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いっそ不敬罪

 いやいやいや、待ってくれ。



 は?



 嫌なんだが?


 嫌だ。


 嫌だっつってんだろ。



 なぁおい。

 必死にがんばってきたんだって。


 のらりくらりとさぁ。



 せっかくアンヌ=マリー戦を終えてさぁ。


 4万字。

 4万字だぞ?



 せっかくここまで使わずにやってきたんだよ。



 やっべータイトル詐欺になってるよとか思いながらプライド守ってきたんだよ。



 それがどうなる?


 見ろよ。

 ここには今回の(いくさ)での(おも)だった指揮官が全員集まってんだよ。


 私の同僚たちであり、職場の全てみたいな範囲なんだよ。


 それに?

 晒せと?


 南方、西方。

 なんとか抜け出して、アネッサ以外誰も知らないところへやってきたのに?

 新天地なのに?


 人類の残されたフロンティアを、またも私の手で汚染してまわれ、と?



 なぁ。

 おい。


 なぁ。


 ……



 ………………



「殿下」

「なんにしても、一度当たってみるべきだ。

 負けないことが第一義にしても、勝つ努力を放棄してはいけない。


 戦闘が起きれば死者が出るのは理解している。

 現場で部下を世話し、(ひき)い、死なせる君たちの気持ちも分かる。


 が、戦闘状態が長引けば、兵糧の供出や武器に使う資源の消費。

 後ろで支える市民の苦役も長引くんだ。

 国政で、デュートリッヒ公として、私も見てきたものがある。


 無鉄砲に戦ってはいけないのも分かる。

 だが、無計画に戦うものではない」


 うむ。

 まだ何も言っていないのにこの文字数。


 私がクレッケル卿と話しているうちに、殿下も反論を練っていたんだろう。

 あまりに手応えあるのができて、フライングでお出しするほどに。



 でもって、普通に正論だと思う。



 どっちが間違ってるではなく、正解に多面性がある、

 いや、違うな。


 あらゆるものには必ずメリットが潜んでおり、

 我々騎士はその全てを抽出し、


『デメリットと釣り合うか』

『最大効果が出るのはどれか』

『今必要な要素か』


 を判断する仕事でもあるのだ。



 そんなことは分かっている。

 私たちも殿下が間違っているから否定したいわけではない。


 それでもなお、優先されるものがあると判断したのだ。


 所詮はいち団長から飛び級した『女熊』にすぎん私より、

 いち方面軍を任されるほどの大局眼がある、クレッケル卿もそう言っているのだ。



 だから、やはり、ここは。


 尚且つ、殿下に方面軍との遺恨を感じさせない説得方法は……



 ギュンタークルツで守勢派の面々が、すがるような目で私を見る。


 やめろやめろ!

 見るな!

 私を見るな!


 私はそんな存在じゃない!


 知ってるんだ!

 何度も見てきたんだ!

 その期待と敬意に満ちた眼差しが、


 一瞬で凍り付き、

 驚愕し、

 困惑し、

 失望し、

 ありとあらゆる生きてきた常識が崩壊し、

 一切知らない宗教の


『原始、地球が誕生する以前。神と混沌の時代の話である』


 みたいな空間に飛ばされたがごとく呆然とするのを!



 クソが!



 騎士たちだけじゃない!

 殿下も私を見ている!


 だからこそ、じっと黙っていると


『反論はない』


 と打ち切られかねない!



 チクショオオオオーッ!!



「殿下」


 ご尊顔の眉が『まだ何かあるのか』って感じに歪む。



 あぁ! そうさ! あるとも!

 最悪にドデカいヤツをくれてやるってんだよ!!



「うっ」


 殿下の顔が、今度は驚愕にビビり散らす。


 なんだ、人の顔を見て失礼な。

 だが仕方あるまい。


 私はな、()()を使うと決めたときだけは顔が変わるんだ。

 戦場の『女熊』を超えた、全てを憎み破壊を希求する顔に。


 きっと今から、不敬罪になるレベルの暴言が飛び出すと思ったんだろう。


 大丈夫。そんなんじゃないよ。

 ある意味大問題になるレベルの暴挙ではあるけど。




 では行くぞ!




 まずは怒りに満ちた表情筋を解放しろ。

 続柄関係なく、ムスッと頼みごとするもんじゃない。


 次に顔の角度。

 少しアゴを引いて上目遣い。

 僅かな目下感とオドオド感を演出して、


『ここは目上として度量を見せてやらねばな』


 と思わせる。


 だが引きすぎたとて距離が生じる。

 密接な感情を演出すべく、相手の手を握り


 最後に!

 私の大嫌いなアヒル口っぽく唇を突き出して!


 行きたくないが行くぞ!



「いえ、




 あのね、お兄ちゃん♡」




 カーッ!!!!

 なーにがアヒル口だよ!

 このクソふざけた間抜けヅラのどこに魅力があるんだよ!


 今すぐ自分の口を縫い合わせてしまいたい!

 そんでもって騎士ども!

 オマエらの目も縫えば全て隠滅だ!


 いや、むしろアヒル口はこの振る舞いに必須かもな!

 口をすぼめてなけりゃ、舌を噛んでいるところだ!


 世の乙女たちは日々このような苦痛と衝動に耐えているのか!

 ご苦労!


 隣でクレッケル卿が呆然としている。

 どうやらアヒル口で魂を吸い取ってしまったらしい。


 以前も似たような状況で、


『いっそ場の全員を堕としてしまった方がいいんじゃないか』


 なんて思ったりもしたが。

 正直普通にキツい。


 みんな一流の騎士にして一流の魔法使いだ。

 第四騎士団500名より耐性がある、労力が掛かる可能性がある。



 でもやればよかったなぁ!!



 おいコラ殿下!


 この私が!

 ここまでやったんだぞ!


 分かってるよなぁ!?


 あぁ!?

 殺すぞ鑑定士のババア!!(?)



 殿下ァ!!




「なんだい? 親愛なる妹よ」




 決まった!

 よっしゃ!


 ここまで来たら勝ち確だ!

 一気に殿下を洗脳してしまえ!


 騎士どもの視線もザワ付きも感じないもんね!

 感じないったら感じないもんね!



「お兄ちゃんの言うことも分かるよ。

 でもね? 騎士団のみんなもそれは分かってるの。


 分かったうえで、みんなを守るために大切なことを考えてるの。


 もし負けたら、お兄ちゃんの大切な市民のみんなを敵から守れない。

 お兄ちゃんのことも守れない。



 だから、お願い♡」



 目がウルウルしてきた。

 あざとい演出ではない。


 情けなくて涙が出てきたのだ。

 もしくは周囲のヒソヒソ声が鎧を貫通して、背中が死ぬほど痛いから。


 だが、その甲斐あってか、



「分かった♡ そうしよう」



「「「「「オオオオーッ!」」」」」



 ついに殿下が折れた。

 騎士たちのザワめきが歓声に変わる。

 あとでなんか奢れよ。めちゃくちゃ高級なヤツ。


「ありがとう! お兄ちゃんダーイスキ!」


 こうなりゃヤケだ。

 念押しに抱き着いてやる。


「おっと! はっはっはっはっ! よーしよし、かわいいヤツめ」


 何がヨシヨシだ。背中撫でんな。

 オマエが強情なせいで、こちとらヨクナイヨクナイなんだよ。


 おい殿下。

 このまま首へし折っていいか。

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