだし、もう防衛線を張る必要もない。

 味方は先にギュンタークルツへ帰ったものと思っていたが、



「ミュラー卿!」

「これはこれは殿下。わざわざお出迎えいただけるとは」

「当然だろう!」


 意外や意外、殿下は私たちを待っていらした。

 どころかテュニカの森を抜けたあたりまで、迎えに来てくださっていた。


「畏れ多いことでございます」

「そんなことがあるものか。よくぞ、よくぞやってくれた……!

 英雄を迎えるには、これでも報いきれないと思うほどだ。

 どうすれば君の名誉を傷付けない相応しさとなるか。我が身の無知無学を思い知るばかりだ」

「困ります」

「いやしかし、賛辞に(あたい)する活躍であったろう」

「クレッケル卿」


 北方方面軍までいるのか。

 陽動を買って出てくれて、私たちよりよっぽど疲れているだろうに。


「今回の勝利は、北方方面軍の献身と確かな遂行力なくしてはあり得なかった。

 あなた方にも相応しい賛辞を」

「ありがとう。少しむず痒いな」

「なんの」

「双方とも救国の英雄ということだ。みんな城に戻ったら、活躍の分だけ休息してくれ。

 今回のことは軍忠状にも(しる)し、必ずや父王陛下に奏上するよ」

「「ははーっ」」


 中央に名声が届いて覚えめでたくなるのは、うん。

 正直このまえのロイヤル家族紛争を見たら、よし悪しな気はする。


 でも単純に褒められて悪い気のするヤツはいない。

 いたらストイックすぎて着いていけん。


 だから今はこの栄誉を、素直に噛み締めることにしよう。











 だが、結局はストイックでなければ騎士は務まらない。

 というか生き残れないのだ。


 正直言えば、ギュンタークルツに戻って凱旋パーティー

 とまでは言わずとも、ゆっくり休みたい気持ちはある。


 野営すると風呂に入れないのは、ただでさえ女として(こた)える。

 それが冬になると余計、熱い湯が恋しく……


 なんだ。

 私が女であることに疑義を呈するつもりか?

 よかろう、キサマの血でシャワーを


 話が逸れた。

 休みたいのが人情というものだが。

 実際殿下も慰労を提案してくださったが、



「殿下。敵は壊滅いたしました。

 抵抗力は皆無、無人の野を行くがごとし。


 敵の増援が来ていない今こそが天時(とき)です。


 陛下のご存念たる、帝国の奴輩(やつばら)に奪われし土地の奪還。

 殿下のお求めである武名勲功のトロフィー。



 今こそ存分になさい」



「おお!」


 その晩、城に着いて、鎧も脱がず、大広間にて。

 片膝ついて、我ながら絵になるシーンだ。


 これには殿下も


「その(げん)やよし!」


 即座に王国の反撃、逆侵攻が始まった。











「押せ押せっ! 初手初速が大事だぞ!」


 我々白十字王国軍は2日で攻城戦の体裁を整え、ギュンタークルツより出陣。


 まず手始めにエノレーの先へ進み、レンドルフに攻め掛かった。


 当然敵勢に私たちを迎撃する余力はない。

 籠城を選択したようだ。


 しかも主力はファーレンファイト、分かれ道の逆へ逃げ込んでいたらしい。

 あそこの方が都市や城塞の規模が大きいからな。


 最初から見捨てられていたようなものだ。


 結果、レンドルフ攻略は4日間の攻防の末、敵方の夜逃げで決着した。



 これが実によく効いた!


 いち都市のスピード陥落。

 たとえ帝国軍に最初からその気がなくとも、


『我々にはもう、領土を防衛する力が残されていない』


 という結果を突き付ける。



 メンタルもへし折れたのだろう。


 次に北上し狙ったのはマックインガー。

 我々が到着したころには、すでに放棄されたあとだった。


「コイツはうまいぞ」


 確かにマックインガーも防衛に向かない小都市ではある。


 だが山地が多い王国領にて、通れる道というのは限られている。


 マックインガーはヒンメルブルグ山を迂回する道の途上にある。

 つまり周辺都市の南北を繋ぐ背骨なのだ。


 ここを分断したことにより、以南の複数都市も孤立。

 実質の奪還が決まった。



 まさに連日連戦連勝、武名赫赫(かくかく)たるや。

 私も殿下も北方方面軍も、鼻がストップ(だか)を知らない。


 という、誉れの喜びも大きいが、






「救世主が来たぞーっ!」

「帝国の支配は終わったんだ!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「皆さんは解放の英雄です!」

「わああああ!!」


 真にうれしいのは、行く先々で歓迎してもらえることだ。


 城壁の門をくぐって街に入ると、市民たちが一斉に飛び出してくる。

 そのまま隊列の左右に並んで、まるでパレードだ。

 バンザイの声が飛び交い、子どもたちが花を差し出してくる。


 何も、帝国にいつかの山賊みたいな目に遭わされていることはないだろう。


 だが、やはり彼らは侵略国家だ。

 他所から奪うことを国家運営とし、そのために土地を支配下に入れる。


 単純に、ぶん取った領土には重税が課されるのだろう。

 しかも連中は次の(いくさ)、次の次の戦へと突き進む。

 その資源を要求される。


 際限ない闘争が、際限ないリソースを求める。


 違法な痛め付けがどれだけあったかは知らない。

 だが、法の元の攻撃は確かにあっただろう。


 みんな苦労したんだな。



 だからこそ、私たちの苦労も報われる。


『人を殺してまで、何をしているんだろう』

『戦争は勝っても負けても民を苦しめる。

 彼らからすれば、私たちも敵も同じではないか』

『人を1人殺せば、確実に1人分の苦しみと悲しみが生まれる。

 だが私たちは、たった1人分の救いや喜びすら生み出せているだろうか』


 騎士とは常に迷いの連続だ。


『そのうち慣れる』というヤツもいる。

 だがそれは本人に隠者の素質があるか、

 皆その境地に至るまえに戦死するかだ。


 そこに彼らの反応は答えをくれる。



 救われているのは、私たちの方かもしれないのだ。



 それを、騎士ではない殿下も感じているらしい。

 宮中にいては届かない、近くで、目で見る市民たちの喜びを。

 己の成果、実現させた幸福を。


 殿下はパレードの中心から、少し後方の私を振り返って宣言する。



「さぁ、次はファーレンファイトだ!



 もっと市民たちを解放するぞ!」

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