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デビュー戦

「殿下に報告してくる。アネッサは引き続き見ておいて、何かあったら呼んでくれ」

「はい」


 雪を踏み締めて陣の奥へ。

 沈んでも滑っても厄介だ。


 まったく、絶対に戦争日和じゃない。

 まぁ人を殺すのに向いてる日なんてないが。


 というかそもそも。


「殿下。鉄血の騎士団が現れました」


 陣の中心。

 人生で見た中でも一番デカいテントに入ると、



「うううううむ……」



 殿下が椅子に座って、全身を震わせている。

 両腕抱えて、体を丸めて。


「武者震いで?」

「むしろ恐怖か何かなら、よっぽどよかったのだけれどね……」

「分かります」


 そもそも人が住むのに向いてない季節してるよな。


 テントの中は引火が怖くて火を焚かない。

 ただでさえ王城で暮らしていた殿下が、初の戦場で、暖房なしで、真冬の完全野外。


「外にお出になられますか? 出られますか?」

「うん。たとえお飾りでも、指揮を執らなきゃならないからね」

「陣幕の中からでも、いかようにも指示は飛ばせますよ」

「騎士からすれば鼻で(わら)うかもしれないが。私には『姿勢』が勝ち負けと同じくらい重要なんだ」

「笑いませんよ。低体温症で気が触れないかぎりは」


 殿下を伴って外へ。


「ぐうぅ、風が吹いている……」


 アネッサは、特に報告にゃ来てないな。

 この短時間では、さすがに何も始まっていないようだ。


 我々本陣はもはや起伏レベルの()()()()な丘上。

 あまり遠くを見渡せているわけではない。


 敵の姿が見えるころには、そこそこ近い距離なわけだが。

 連中、到着即仕掛けてはこなかったらしい。


 デーモンの話かって噂ばかり聞くから、少し意外というか、人間の常識あるというか。


「それでミュラー卿。どう見る?」

「僭越ながら」


 さっき見た光景を思い返す。


「数は事前の報告数と同規模で相違ないかと。敵方3万3,000、お味方4万1,000です」

「うむ。数では有利か」


 殿下の腕をさする動きと頷きがリンクする。

 鎧の上からさすっても意味ないぞ。


「ですが我々本隊はこの丘を中心に展開しております。

 まず最初に当たる(ふもと)の前衛部隊だけで言えば、多少下回るかと」

「それはよくないな」


 殿下の顔色が変わったのは、さすがに気温のせいではないだろう。


「我々も丘を下って、前衛に加わるべきか」


 グッと肩に力が籠る殿下だが。


「いえ、それには及ばないでしょう」

「なに」


 気が(はや)ってらっしゃっては困る。


「ご覧の雪景色、馬も使えず走れば滑るありさま。まず機動戦にはなりません」

「うむ」

「となると、魔法や弓矢の撃ち合いとなるでしょう。後ろに射程外の兵士を詰めても仕方ありません。

 実質数の差はない」

「そういうものか」

「そういうものです」


「殿下。団長」


 話しているうちにアネッサのところまで戻ってきた。

 陣柵まで寄れば、低い丘とはいえ多少は戦場を俯瞰できる。


「むしろ後方で()()()()構えておけば。

 仮に先手衆(さきてしゅう)が敗走した際、援護できます。


 また、敵が勢いを駆って本陣を目指そうとも、()()()()とはいえ高低差。しかして雪。

 思うように登れず、立派な防衛線になります」

「なるほど」

「そもそも威嚇合戦で終わるとは思いますが」


 などと話しているうちに、



「敵勢、動きます!」



 若い見張りの声がする。


 陣形はなんの変哲もない横長の四角。

 最前列に多くの人数を並べて、弾幕の量を増やす形だ。


「指示は出さなくていいのかい」


 指揮官というポジション。

 この戦いにおける自身の使命。

 殿下がソワソワしている。


 が、


「ここは現地の騎士たちに任せましょう。兵の練度も含めて、手並みを把握したい」

