あっちもこっちも
「そうか。君の戦術の鍵は、『士気の高さ』『情報の正確さ』『行動の迅速さ』にあるのだな」
「まぁそんなところです」
フリードリヒ殿下には申し訳ないが、妹属性魔法のことは黙っておいた。
私以外に使い手を聞かんのだ。参考にならないだろう。
そもそも殿下も
『北方方面軍と関係がある』
ったって、自身が前線に出て戦うわけじゃあるまい。
せいぜいお偉いさんと会食して、情勢を聞く程度だろう。
微に入り細を穿った説明をしても、逆に引かれるだけだ。
何より、
さっきハインリヒ殿下が絡んできたのは、明らかに対抗意識だ。
フリードリヒ殿下が人を囲い込もうとしたから横取りに出た。
そうやって相手の力を削り、足元を揺るがそうとしている。
それを逆の立場であるフリードリヒ殿下が考えない、ということが
もっというと、やられっぱなしでいることがあるだろうか。
むしろこの状況、失うものが多いのは彼の方だ。
フリードリヒ殿下は長兄であるからして、皇太子、次期国王の座を約束されている。
ハインリヒ殿下にそれはない。
とだけ聞けばフリードリヒ殿下が有利、焦ることはなく思えるが。
逆に蹴落とされるのはフリードリヒ殿下のみで、
ハインリヒ殿下は失敗しようが失うものはなく、攻撃を続けるだけ。
どちらがより不愉快で、プレッシャーを感じるか。
馬競べも追うより追われる方がキツいと聞く。
だったらどうするか。
私なら、自分から積極的徹底的にハインリヒ殿下を叩き潰す。
「アネッサ。どうりでモテたわけだよ」
殿下は今、どこぞの貴族にあいさつされて対応している。
その隙にアネッサに話し掛けてみる。
「何が?」
「……」
コイツ、さっきまでナンパがどうとか騒いでたくせに。
今はもう皿にパスタを山盛りしている。
「そうだろうそうだろう。フロイラインは素晴らしい女性だからね。私の見る目に狂いはない」
「うるさい殺すぞ」
もちろんモミアゲの言う意味じゃない。
私は西方方面軍だからな。
ハインリヒ殿下の領地であるゼネヴォンにも縁深い。
先制パンチで情報を得ようとしていたのは、フリードリヒ殿下の方。
そのため私にメロい雰囲気を出していたわけだ。
やるじゃないか。
せいぜい同じ20代の、温室育ちの坊っちゃんと思っていたが。
皇帝になるなら、それくらい強かでいてもらわんとな。
誰かがあいさつしていると、まだ済んでいない人が並ぶものだ。
しかも対象は次期国王。
ともなれば、いい顔しようってヤツは山ほどいる。
現国王に気に入られないとかで、出世を次代に賭けたいヤツなんか特に。
ってことで、一旦離れた殿下が戻ってこられない。
私としては急ぎでもないし。
『あわよくばコネで中央』
って気持ちも、政治闘争の尻尾を見て落ち着いている。
メシと酒にも困らんし、音楽にも慣れた。
いくらでも待たせてくれてかまわんのだが、
「どうしたモミアゲ」
隣で何やらソワソワしとるヤツがいる。
「一応上司だから敬意持ってね」
「で、どうしたんだ。飲みすぎたか」
「いや、ね?」
モミアゲは殿下を見る。
オマエも殿下とコネを持ちたいのか?
ハインリヒ殿下にイジメられたから庇護先がほしい、とかか。
と思ったが、視線を移す。
殿下が入ってきた、裏口みたいなドア。
それから私たちが入ってきた、大きな両開きの扉。
どうやらむしろ、
「誰か会う予定の方がいらっしゃるのか」
「そういうことさ。こちらにいらっしゃるか、こちらからお伺いするか」
なるほどな。
あんまり遅くなると失礼だものな。
「行ってくればいいんじゃないのか」
「いや、君も伴う旨を話してある」
「ふむ」
仕方ない。
「アネッサ」
「も?」
「私たちは移動する。オマエ、殿下が戻ってこられたら、よろしく言っといてくれ」
「もーっ!?」
口中に食いモン突っ込んでて発言は不明瞭だが。
不服なのは分かる。
「一人で不安なのは分かるがな。普通にしてりゃ、取って食われたりはせんさ。
ベッドにホイホイ着いてかんかぎりはな」
「ももーっ!!」
「じゃあな」
抗議するアネッサだが、廊下へ出ても追い掛けてはこなかった。
たぶんまだ皿の上に肉が残っているからだ。
『食えるときに食え』を実践して偉いぞー。
「で、誰に会いに行くんだ? 逢引き相手か?」
「そんなところに君を連れていってどうするんだ」
「ごもっとも」
むしろ私がキレるわ。
「それより陛下へごあいさつして、何かおかしいとは思わなかったかな」
廊下を右手、さらに城の奥の方へ。
カツカツと軍靴が床を叩く音に乗せ、しばらく考えてみるが、
「なんかやたらとミスをゴン詰めされたことか?」
「違う、そうじゃない」
「分からん」
「そうか。まぁ、君が普段あいさつに出向くのなんて、方面派遣軍の上司だろうしね」
「田舎モンで悪かったな」
「そういう意味じゃない」
そもそも武功を立てたり、あくまでモミアゲのお付きとはいえ。
私がこんな場に呼ばれているのが一番の珍事だ。
「じゃあなんだ」
いい加減もったいぶるモミアゲを殴ってやろうか。
そう思ったタイミングで、
「うふふ」
「あはは」
「やぁだ、奥さまったら」
廊下の先から声がする。
と同時に、両開きの大層な扉が開いているのにも気付く。
さっきのパーティー会場とまんま同じような。
「我々地方の騎士は、中央の式典に参加することもないからね。あまり知らないだろうけど。
今日みたいな催しのときは、必ず陛下の隣にいらっしゃるはずなんだよ」
モミアゲは意味ありげにうなずくと、
扉をくぐって大声をあげる。
「王妃殿下! 西方方面軍司令クレマン・ツィマー、参上いたしました!」
おい。急に立ち止まって頭下げるな。
ぶつかりかけたぞ。
慌てて私も頭を下げると、脳天に声が掛かる。
「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました、ツィマー卿」
「もったいないお言葉です」
「して、そちらの方が」
「はっ! 騎士フューガ・ミュラーであります」
「そう。淑女に申し上げることではないかもしれないけれど。
なるほど武勇の評判も頷ける、立派な体格であられるのね」
そうだ。
この人を忘れていた。
王妃エレオノーラさま。
王妃というからには当然、国王の妻であり
モミアゲが言うように
あんな祝賀で貴族高官たちがあいさつに来る場では、
彼女が王の側にいなければならないのだ。
それがいらっしゃらないというのは、
『国家の儀礼を、王家が率先して破っている』
ということに他ならない。
何より、
「おいモミアゲ」
「せめて名前で呼び捨ててくれないかな?」
王妃殿下に聞こえぬよう、小声で探ってみる。
「もしかして、
不仲でいらっしゃるのか?」
何より、こういう誤解を受けかねな
「まぁ、よくある話なのだけどね」
誤解じゃないらしい。




