決して誤魔化しではない
「ノウハウをご教示いただきたいのです」
待ってくれ。
ノウハウってぇと、
『何をどうしたら成功するのか』
ってことで、ご教示ったらそれを
『私はこうやって成功させました』
と語るってことか?
つまりまとめると、
『実は世の中には妹属性魔法なるものがありましてね?
相手を、自分を溺愛している兄姉のように洗脳できるのです!
するともう何もかも意のまま!
ただし発動条件がありまして。
相手に対し、媚び、上目遣いでキュルルンと
「お兄ちゃん♡ お姉ちゃん♡」
と囁く必要があるのです』
なんて白状するのか!?
いやいやいやいや無理無理無理無理!!
絶対無理!
ノウハウとして一切の参考にならない。
私以外の使い手を聞かない現状、誰でもは扱えないだろう。
再現性なかりせば、ノウハウではない。
そんなものを両殿下にお伝えし、ぬか喜びさせるなど……
ん、なんだ?
『本音は違うだろ?』
だって?
そうだよ!
当たりまえだろうが!!
言えるわけないだろ!
『ちなみに私は部下やゼネヴォン市民、ナルデーニに行いました!
そうやって全てを操り、今日の戦果を生み出したのです!』
なんて!
『ノウハウ教えて』
ってことはだ!
まだ殿下は知らないんだ!
私のおぞましき生き恥は中央に伝わっていないんだ!
セーフなんだ!
私はここでなら尊厳を保ったまま生きていけるんだ!
それを自ら破壊できるわけないだろ!
見ろ! あの両殿下の緊張と期待に満ちた童顔を!
アレが秒で5歳くらいお年を召された侮蔑の瞳に変わるぞ!
「ミュラーさま、いかがでしょうか?」
「えっ、と」
「それは我々も興味深いな」
「やはり国力では列強に劣るわけだしな」
「外交は騎士の本分ではないにしても。現場にそれだけの交渉術があれば、状況は好転するだろう」
「白十字王国は周囲を囲まれた内陸国だ。ただ戦に勝つだけでなく、交易ができねばならない。
その意味でも、友好的な落としどころを設けられる和睦交渉は重要だ」
「げっ!」
周りの騎士どもがワラワラ集まってきやがった!
ふざけるな! オマエら普段は
『騎士とは己の武ひとつを誇りに戦うものだ』
『金だ外交だと小賢しいことは、ヒョロヒョロの政治屋どもにやらせておけ』
とか言っとるだろうが!
殿下の、特にアデライド殿下の御前だからっていいカッコしやがって!
ぐっ!
とにかくこの場を切り抜けなければ!
『なんでもお聞きください』
とか言った手前はあるが、ここは仕方な
「団長! 言ってやりましょう! あの輝かしい武勇伝を!」
アネッサあああああ!!!!
そりゃオマエはそうだろうな!
私の妹魔法楽しんでるもんな!
魔法掛かるまえからなんか、洗脳済みだもんな!!
おおおおおーっ! と囃し立てる騎士ども。
にっこり笑って、指先で音のない拍手をするアデライド殿下。
グッと真剣な表情で見つめてくるドミニク殿下。
どうする、どうする!
私は……!
「はぁ」
今日は一段と疲れた。
最近は夜の宿舎だけが私の安寧の地だ。
ベッドに仰向けで寝転んでいると、
『フューちゃん、、アネッサです。入っていい?』
ドア向こうから声がする。
「おう。開いてるぞ」
「失礼します、あ、寝てた?」
「鍵開けて寝たりはせんよ。天井のシミを数えていた」
「オトコ!?」
「残念だが、そういう口説き文句するヤツと寝る気はせんな」
「じゃあ参考までに、どういう口説き文句なら?」
「言葉より腕相撲でもするかな」
「一生結婚できないね」
「なんだと」
軽口を叩くアネッサだが。
椅子に腰を下ろすと表情が変わる。
「どうしてあんな答え方したの?」
今朝の殿下のご質問のことだな。
「フリードリヒ殿下にも同じようにお答えしたからな」
結論、私は
『部下とは密にコミュニケーションを欠かさないことです』
『苦境のときほど、言葉による鼓舞が大事です』
『これは敵であっても同じことです』
『捕虜を取ったりと話せる機会があったならば。
やはり話し合い、関係を築くこと。そこから全てが始まります』
『さすれば何事も、結束による流れで運ぶものなのです』
くらいの話でまとめておいた。
嘘は言っていない。
だがそれだけに普遍的、当たり障りがなさすぎる。
オーディエンスはあっと驚く天才的、一発逆転のメソッドを求めていたのだ。
アデライド殿下はのんきにフンフン頷いていたが。
ドミニク殿下は真顔。
さらに軍人たちは喫緊の脅威に迫られている。
拍子抜けで、見る見る座が冷えていくのを感じたし、
「なんで本当のこと言わないの?」
アネッサも不満なようだ。
「逆に必要あったか?」
「あるよぉ!」
アネッサは椅子の背もたれ越しに身を乗り出して、危うく倒れかける。
「南方に西方! 王国の急所を実質一人で2つまとめたその手腕!
共有しないのは国家に対する裏切りだよ!」
「共有しても誰も再現できんぞ」
「それはそれで、フューちゃんのオンリーワンな英雄性が語られるから」
「あのなぁ」
コイツは私をなんだと思ってて、どうしたいんだ。
「逆に誰も知らない
『妹属性魔法の力です!』
なんて言ってみろ。
バカだと思われたらマシな方だ。
みんな真剣な場で悪ふざけする、それこそ国家に対する裏切りだと思われる。
オマエの言う英雄も一撃で崩壊だ」
「あー」
決して我がプライドの保身だけではないのだ。
人と人が生き、結束するには、ときに真実より大事なウソがある。
だから何も間違ったことはしていない。
そのうえで私にも周囲にもメリットがあったってワケさ。
みんな損しないんだ、最高だろう?
なおもひとつ問題があるとすれば、
翌朝
「これはこれはアデライド殿下。またこのような、騎士どものむさ苦しい場に」
「密なコミュニケーションが全ての根本なのでしょう?」
そのまた翌朝
「これは殿下、私のような者の宿舎まで。
畏れ多いこと痛み入りますが、ワタクシこのように病いを得まして(仮病)」
「ですので看病に参りました!」
フンフン純粋に頷いていたアデライド殿下に、付き纏われる羽目になったくらいだ。
ていうかモミアゲすら見つけられていない隠れ家を、どうやって知ったんだ。
あのいいカッコしいどもがゲロったな?