「そうか」


 実は私が単純に余計なことをしたくないのもあるがな。

 大軍指揮の経験もなければ、地の利もない。

 そういう意味でも、お手並み拝見だ。



 麓の味方が動く。

 丘の裾に沿うよう布陣していたのが動き出し、鏡合わせの構えになる。


「おお」


 いちいち殿下の感嘆がうるさくはあるが、予想外の展開にはならなさそうだ。



 距離を詰めてくるのは敵方。

 まずは矢の撃ち合いが始まる。


(おびただ)しい量だな。被害が大きそうだ」

「あまり出ません。鎧も盾もある」

「じゃあ無駄なんじゃないのか?」


 戦争自体が無駄だよ、というのはさておき。


「恐怖心やストレスで言えば、費用対効果は高いのですよ」

「なるほど」



 という自身の発言をひっくり返すことになるが。

 それでなお慣れるのが騎士だ。



 数分の矢合戦のあいだにも、敵勢はじわじわ距離を詰め


 魔法の射程に入る。


 風属性が雪を巻き上げて目潰しのブリザードになったり、

 炎魔法が水蒸気を量産したり。


「よく見えなくなったぞ」

「劣勢ですね」

「見えるのか?」

「見えないからです」


 見えづらいってことは、より手前側でいろいろ発生しているってことだ。

 魔法の撃ち合いで押し込まれている


 というより、


「……射程が劣っている、のか」

「ですね」


 相槌を打ったのはアネッサ。


「マズいのか!?」


 殿下はこのご様子。

 落ち着きがないと笑いはしない。


 むしろリアクションの分だけ熱心に学習している、ってことだ。


「マズくはありません。基本大雪は守りに有利です。

 ノコノコ出ていかなければ、大怪我はしないでしょう」


 ていうか普通は雪溶けまで戦争しない、できないモンなんだがな。


「だからこそ、(せん)だっての味方も大敗したのでしょう」

「どういうことだ」


「遠距離の射程が負けているということは、


『一方的に殴られる』


 ということになります。

『コテンパン』でなくとも、『手も脚も出ない』ストレスは大きいものです。


 また今回と違い、当時は単純な数も敵に劣っていた。

 じわじわ削られるのに耐えかね、近距離戦へ持ち込んだのでしょう。

 一気に(まく)るために。


 そこを叩き潰された」


「ううむ」


 味方の現地方面軍も手痛く学習したのだろう。

 損害以上の圧が掛かるなか、隊列を崩さず()()()している。


 逆にそうしていられる程度には、無茶苦茶撃ち込まれているわけでもないんだろう。

 やはり、じっくり行けば光明が見えてきそうだ。


 となると大事なのは、


「殿下」

「なんだ、どうした」


 殿下も『パフォーマンスがどう』とかおっしゃってたよな。


 だったら私も、大袈裟に片膝ついて、(こうべ)を垂れる。


「基本方針が決まりました。


『専守防衛』


 ひたすら守りに徹し、敵の破壊力を封殺し、時間を掛けます。

 雪路で補給線が険しい遠征軍には、これで勝ち得るでしょう。


 そのためにも、総司令官たる殿下におかれましては、



 味方の無理な攻勢、軽挙妄動(けいきょもうどう)を戒めること。



 これを万の策に勝る(しるべ)として、采を振るわれますよう」


 方面軍も今はまだ落ち着いて対処している。


 だが、同じ展開が続けばストレスが溜まり、いずれ爆発するだろう。

 今回は数で(まさ)っている。


『数で劣っているから』近距離に出た連中が、

『数で優っているから』決着を急ぎかねない。


 要は誰しも本能的に、一気に叩き潰してしまいたいのだ。



 だから大事なのは、総司令官たる殿下がそれを律することであり、



「……分かった」



 不満を隠そうとして隠しきれない声と顔。




 分かりやすい戦果に(はや)る殿下を、私が制御することだ。

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