狙うはイケメン
割り込んできたのは若い男の声。
適度に高いというか、爽やかさがあってよく通る。
劇にでも出てほしいような人を惹き付ける音色だ。
だからってわけじゃないとは思うが。
思わず全員が声の方を見る。
私たちや王だけじゃなくて、きっと会場の全員が。
その方向は左側。
私たちが入ってきた扉とは違い、広間の奥の角。
たとえば舞台袖みたいに、限られた人間のみが入退室に使うドアがある。
そこから現れたんだろう、多くの供回りを引き連れた男は
「フリードリヒか」
「ただいま北辺の視察より帰還いたしました」
皇帝陛下の嫡男にしてデュートリッヒ公
皇太子フリードリヒ・(中略)・シュヴィーツ殿下だ。
「フューちゃん見ちゃダメ」
アネッサが私の目元に手のひらをかざす。
「なんでだ」
「イケメンだから」
「意味が分からん」
確かに世間じゃ『光り輝く』的ニュアンスで
『太陽の顔』
とか言われとるご尊顔らしいが。
「彼らは国を、私たちを、国民を守って戦っているのです。自らの命を顧みずに。
彼らの命は私たちの命。
であれば、なんであれ無事に帰ってきたことを喜ぶべきです」
「ふむ」
あの威圧感相手に、物怖じせず堂々と語る。
親子ということはあるだろうが、
「オマエの言うとおりだ。余が狭量であった。
ツィマー卿、ミュラー卿。許せ」
「ははっ! 許すも許さないもございません!」
「畏れ多いです」
「私からも、すまなかった、3人とも。
だが父上も本気で言っていたのではない。
タチの悪いジョークがお好きなのだ。許してくれたまえ」
あの空気を一発で霧散させてしまった。
確かにジョークではあったんだろう。
そもそも皇帝が本気で怒っていたら、私たちはこの場に参加できない。
どころかロージーヌに弾劾の使者がやってくる。
茶番のやめどきを提示しただけなんだろう。
「何より、皇帝は常に頭を働かせ、
物事を吟味し、練り、
国民のためによりよいものを生み出す必要がある。
些細なことにも、とにかく議論に目がないのだよ。
それが統治者の資質でもある」
双方へのフォロー。
外見よりよっぽど、内面が『太陽』の方らしい。
「優しいこと言われたからってホレちゃダメだよ」
「しつこいぞアネッサ」
何をそんなに警戒しとるんだ。
言われなくとも私は身分差の恋とか興味ないぞ。
爽やかで優しい笑みも、私に言わせれば
『線が細くて弱そう』
が先に来る。
同じジャンルのナルデーニもつい最近ボコってやったしな。
そもそも向こうが『女熊』に興味ないだろう。
というわけで、本来は
『すれ違いでもすれば縁があった方』
と言えるくらい、何もかも別方向の二人なのだが。
「改めて西方派遣軍の任、ご苦労であった。
この宴席はそなたらの1年の労苦を労い、来年の英気を養ってもらうものである。
おおいに楽しみ、羽を伸ばすがよい」
「ははーっ!
ではフロイラインたち。後ろも支えているだろうし、退がらせていただこうか」
「はい」
最後にもう一度頭を下げて、立ち上がったそのとき
「あぁ、少し」
「なんでしょう、殿下」
「茶髪のあなたの方が、ミュラー卿で間違いないかな?」
「はっ。フューガ・ミュラーであります」
フリードリヒ殿下に呼び止められる。
「あなたの南方、西方での活躍は私も聞き及んでいる」
「もったいないことです」
「だからね。
一度君の武勇伝を、しっかり聞いてみたいと思っていたんだ」
「ま!」
なんで私じゃなくてアネッサが声を上げるんだ。
「ナンパですか!? ご遠慮くださ」
「まぁまぁまぁまぁ」
私の前に立ちはだかって、勝手に断ろうとするアネッサを押しのける。
「ちょっとフューちゃ」
「もちろん。いくらでも」
「本当かい? うれしいね」
「ダメーっ!」
すまんなアネッサ。
だがこれは、私にとっても千載一遇のチャンスなんだ。
「しかし、殿下もただいまいらっしゃったばかり。あいさつの儀がございましょう。
そちらが終わりましたらば、フューガ・ミュラー、お相手つかまつります」
「楽しみにしていよう」
何せ
『中央に脱出して、戦争も魔法も縁のない世界で生きる』
この目標を達成する一番手っ取り早い方法こそ、
『偉い人と仲良くなって、コネで引き抜いてもらう』
だからな。
そのためにも、好む好まざるに関わらず殿下とはお近付きになりたいし、
今のお誘いは、非常に都合のいい話であるのだよ。
このチャンス、絶対無駄にはしない。
逃さんぞ殿下。
なんて言ってると玉の輿狙いみたいだな。
「あ〜ん! フューちゃんが寝取られるぅ〜〜!!」
「寝てから言え」
それからしばらくは、食事をしつつ殿下を待った。
ビュッフェスタイルの立食だったので食べるものは選べる。
匂いの強いものは避けておいた。
酒も息に影響が出るから泣く泣く断念だ。
もちろんコネは多いに越したことはない。
待ち時間のあいだも、周りにいる
貴族
大臣始め文武百官
マダム
王室御用達の豪商人
いろいろ話し掛けようとはしたのだが。
所詮私は一般公募から叩き上げの騎士。
どこまでいっても現状下々でしかないどころか、
血生臭いところで血生臭いことをして名を挙げた、エンガチョの塊だ。
しかも騎士のフォーマルな格好として、鎧で会場に乗り込んでいる。
実際に戦場で使ってるヤツだ。
返り血は落としても歴戦の傷が泥臭い。
関わったら品格が下がるとでも思われてるんだろう。
近寄るどころか、体の正面を向けただけで皆そそくさと逃げていく。
これではスタートラインにも立てん。
くそっ、ドレスコードは教えておけよモミアゲ!
ちゃっかり自分だけ礼服着やがって!
ちなみに物好きな宮廷画家は相手をしてくれたが、
「やはり、戦場の炎は色が違うのでしょうね」
「は?」
「兵士たちを飲み込んで燃える炎です。そこには文字どおり命を燃やして生きる人間の、まだまだ生きるべきだった命が一瞬で燃え尽きる輝きが反映されるはずなのです! 『祖国を守る』という熱く青い情熱と、『生きて家族のもとへ帰りたい』という心臓の色をした内面が! それは消える直前の蝋燭のような淡く弱く震える命の灯であり、死してなお、いや、死せるからこそ焚き火のように燃え上がる」
「」
物好きすぎて着いていけない。
誰か助けてくれ。




