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どんな美食も空気が悪いと味がしない

 やられた。


 フリードリヒ殿下の敵とも味方ともいえない態度で乗り切るつもりが。



 国王陛下から第五王子殿下まで。


 もちろんハインリヒ殿下もいらっしゃる。



 方々の面前で、



『フューガ・ミュラーは私の招待に応じてやってきた』

『もはや我が組下も同義である』



 というお披露目をかまされてしまった。


「殿下」

「うん?」

「プライベートな晩餐会、と伺っていたのですが」

「あぁ、もちろん。



 君たち以外は我が血族のみの、プライベートな食事だ」



 やってくれたな!

 (した)かな方が次期国王には頼もしいとは思ったが!


 さすがに嵌め技がすぎるぞ!



 アネッサは


『怪しい男女のサシ飲みは回避された』


 と、ホッとした顔をしているが。



「こここ、このような場に私のような者をお招きくださりり!」


 モミアゲは身分に対して破格の扱いに感動しているが。



 そんな生優しい状況じゃないぞ!



 ハインリヒ殿下の、なんとも言えん視線が突き刺さる。

 苦虫を噛み潰して歪む口角を、無理矢理吊り上げて笑顔に見せ掛ける感じだ。


「ささ、3人とも。君たちの席はここだ」

「は、はぁ」

「遠慮せず座ってくれ。今日の君たちはゲストなのだから」


 それはそうなのだが。


 広いのは広いが、ホールに比べれば狭い

 というか、長方形のダイニング。

 同じく細長いテーブル。


 一等の席は当然国王陛下として。


 陛下から見て左側に、フリードリヒ殿下以外の王族が並んでおられる。

 上座から王妃殿下、以下第二〜第五王子、末席に40歳前後か? の女性。


 つまり、バランス的に座るのはその対面。

 で、向かいの列に入っていない殿下もこちら。

 上座にサッと腰を下ろしている。



 ますます絵面が『フリードリヒ傘下』になってしまうぞ!



「フューちゃ」

「しっ」


 とりあえず椅子へ近付こうとしたアネッサを、手をそっとつかんで止める。


 そのあいだにモミアゲが殿下の隣へ。

 着席した顔は光栄に打ち震え、満足そうだが


 ゆえに対面の、ハインリヒ殿下が目を剥く表情に気付かない。


 ハインリヒ殿下からすれば裏切られた気分だろうな。

 ほぼ住んでない、関わってない、助けもしない、の分際だが。

 それでも


『同じ西方の仲間意識』


 はあると見込んでいただろうしな。



 変な話、王国内で内戦が発生したとしよう。


 その場合、ハインリヒ殿下の拠点はやはり西方になる。

 すると配下として組み込む戦力も、自然と西方方面軍だ。


 それを目の前で切り取られたら、たまったもんじゃない。



 私たちからは後頭部しか見えていないが。

 逆にフリードリヒ殿下の得意げな顔が目に浮かぶ。


 この距離で人の瞳孔はよく見えん。


 が、兄弟の不仲に複雑そうな王妃殿下。

 またの剣呑な空気に、臨戦態勢で椅子への座りを浅くするマルグリット殿下。


 お二人の水晶体に映っているかのようだ。



 だからこそ、まずはモミアゲに座ってもらう。

 単純に階級の序列で、マナーとしてというのもあるが。


 ここで精一杯眉毛を八の字にした顔をハインリヒ殿下に向ける。

 もう不機嫌を隠せなくなった顔と目が合う。


 私が小さく頷くと、向こうも頬杖のまま頷き返した。

 アネッサがよく分かっていない顔で私を見る。

 今のは


『上長のツィマー卿が座ってしまったので、我々も仕方なくその下座に着きます』

『決してフリードリヒ派として進んで列に並ぶものではありません』


 というサインだ。

 一字一句正確に通じたかは知らんが、意図が大外れはしないだろう。


 別にハインリヒ派でもなければ、義理立てしたいとも思わんが。

 何度も言うように、勢力図や時局を知らん状況で旗印を決めない方が、


『決めたと思われるようなこと』は避けた方がいい。



 だがそうなると、もうひと押し欲しい。

 具体的には、フリードリヒ殿下に直接


『どうした? 早く座りたまえ』


 とか念押しされて、


『皆さまをお待たせするのも()()ですし……』


 って流れだ。



 だから()かされるために、何かちょっとした時間稼ぎを


 そうだ。


 なんとなくハインリヒ殿下から視線を外した先に、

 第四、第五王子両殿下と、知らん女性がいらっしゃる。陛下のご姉妹だろうか。


 とにかく昨日のあいさつの場には、なぜかいらっしゃらなかったお三方だ。

 ちょうどいい。


「両殿下、お初お目に掛かります。そちらのご婦人も。

 フューガ・ミュラーと申します。こちらは副官のトゥルネー」

「あ、アネッサ・トゥルネーですっ」


 アネッサも私に合わせて、慌てて頭を下げる。

 するとあいさつに応えて、両殿下とご婦人も椅子からお立ちになる。


 まず二十歳になったくらいだろう女性、


「初めましてミュラーさま、トゥルネーさま。


 フレデリカ・ジゼル・ソフィー・アデライド・シュヴィーツと申します」


 第四王子殿下がカーテシーをする。

 すると今度は、成人もまだと見える青年が頭を下げる。


「ドミニク・シャルル・ベルナール・ルネ・シュヴィーツです」


 最後に、陛下の姉だか妹だかがカーテシー。


「私のような者にまで、ご丁寧にありがとうございます。


 セレスティーヌ・シャンタル・オレリー・ド・ブロイでございます」


「ん?」

「どうかなされましたか?」

「いえ」


 ド・ブロイ。


 シュヴィーツではない?

 陛下のご姉妹では、


 あぁ、そうか。

 普通にどこぞの貴族に降嫁(こうか)なさって



「私とドミニクの母です」



「えっ」


 フレデリカ殿下が笑顔でおっしゃった瞬間、



 明らかに場の空気が凍った。



 正確には、陛下と何も知らないアネッサ以外の全員、肩にギクリと力が入った。

 レディ・ド・ブロイ本人や、その子と言われたドミニク殿下も。


 なんなら言い出したフレデリカ殿下ご自身すら、笑顔が強張(こわば)っている。

 こうなることを見越して、少しでも明るく取り繕った笑みだ。



 それより、両殿下の『母』と?



 いや、殿下の母は王妃殿下だろう。

 待てよ?

 そういうことか?


 私が黙り込んでしまったから、余計気マズい空気が助長される。


 放置するよりは、賭けでも結論を出して進める方がいいと思ったんだろう。

 モミアゲが私に聞こえるギリギリ、可能なかぎり小さい声を出す。



「国王陛下の、ご愛妾(あいしょう)であらせられる」



 瞬間、


 ギギッ


 と、王妃殿下の椅子が床を擦る。



 あーあーあーあー。


 最悪だよこの晩餐会。

 まだ料理出てすらいないけど。

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