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あれもこれもコントロール

 撃ち合いはしばらく続いたが。


 昼になるまえに帝国軍は撤退していった。


 射程に差があるといっても()()()

 圧倒的イニシアチブとか損害は生み出さない。

 今日のところは時間の無駄と判断したんだろう。


「追撃はしなくていいのか」


 殿下は早速打って出たい本音を覗かせたが、


「なりません。先ほどの戦闘、火属性魔法にて多くの雪が溶けています。

 これが下の雪にすぐ冷やされるとどうなるか。


 今度は氷になります。

 敵とのあいだにはスケートリンクがあるとお考えください。


 追撃には向かないこと。

 相手が反転してきたら、今度こそロクに抵抗できないこと。

 明白です」


 我慢していただこう。


「なるほど。ミュラー卿は北方出身だったね。とりわけ雪にも詳しい、と」

「ありがたきお言葉です」

「鎧のことも、助かっている」

「お役に立てまして光栄です」



 鎧ってのは、今殿下が着てらっしゃるものだ。


 ベルノを出発直前は、自前のものを使おうとしてらっしゃった。

 式典や儀礼用の、ピッチリとしてスタイルのよさを強調するヤツ。


 ご親征の目的が目的だけに、カッコよく演出したいのは分かるが、


「そちらではなく、心持ち大きいサイズをご着用ください」

「どうして」

「改めてデュートリッヒ公に説くことではありませんが。

 北方の冬はおそろしい。


 普通に肌着を着たのでは、冷えた鎧で低体温になります。

 内側に重ね着するスペースが必要なので、どうか余裕のある鎧を」

「分かった」


 ということで不服ながらも、すぐ用意できる普通の鎧を着てもらった。

 これだってそれなりにカッコいいんだぞ?

 ほら、右肩から左腰に掛けて伸びる十字架のペイントが



 それはさておき。


「ではミュラー卿。私はこの後どうすればいい?」

「おそらくクレッケル卿が報告に来られるでしょうから、(ねぎら)いの言葉を。

 このあとの動きに関しても、まずは方面軍の意見をご諮問(しもん)ください」

「そんなに寄り掛かって、頼りなく思われはしないだろうか」

僭越(せんえつ)ながら、帝王学の真髄は


『優秀な部下を見極め、任せ、実力を最大限引き出す』


 ことと聞いております」


 戦闘後の処理や殿下のご機嫌もそうだが。


 方面軍の機嫌、つまりは両者の橋渡しをせねばならん。

 むしろ大軍の指揮より、こっちが私の職責かもしれん。


 結局は殿下も素人。

 方面軍とて仮に不満が出たとしても、仕方ないと思える点はあるだろう。


 つまり、中央側で騎士(プロ)でありトップである私に集中する。

 最悪のポジションだな。

 何が出世だ何が補佐だ、生贄じゃないか。


「『任せる』か。君の口からそのような言葉が出るとは意外だな」


 む。私だって好きでスタンドプレーしてきたわけじゃないんだぞ。

 南方でも西方でも、味方の協力があれば全然甘えたぞ。

 私は周囲の無能を


『カーッ! 仕方ねぇなぁ! オレが有能すぎるからなぁ! カーッ!』


 で消化できるタイプではない。

 戦場にそんな余裕ない。


「そんなことないですよぉ! 団長は本当に素晴らしい上官です! 私もノビノビ! やらせてもらってます!」

「そうなんだね。有名コンビの秘訣なのだね」


 いや、アネッサはもう少し引き締めろ。











 兵士ならともかく。

 戦闘が終わっても、我々指揮官の仕事は終わらない。


 唯一の救いは、雪原の夜営ではないということか。



 というわけで、ここはギュンタークルツ城の会議室。


 私と殿下と方面軍の主だった指揮官が集まっている。


 暗い中テーブルに地図を広げ、夕食も摂らず鎧も脱がずだが。

 暖炉があるだけで全て許せる。



 敵が撤退したあと、物見(ものみ)を放って動向を探らせたのだが。


「再確認だが、敵はガナハンゲに陣を置かず、フラウフェルンまで後退したようだ」


 思ったより遠くまで引き揚げたらしい。


 目の前に居座られたら睨み合わねばならん。

 しかしこの距離なら、こちらも余裕が生まれる。


 というわけで城に入れた次第だ。


 それ自体は『ありがとう』と握手してキスまでしたいところだが。


「さて、この動き、諸兄(しょけい)はどう見る?」


 方面軍総司令官エルマー・ヨハン・フォン・クレッケル卿が、道筋を指でなぞる。

 我が2X年の人生の中でも指折りに低い声だな。30までに更新されるだろうか。


「様子見だったのではないか?」

「あれだけの大軍を動員して、それはない」

「おそらく攻めあぐねて守勢にシフトしたのだ」

「それならラッケルシャッハやガナハンゲをスルーしないだろう。両市で防衛線を築くべきだ」

「それよりフラウフェルンの城塞都市の方が堅牢である」

「硬さの話ではなく、『守勢側が防衛線をひとつ放棄するか』と言っている」


 のんきなことを考えているうちに、まぁ意見が出るわ出るわ。

 もとより出しゃばらないつもりではいたが、入る隙がない。


 それ自体は頼もしくてよろしいのだが、



「ふむ……」



 大きな作業をしたわけではないが、慣れないことをした疲労。

 緊張。

 出る幕がない手持ち無沙汰。


 殿下がアクビを噛み殺してらっしゃる。


 仕方ないとはいえ、こっちの方がよっぽど士気に関わるぞ。


「殿下」

「あ、うん」


 少しピリッとしていただこう。


「ひとつだけ確実なのは、


『敵は仕切りなおしを選んだ』


 ということです。

 明日もまた同じ展開になることを嫌った」


 唐突に私が話を振ったからだろう。

 他の騎士たちも殿下へ視線を向ける。


 私が話を区切ると、殿下は緊張に背筋を伸ばす。

 今のを受けてなんと答えるか。

 たとえ神輿であっても、指揮官としての素養を試されているわけだからな。


 しかし殿下はうれしそうですらある。

 ご親征の目的からして、(ないがし)ろにされるのが一番キツいからな。


 そして、答えは昼間に伝えてある。



「つまり、こちらは徹底して同じパターンを敷けばいい、ということかな」



「御意」


 よかったよかった。

 思わず鼻から深くため息をつくと、周囲から


『お察し申す』


 という目線が来た。

 私に


『殿下と現場を繋ぐ』


 苦労があると思ったが、意外と


『みんなで殿下をお支えせねばならない』


 という、同じ苦労を背負っているのかもしれない。

 私と現場が共同体になりつつある。











 だが、そうならないためにまず敵が退いたのだ。


 防衛側の(つら)いところは、基本後手に回るところ。

 常に相手が仕掛けて、こちらが対応しなければならない。


 報告が届いたのは6日経った昼まえ。


「申し上げます!



 帝国軍がミッターシュナウザーに布陣しました!」

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