交戦開始
「来たぞーっ!」
夜の静寂を踏み荒らす、またも響く蹄の怒涛。
味方の最後尾は見送ったからな。
コイツらの正体はひとつだ。
「構えろーっ!」
相手の足を止めるのとは別の、我々の盾となる柵。
その後ろで本物の盾を並べる。
結局は魔法が飛んできたら、丸太なんて吹っ飛ぶからな。
だが、
「一歩も退かんぞ!」
「意地でも敵を押し返すんだ!」
「守るぞ! 祖国を、家族を、
かわいい妹を!!」
「「「「「オオーッ!!」」」」」
「はは」
うれしいやら悲しいやら、騎士たちの士気は高い。
こちらはそう簡単に吹き飛ばんぞ。
もはや洗脳だからな。
彼らは一人として逃げることなく、根が生えたようにここで死ぬだろう。
だがそれは私も一緒だ。
馬はすでに降りた。
狙撃を避けたいのもあるが、
何より、逃げる足などもういらん。
地響きで震えているのか、覚悟を上回る恐怖で震えているのか。
よく分からんが揺れる視界に、
「見えた!」
視界不良の夜でも分かる。
月光を照り返す鎧と得物。
巻き上がる土埃。
長靴半島王国の連中だ!
見えたということは、すでに魔法の間合い。
隘路で回避もままなるまい。
先に仕掛けるのは、
「放てーっ!」
我々だ。
とにかく物理破壊が可能な魔法を放つ。
敵
ではない。
峡谷のそびえる壁の、上の方。
崩落を起こして、進路を潰してやろうってハラだ。
『崩れるぞーっ!』
敵方の多少慌てた声も、すぐに轟音で掻き消える。
ただ、こんなもの状況の解決にはならん。
「備えろ!」
魔法を使えば簡単に切り拓ける。
地属性使いが集まる時間を稼げる程度だ。
開通作業はあっという間。
瓦礫の山に穴が開く。
「火属性! 風属性!」
間髪入れずに火攻めだ。
火はわずかな隙間から侵入するし、空気で大きく延焼する。
数の不利を分かりやすく覆してくれる。
『うおおおっ!?』
『火だっ!』
『水属性!』
『いや、砂を被せて消してしまえ!』
崩落までは対処できても、不意打ちの2段目は効いているな。
半島語は少ししか分からんが、慌てっぷりで明白だ。
これでいい。これがいい。
時間稼ぎは相手の足を止めること。
仕留めるより混乱で進めなくさせることだ。
だが相手だってバカじゃない。
冷静なヤツは冷静に対処してくる。
手っ取り早いのは、
『こっちからも燃やしてやれ!』
オウム返しだ。
相手がやったんだから、可能なことが証明されている。
だがな。
「アネッサ!」
「はい!」
そんなことは分かって手の内を見せるもんだ。
アネッサの得意属性は風。
だから伝令も追い風で速いのだ。
騎士団の副官クラスともなれば、相当な風力が出る。
するとどうなるか。
バースデーケーキのロウソクみたいなものだ。
弱い火は吹き飛び、
『逆流してきたぞ!』
『火を止めろバカ!』
『それより早く道を開通させろ!』
半端に腕があれば、こういう目に遭う。
「ははは、土砂を除けてもしばらくは近付けまい」
しばらくったって数分だけどな。
でも数分を着実に重ねれば大きな差になる。
レースの世界なら、数秒の差すら致命的だからな。
それは向こうも分かっている。
自発の火を止め、水魔法で鎮火する。
こうなると数の差で、なすすべなく消されるな。
並行して瓦礫も取り除かれると、
「伏せろーっ!!」
お返しとばかりの魔法が殺到する。
これはもう盾の裏で伏せるしかない。
だが、
「うわっ」
「もっと頭を下げろ!」
衝撃は強いし、火はさっきのようにすり抜ける。
最後は運だ。祈るしかない。
狭い峡谷に陣取っていなければ、もっと大量の斉射が展開されていた。
ゾッとするな。時間稼ぎすらできん。
ただ、
祈っているだけではダメなのだ。
何も解決していないのだ。
なぜ我々が『魔法使い』ではなく『騎士』なのか。
地べたへ伏せた頬に、魔法とは別の振動が伝わってくる。
頭上からは敵方の雄叫び。
「来るぞ!」
『魔法で頭を上げられなくして、騎馬で乗り込み制圧する』
これが騎士団の基本戦術だ。
遠くからペチペチ、子どもの石投げ気分では勝てない。
だが今顔を上げれば、上げた分だけキレイになくなる。
「地属性! 合図で行くぞ!」
そうは言ってられないのが戦場か。
死ぬほど怖いが、前へ出て顔を上げる。
真の危険は指揮官率先、というのもある。
でもそれ以上に、
死にたくなければ命を賭けなければならない。
その皮肉こそ戦争が地獄たる所以だ。
散々『時間稼ぎ』だ『捨て石』だと言ったがな。
私は生きたいぞ!
