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サラダだと緑色って普通なのに他の食べ物で出ると面食らうよね

 どうりで陛下と王妃殿下、不仲なわけだ。



 いや、子孫を、血筋を残すのも王の仕事だ。


 だから子どもをたくさん作ることは義務だし、

 古今東西、王が側室を抱えることはよくある。

 咎められることでもない。



 でもそれを女の側が受け入れるかは別の話だ。



 愛しい、あるいは寄る()たる男からの寵愛を(かす)め取る

 どころか、愛する我が子に受け継がれるべきものが


 他の兄弟

 自身と血の繋がっていない野良犬に取られるかもしれない不安。


 実際は嫡子(ちゃくし)庶子(しょし)じゃ比べものにならんだろう。

 だが、可能性はあるし、

 本人や周囲がよからぬ企みをする可能性もあるし。


 何より、理屈で決着をつけられるなら

 人類に『不安』という言葉は存在しない。


 王妃にとってここまで、百害あって一利ない存在はいない。



 重ねて気に入らないことがあるとすれば、


「ささ、ミュラーさま、トゥルネーさま。お座りください。

 あなた方はフリードリヒ殿下のおっしゃられるとおり、救国の英雄ですわ。

 (わたくし)どもへの()()()()などのために、そういつまでも立っていらっしゃらないで。でしょう、殿下?」

「えぇ。さぁ二人とも、早く座りたまえ。あまりピシッとされすぎてもホストとして困る。

 料理長も温かいうちにサーブしたいだろう」


 このセレスティーヌ・(中略)・ド・ブロイという人物。

 思ったより柔らかい()()()()をする。

 高慢な人間ってのは普通の言葉選びをしてもどこか


『威圧的』

『自分を大きく見せたがる』


 演出の入った話し方するもんだ。

 間の取り方、語句の伸ばし方、抑揚。

 軍でも部下に演説かますにあたっての必須スキルだ。


「ならゲストが(くつろ)げないのは、まさに兄上の実力が知れるというものだな」


 私たちが椅子に腰を下ろすと。

 ハインリヒ殿下が頬杖のまま、ため息とともに吐き捨てる。


 100人が聞いて背後霊含む200人が悪態と思うようなセリフだ。

『あなたが緊張の源泉な』というのはさておき、


 やはり社交界も、いや、社交界こそ舌戦凄まじき世界だろう。

 言葉の刃は(つるぎ)より鋭く、舌先は犬歯より尖っている。


 まぁフリードリヒ殿下は涼しい顔をしているが。

 負け惜しみとしか聞こえていないようだ。



 というような雰囲気が、レディ・セレスティーヌにはない。



 権力者の愛妾なんて、悪女のイメージを持ってしまうが。

 案外こんなもんなのかもしれん。


 むしろ王妃とかの方が血統書付きのお嬢さまだ。

 鼻っ柱の強い夫人により、癒しを求めた男が愛人にたどり着くなら。

 こういう気配りできる((さち)薄そうな)タイプに流れ着くのかもな。


 私も将来結婚したなら、夫の浮気相手はホワイトアスパラガスだろう。



 だからこそ王妃殿下は()()()()、この白百合が気に入らないのだ。



 まぁまだよかったよ。

 ガチで陛下と王妃殿下が直接憎み合っていて内乱になるよりは。


 なワケあるか。

 この食卓は地獄だ。

 アイツもコイツも憎み合って、今に毒殺が始まってもおかしくない。


「そら豆のポタージュでございます」


 運ばれてきた液体が黄緑色なのは大丈夫か?

 得体のしれん物体Xによる発色ではないのか?

 あぁ、盃に注いでいるのは葡萄酒か血か?


「それでは乾杯しようではないか。神と王国とエーデルワイスの栄光を讃えて」


 くそっ、陛下は平気そうだな! 元凶のくせに!

 これくらい図太くなけりゃ、王なぞ務まらんのかもしれないが。


「乾杯!」

「ささ、3人とも。今日は遠慮せず楽しんでくれたまえ。

 その方がよっぽど、ホストへの敬意を示せると思って」

「は、はぁ」

「光栄です!」

「それにしてもさ、フューちゃん」

「なんだ」


 アネッサめ、早速頭を無礼講モードに切り替えやがった。

 プライベート(大嘘)空間にプライベート(ガチ)で乗り込むつもりだ。

 正気か。心臓に毛が生えてるんか。むしろ毛の1本1本に心臓宿ってるんか。


「だからフレデリカ殿下だったんだね!」

「何がだ」


 よりによって、火種になりかねん人をピックアップするな。

 いや、この場の半分以上が踏んだら即死のトラップ級だが。

 頼むから余計なことは言わ


「ずっと


『フルール語系の名前だし、※フリードリヒ殿下と名前被ってるなぁ』


 って思ってて」



Michael(マイケル)(英語)とMichelle(ミッシェル)(フランス語)のような『語源が同じ』関係であり、

 良雄(よしお)良子(よしこ)のような『男性名・女性名』の関係でもある。



「あわわわわ」

「でも分かった!



