軽いあいさつのはずが
モミアゲに腕を引かれ、広間の上座へ。
正直勘弁してほしいが、あいさつは大事だ。
中央でやっていくのであれば、国王陛下の覚えは大事
どころかポカれば即不敬罪死刑があり得る。
なんかこのイベント、来るだけ損な気がしてきた。
国王陛下がおわすのは壁際。
一ヶ所だけ数段高くなっているところ。
なんか伝承絵巻の
『聖剣が刺さっている台座』
みたいだ。
陛下はというと、玉座に腰掛け左右の者とご歓談。
我々下々から伺うのが当然で、存在など歯牙にも掛けない。
って顔して横目で私たちが来るのを待っている。
立派な眉毛の下で目が光っている。
てか顔の下半分も髭で覆われてて、毛の面積が多い。
肌は白いから顔面オセロ状態だ。
「フューちゃん、陛下ってお名前なんだっけ」
「陛下って呼んどきゃいいだろ」
アネッサの表情が固い。
間違えたら不敬罪だしな。
「大丈夫さフロイライン。あいさつは全て私が行なうから」
「だそうだぞ」
言われてみりゃ、私も
ルートヴィヒ・(中略)・シュヴィーツ
くらいしか知らない。
長ったらしいし、そもそも
『畏れ多い』
とかで、名前をお呼びしない文化がある。
シュヴィーツ『何世』かなんて、国民のほとんどが答えられないだろう。
こういう
『知らないことが多い』
『存在からして隔絶された』
相手というのは、プレッシャーがある。
「陛下。ご機嫌麗しゅう。
西方方面軍総司令、クレマン・ツィマー。陛下の御祝事に馳せ参じました」
「うむ」
モミアゲが胸に手を当て、片膝を突き頭を垂れる。
私たちも1歩後ろで同じように控える。
しかしコイツ、高官だし当たりまえだが。
こういう作法もできるんだな。
嫌なヤツかウザキモいヤツかの側面しか知らんから、驚かされる。
あるいは、そんなヤツでも折り目正しく折られるほど
威厳というか威圧感というか。
腕相撲したら絶対私の方が強いのに、自然と気後れしてしまう。
逆に前回の辞令のときはよく平気だったな。
たぶん
『武功を立てたんだから100パーセント褒められる』
って気軽さがあったからだ。
気軽になって初めて平静な心持ちで対面できるというか。
そもそも気軽でいたのが異常というか。
「今年もまた西方の任務、ご苦労であった」
「もったいないお言葉です」
「貴公の活躍ぶりは、このベルノにあっても聞き及んでおる」
「ははっ!」
でも、深みある気配から発せられる労いの言葉。
これには確かに、自身を誇らしく思える手触りが
「なんでも戦場を知らぬ尼公の小娘に敗退し、
我が国に欠かさざるべきゼネヴォンを失陥し、
支城を失い、
会戦にて我が兵の多くを浪費し、
挙げ句は捕虜になったとか」
「ヒュッ」
おい。なんか雲行き怪しくなってきたぞ。
モミアゲの喉から死にそうな音がした。
まさか社交界の真ん中で晒し者になるとは。
いや、下手すりゃめでたい席の余興に血祭り
「ミュラー卿」
「はっ!?」
私!?
え、ウソだろ、私も吊るされるのか?
「そなたの活躍も聞き及んでいる」
「ははははい、非才ながら陛下の御ため、力の限りを」
「そこのトゥルネーなる副将とともに敵地へ潜入。
さらにはゼネヴォンを奪還し、
敵将マリアンヌの侵攻すら抑え込んだとか。
まさに八面六臂の働きぶりである」
「は、ははっ!」
「そなたを西方へ送ると決めたこと、我が見立てどおり、期待以上である。
軍務大臣と2人、『鼻が高い』と笑ったものよ」
お、大丈夫そうだぞ?
そりゃそうだ。
私負けてないし。がんばったし。
モミアゲはともかく、私が怒られる筋合いな
「しかし、そなた1人の判断で、勝手に王の土地たるゼネヴォンを人質交換に出したこと。
疑問が残る」
ゲェーッ! 急に心狭くなるじゃん!!
ていうかコレ、モミアゲの評価が低いせいだろ!
エビでタイを釣ってたなら、ご機嫌でスルーされたはずだ!
金塊とドングリ交換したから、こんなふうに言われるんだ!
なんだアネッサその目は。
だから言ったのに、ってか?
うるさい。
我が国の台所事情では、ドングリは立派な食料だ。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
このままだと私もすり潰されて、ドングリクッキーに入れられてしまう。
「お言葉ですが陛下。ときに現場の判断は遠くの上意より優先されます。
敵が夜襲してきたとき、まず対応をお伺いする手紙を書くのでしょうか」
「ふむ」
陛下が玉座の肘掛けで頬杖を突く。
「しかし、それは余の名の下に許した職掌であるからだ。
この場合、余はゼネヴォンの奪還こそ求めたが、裁量権まで委任したのかね?」
「ははっ」
口答えしたから1発アウト、って雰囲気ではない。
そこは度量があって助かるが、議論モードになってしまった。
私に頭使うことを挑まんでくれ。
「裁量を超えた『必要性』があったものと存じます。
味方が重傷を負ったとき、
『医者ではないので止血すら施す権限がない』
では、助かる命も助かりません。
かの場合も、ツィマー卿は敵の虜囚。
手をこまねいていては、命の保証がありませんでした」
「フロイライン……!」
うむ、我ながら筋の通った反論
と思いたいが、無理筋だよなぁ。
だって、
「つまりそなたは、ツィマー卿の一命にはそれだけの『必要性』があったと」
「……」
「フロイライン!?」
だってオマエ負けまくったじゃん。
いや、私はあると思うよ?
でも陛下の中では『ない』で結論出てるんだよ。
こればっかりはどうしようもない。
妹魔法でおねだりすればワンチャンあるかもな。
でも国王の面前で迂闊に魔力を練ろうものなら、
『暗殺未遂』
で即射殺だ。
どうしたもんかなぁ。
そんなすがるような目をされてもな。
ここは素直に死んでもろて。
一応アネッサの方も見て、彼女も首を左右へ振った
そのとき、
「父上、イジワルはそのくらいしておくのがよろしいかと」