敵の騎馬隊がちょうど、最初の柵にたどり着く。
今だ!
「上げろーっ!!」
合図と同時に、地属性魔法で地面を盛り上げる。
『おおっ!』
『うわっ』
『どうどう』
『ぐあぁ! 踏んでる!』
柵が作ってあると、どうしても
『これが敵の防御陣の完成形』
と油断してしまうものだ。
一瞬で数メートル跳ね上がる地面。
いくらかは落馬したり、馬ごとひっくり返っただろう。
「いいぞいいぞ、もっと渋滞を起こせ」
だがこれも、せいぜいが不意打ちだ。
継続的に効果を発揮したりはしないし、
『地属性! 来い!』
やっていることも実質焼き回し。
『隙間を作ると火が来るぞ! 全員で一斉に壁を崩せ!』
対応も早く、こなれてくる。
それだけじゃない。
「いいか。連中が壁を破ったところに、もう一発斉射してやるぞ」
騎士たちが頷く。
これが最適解だからな。
しかしアネッサは青い顔。
副官だけあって分かっている……
いや、全員分かってはいる。
分かったうえでやるしかない。
最適解だから。
最適解ということは
「団長! 崩れます!」
「撃てーっ!!」
敵もそうしてくるということ。
「団長、伏せてーっ!!」
「ああああ!!」
「負傷者を後退させろ!!」
「消火! 消火だ!!」
みんな攻撃のために立ち上がっていた。
盾の範囲からはみ出しているメンツに魔法が直撃する。
「くそっ!」
ただでさえ人数差がある。
少しでも減るのは勘弁してほしいところだし、
『今だ! 突っ込め! 突き崩せ!!』
攻め手はいい。
自分のペースで寄せたり退いたりを選べる。
だが守備側はそうはいかん。
戦線が崩壊しようと、ちょっとタンマは許されない。
「後送は後ろの連中に任せろ! 弾幕を張れ!」
指示で騎士たちはすぐに撃ち返す。
が、
いかんな。
バラバラで、歯が抜けた櫛のようだ。
崩れるとすぐに建て直せないのは、頭数より動揺と混乱だ。
馬上の騎士を何人か撃ち落とすも、足止めには足りない。
かくなるうえは、
「アネッサァ!」
「はい!」
「指揮はオマエが執れ!」
「団長!?」
「私は」
剣?
いやいや。
相手は馬上だからリーチがいる。
騎士だから、打撃で鎧の上からダメージが入る重量もいる。
だから、私の愛用武器はコレだ。
全長7メートル
先端で巨大な鉄の塊を形成する、
槍斧
「私は前に出て、立て直しの時間を稼ぐ!!」
「危険です!」
「危険だと?」
何を言っているんだ。
私は生き残りたいからやるんだ。
「オマエ、最近私が魔法を覚えたからって、
どうやって騎士団長まで昇り詰めたか忘れたな?」
「あっ!」
答えは単純。
魔法など知ったことか。
これが私の真骨頂!
「さぁ来い長靴の騎士ども!
その鎧ごと叩き割ってやる!!」




