似たような話ばかり
初日は散々だった。
ひたすら他所のご家庭の仲の悪さを見せつけられる1日だった。
いくら国王陛下と王妃殿下が不仲とはいえ。
ご本人不在ならケンカにはならない。
その場にいらした第三皇子にして長女、
マルグリット殿下とは親子なりに良好そうで、未だ和やかだった。
しかし王妃殿下ということは。
国王の妻であり、その子たちの母なのだ。
そう。
フリードリヒ、ハインリヒ両殿下もあいさつにいらっしゃる。
でもって鉢合わせ、ここでもバチバチ。
まさかのマルグリット殿下も参戦。
二人が嫌いというよりは、すぐケンカするのが気に入らないらしい。
これだけでも空気は最悪なのに、
「慎みなさい、あなたたち!
お客さまの前で失礼でしょう!」
王妃殿下まで激怒。
いや、アンタのリアクションが一番気マズいんだ。
あらあらウフフで流すくらいにしてほしかった。
「よくもこんなところに連れてきてくれたなモミアゲ」
「私は悪くない」
他の客人たちがソロソロと部屋を抜け出していく。
「私たちも続こう」
「そうだね」
失礼丸出しではあるが、こればっかりはな。
てことで脱走しようとすると、
「王妃殿下、よろしければ我々もこれにて」
「まだミュラー卿とちゃんと話せていないわ。あとの予定が詰まっていないなら、お待ちいただきたいわ」
「私ですか!?」
「君を連れてきたのは、ご指名があったからなんだよ」
思わぬ事態だ。
これじゃ最悪モミアゲは逃げられても、私だけアウトじゃないか!
「おいモミアゲ。私はオマエを見捨てなかったぞ。分かるな?」
「じゃあせめて名前で呼んでほしいかな……」
というわけで、その後は長いこと王妃殿下のところにいた。
もちろんお話ったって、私が自由に話せるわけじゃない。
また男の殿下たちが縄張り争いするわ
そのせいで周囲がイライラするわ
単純に時間が伸びるわ
散々だった。
同じ腹の探り合いでも、戦場の方がよっぽど楽だ。
「それは災難だったねぇ」
ということを、ひととおりアネッサに愚痴った。
彼女はベッドに腰掛け、ホットミルクを飲んでいる。
私のベッドだぞ。
まぁそれはいいか。
部屋に呼び付けて愚痴ってるんだし。
妹属性魔法が判明するまえのことを思い出す。
言葉にして吐き出すと幾分疲れも取れる。
夜の狭くて静かな宿舎もホッとするな。
椅子は素朴な木組みだが、立食のあとは脚が休まる。
「それにしてもモテるね」
「その言い方は語弊があるが」
便宜上そういうことにしたとしよう。
「よろしくないな」
「そうなの? いいことじゃないの? 偉くなるチャンスだよ? お金持ちだよ?」
アネッサに『出世して〜戦場離れて〜』の話はしていない。
そんな彼女でも思うくらいの機会なんだろう。
それはそうだが、
「にしたって、王妃殿下まで私を求めてどうするんだ。さすがに武力いらないだろ」
「確かに」
「なんの興味があって、何に使うってんだ。
万が一クーデターなんかに巻き込まれたら、堪ったもんじゃないぞ」
フリードリヒ、ハインリヒ両殿下なら牽制合戦で済む面もあるだろう。
だが王妃殿下の仮想敵を国王陛下とした場合。
『派閥のデカさを誇示する』なんてのは意味がない。
となれば、実力行使になりかねん。
大丈夫か? この国家。
実は先行きヤバいんじゃないか?
周囲を列強に囲まれているのに、内乱で滅んだりしないか?
思わず顔が天井を向く。
「エラいところに来てしまったな」
「でもご飯おいしいよー?」
「そうだね」
お気楽な。
うらやましいよ。アネッサになりたいくらいだ。
でもまぁ、悩んでもしょうがないわな。
明日世界が終わるとしても、リンゴの木を植えるべきだ。
「んん〜!」
なんて、伸びをしていると、
「やぁ、フロイライン」
「ノックをしろ。オマエの脳をノックするぞ」
「私たちのあいだに挟まらないで変態」
「はい敬意」
モミアゲがドアを開けて入ってきた。
アネッサを招いたときに鍵を閉め忘れたこっちもアレだが。
でも開いてる前提でノックしないコイツの方がヤバい。
「で、なんの用だ」
「いや、『明日も行くところがあるから、そのつもりでいてね』って」
「まだあるのか」
タダメシタダ酒こそうれしいが、さすがにウンザリしてくるな。
まだ初日だけど。
だがまだ軍務大臣とか、本来初日にあいさつしとかなきゃならん相手がいるし。
遠い南方のゼッケンドルフの爺さんとか、今日はまだ到着していない方もいる。
しばらくはあいさつ周りが続くんだろうな。
「で、今度はどこの誰だ?」
パッと予想できるのでいえば。
あと第四、第五王子殿下がいらっしゃったはずだ。
まだお会いしていない。
「それなんだけどね。フリードリヒ殿下から」
「またか」
「プライベートな晩餐会に招きたい、と」
「なるほど」
昼に話した分では不足だったらしい。
邪魔も多かったしな。
「プライベートってなに!? フューちゃんと二人っきりで飲み食いしようって!?」
「落ち着けアネッサ」
「みょ〜に薄暗い狭い部屋で! お酒たっぷり飲んで!
いい感じになったら、急に殿下の後ろのカーテンが開いて!
そこにダブルベッドが用意してあるんだ!」
「なんだその細かい設定」
「トゥルネーくんも呼ばれているよ」
「フューちゃんは私が守る!!」
むしろ私がうまいこと制御しないと、いよいよ無礼討ちになりそうだ。
まぁ最悪アネッサは退場させても問題ないだろう。
私は口下手だが、戦場の英雄譚なら一人でも話せる。
何より、殿下が軍事マニアで聞きたいだけならいい。
先ほど考えていたような派閥争いの一環。
自分サイドに取り込むためのもてなしだったら。
私は西方方面軍所属。
祝賀が終われば、ゼネヴォン公ハインリヒ殿下の膝下へ帰る身だ。
ゼネヴォンは失陥しているし、そもそもベルノにいてばかりとはいえ。
あまり『フリードリヒ派』表明の言質にされそうな発言はしない方がいい。
勢いで迂闊な発言をしかねんアネッサは、やはりいない方が丸いかもしれん。
とにかく明日の晩餐も、殿下には悪いが当たり障りのない会話で済ませよう
などと思っていたら、
「ツィマー卿! ミュラー卿! トゥルネーくん! よくぞ来てくれた!」
「は、はぁ」
「父上! 今夜の晩餐はぜひ、救国の英雄譚を祝賀の花と添えましょう!」
「うむ」
翌日の夜。
のこのこ会場へ出向くと、
国王陛下ファミリーが着席していた。
やられた。




