デビューって8割苦い思い出になる
白十字王国首都ベルノ。
最後に来たのは1、2ヶ月まえか。
南方から西方への辞令を受け取ったときだ。
ってことで、そんなに期間が空いているわけでもないんだが。
「すごぉい!」
馬車の隣の席でアネッサがはしゃいでいる。
朝から重く濁った雲は、昼なお薄暗い。
しかしそれを感じさせないほど街は華やぎ、
しんしんと降り積もる、白い雪に包まれている。
もう救世主の生誕祭は過ぎたが、今度は年末年始。
人類総出の祝賀ムードに、街も浮ついている。
「前回は長く滞在しなかったってのもあるが。ここまで違うと別物だなぁ」
冬のベルノは騎士学校卒業以来か。
随分と懐かしく感じる。
で、年末年始のパーティー参加は初めてだ。
まずは城近くの宿舎へ入る。
荷物をあれこれ持ったまま、陛下に拝謁できんからな。
所詮は城内に直接泊まれん身分の者の宿舎だ。
前回来たときは、せいぜい田舎のボロ宿よりは小綺麗で広い程度だったが。
「すごーい! 今回はホテルかな?」
アネッサの喜びどおり。
ロビーから室内まで、割と丁寧に飾り付けられている。
準備万端、というよりは、生誕祭からずっと来ている感じだな。
ま、そこは別にどうでもいいさ。
ここは基本寝起きするだけになるからな。
問題は
「さてフロイラインたち♡ そろそろ陛下へ拝謁しようじゃないか」
「ノックをしろ」
国王や政府高官が集まる連日連夜の宴。
ここでいくらコネを得られるかで、
私の出世計画の成否が変わる。
さすがに巨大なベルノ城全体を飾ることはできない。
せめて無骨な姿に雪が化粧をしてくれるくらいだ。
その鬱憤を注ぎ込んだかのような、
柊の葉や赤い実
壁や頭上に張り巡らされた金糸銀糸
野晒し雪晒しにしていいのか疑問な彫像
とにかく飾り付けられた、城門から宮殿までの道。
私みたいなのには無秩序にすら見える空間を進んで。
「だんだん暖かくなってきたね」
「暖房が効いている部屋が近いってことだな」
目的地が近付くにつれて、廊下や室内の飾り方も落ち着いてくる。
たぶん外の飾り付けは寒いから、下っ端が押し付けられたんだろうな。
好き勝手やったんだろう。
ただ、ものが少ないのに反比例して、音楽がうるさい。
「あ、フロイラインたち。今日はそっちじゃない」
「その気持ち悪い呼び方をやめていただきたい」
前回辞令を受けた謁見の間とは別の方へ進む。
どうやら国王陛下は祝祭の期間中、会場に籠りきりになるようだ。
それはそれで体力キツそうだな。
連日酒飲むのもそうだし、
『ワハハハハハ!』
『キャッキャッ!』
『イヒーッ!』
『アアーッ!』
廊下の先から聞こえてくる、高貴な人々とは思えん歓声。
音楽と合わせて耳がイカれそうだ。
戦場だって負けないくらい騒がしいのに、不思議な……
そりゃそうか。
平和な宴会が戦場よりウルサイのは異常だわな。
「大丈夫フューちゃん?」
「帰りたくなってきた」
「気にしないでフロイライン。こういった催しは初めてかもしれないが、私が」
「あー頭痛がひどくなってきたなー!」
やっぱりモミアゲはアンヌ=マリーに預けておいた方がよかったかもしれん。
聖女ならなんとかするだろ。
こんな調子で陛下に拝謁して大丈夫なもんかね。
もはや何と戦えばいいのか、そもそも戦いだったんだかどうだか。
混乱した頭のまま、会場入りすると、
「おお」
教会みたいに細長い儀礼の広間とは違う、
まさにホールって感じの広い空間。
廊下が落ち着いていたのは、品がよかったからではないらしい。
ここにアレコレ詰め込みすぎたせいで、単純に置くものがなかったようだ。
城門にあったものが、とにかく量割り増しで配置されている。
その隙間を縫うように人人人人!
オマエらで部隊が組めるな。一緒に西方へ行かないか?
いや、たぶん使いものにならんな。
今演奏している音楽隊くらいか。
ってのはまぁどうでもいい。
私の目を引いて離さないのは、
「酒だ! メシだ!」
豪勢なものはロージーヌでも振る舞われた。
つい先日で記憶に新しい。
だが、さすが王城だ。規模が違う。
「見ろアネッサ。あの皿、腸詰めがバカみたいに山盛りだぞ! 100本くらいあるか?
故郷に持って帰る、戦死者の指を集めたヤツみたいだ!」
「ちょっとフューちゃん!」
「あのデカいチーズのブロックは城壁に積めるんじゃないか?」
よく見るメニューでも、演出だけで変わるもんだな。
そりゃ矢は多い方がいいし、ガタイは大きい方が強いもんな。
「声が大きいよ」
「そうか? 普通にしゃべっているぞ」
「軍人は万事半分くらいに抑えて一般だよフロイライン」
「なんと」
ヤバいな。
それだと今の私は、戦場からのおのぼり丸出しじゃないか。
恥晒し、下賤の者、野蛮人だ。
少し黙ってみると、さっきまで馬鹿騒ぎしていた連中もヒソヒソ声になっている。
それが聞こえてるってことは、ヒソヒソの指向性はこっちに向いている。
いや、そもそも気まずい感じの視線が四方八方、会場全体から突き刺さってくる。
矢だったらハリネズミだ。
……不思議とそんなにダメージがないな?
妹属性魔法は私のメンタルを強くした。
いや違う。単純に麻痺してアカン感じになっているだけだ。
軍人といえど、違う意味で『無敵の人』になってはいけない。
というか、普通にやらかしたのでは?
長年
『前線で魔法が使えない』
により
『ウルセー他人の評価など知るか』
みたいに生きてきた私だが。
中央への移籍、出世を考えたら、武力や成果より印象が大事では?
社交界っていうくらいだし。
「……すみっこでおとなしくメシ食っとくか」
「ドンマイ」
「待ちたまえフロイライン。何より先にまず、陛下へのごあいさつだろう」
「えー」
「えーじゃないよ非国民」
マジかよ。
さっきの今で晒しモンになるのかよ。
私に社交界は無理かもしれん。
なんだかんだ戦場が性に合っていそうだ。
魔法が使えないハンデすら覆した私が、こうも早く心折れたんだ。
これは結構な壁だぞ。
お読みくださり、誠にありがとうございます。
少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、
☆評価、ブックマーク、『いいね』などを
よろしくお願いいたします。