 母親がフルール系の人で、それぞれの第一子だからなんだね!」



 オマエもう酔ってんのか。

 王妃殿下が殺意、とまではいかないが、不快感MAXの目で睨んでいる。


 この神経、アネッサは国王に向いていそうだ。











 一応その後、晩餐会は無事に終わった。


 この場合における『無事』は、


『毒殺事件は発生しなかった』

『死傷者を伴うケンカは発生しなかった』


 という意味だ。

 それ未満の範囲のことは……


 君は賢い。察せるはずだ。


 ちなみにマルグリット殿下は怒りのあまり途中退室した。











「もう嫌だ。西方に、いや、故郷に帰りたい」



 宿舎に帰った私がアネッサに愚痴りたおしたのはいうまでもない。


「私はフューちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ?」

「ここでメロいセリフ言われても、なんの薬にもならんのだ」


 愚痴だけでなく、こんな返事をしても付き合ってくれる彼女には頭が下がる。

 あの場のどの料理より、オマエと落ち着いて食べる塩茹での野菜がうまかった。

 いつもありがとう。






 とはいうものの。

 アネッサに癒されているだけでは世話ない。

 ストレス源は根本から回避せねばならない。


 かといって、本当に故郷へ帰れるでもないので。






「ようザウパー。邪魔するぞ」

「なっ、ミュラー!?」

「まさかキサマが爺さんの付き添いで来てたとはな」

「おい、何しに来たんだ。今から寝るところなんだが」



「それは無理だ。今から私が寝るし」



「はぁ!?」

「アネッサもな」

「お久しぶりです」

「ますますはぁ!?」


 その晩のうちに、私は自分の宿舎から脱走した。

 なんかあのままだと、またモミアゲが


『明日も呼ばれてるからね』


 とか言いに来そうな気がしたからな。


 要は雲隠れだ。

 一応


『先約があるのでしばらく不在になる。ごめんね?』


 的な置き手紙はしておいたから、失踪事件にはなるまい。



 てことで私たちは、潜伏先にザウパーの部屋を占領した。

 ヤツには山のような恨みと貸しがある。

 これくらいバチは当たらんさ。


 どうせ娼館通いでまともに宿舎におらんだろうし。











「お久しぶりです、ゼッケンドルフ卿」

「おお、ミュラー。活躍は聞いておるよ」

「南方はどうですか」

「君のおかげで、補充した新兵をじっくり鍛える余裕があるよ」


 で、それからはとにかく騎士の集まりに顔を出した。

 先約があるっつってどこにも出てなきゃ、虚偽報告になるからな。


 で、ここなら()()()()()()高貴な方々は近寄らない。

 たまたま遭遇して話し掛けられることもないってわけだ。


 たまにモミアゲが探しに来たときは隠れたり、


『探している』


 って噂は無視したりしたが。



 当初の


『コネを作って中央へ出世』


 っていうのとは真逆になったが仕方ない。

 あんな世界に放り込まれるくらいなら、『女熊』として生きる方がマシ。



 そんな意思が天に通じたか。

 意外と殿下たちに捕まることもなく、平穏に数日が過ぎ、











 もういくつ寝ると今年も終わり、というころ。


「いや、私たちは50年60年と生きるが、各年号は1年しか存在しない。二度と戻ってこない。その1年が終わろうとしている。

 そう思うと感慨深いですなぁ」

「ミュラー卿、もう酔っているのか」


 その日も朝から王城の端っこ、追いやられたような部屋の騎士会に参加していると



「おおっ!」

「えっ!?」

「これはこれは!」



 急に入口付近が騒がしくなった。


 いや、パーティーだけあって最初から騒がしいが、トーンが違う。

 ワイワイからザワザワ、みたいな。


「なんだなんだ?」


 ケンカだったら止めんとな。

 人混みをかき分けていくと、


「なっ」



 テーブルと酒と食事しかない、

 調度品などひとつもない無骨な会場に、



「ミュラーさまはいらっしゃいますか?」



 赤と黒のカクテルドレスに身を包んだ、




 フレデリカ殿下がいらっしゃる。

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